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379 パビリオンを建てる

 博覧会をやります。


 いや、俺自身具体的に何をするかわかってないけど。

 要は俺たち農場の産物の展示会なんだろう?


「何をやるかの具体案はこれから出していけばいい」


 大魔王バアルさんが言った

 スポンサー兼アドバイザー兼プロデューサー気取りで口出しまくってくる。


「それよりもまずは開催場所を決めねばな。それがすべての土台となる」


 開催場所か……。


「やっぱり魔都ですかね? 魔族の職人さんたちに見せるための催しですし」

「では魔都の一等地を会場にするとしようかの」


 えッ?


「一等地だというのに使い道のない古びた屋敷がいくつかあったろう。それをパーッと解体して更地にするがよかろう。その上に改めて会場を建設するのじゃ!」

「ちょっと待って!?」


 話が乱暴すぎやしませんかね!?


「なんで解体する必要があるんですか!? そのお屋敷借りて会場にすればいいじゃないですか!?」

「バカモン、博覧会といえば、その舞台となる会場までも展示品の一つとして気合を入れて建てるもんじゃ。テーマを統一し、関連するすべてのものにまで主張を伴わせてこそ一流の博覧会というものじゃ!!」


 なんとそこまでのこだわりが!?

 俺は博覧会を舐めていたということか!?


「大魔王様の言にも一理ありますが……」


 シャクスさんが推しとどめるように言う。


「さすがに既存の建物の解体となったら反発も予想されます。せっかく開催される博覧会に恨みつらみのケチをつけてはなりますまい」

「いや……、でもちょっとぐらいなら……!!」

「ご自身ご在位の間、そうした乱暴な処置の積み重ねで民心が離れ、ゼダン様のクーデターに繋がったのを今ならご理解できましょう? どうかご自重を」


 こうして見るとバアルさんってマジ暗君だったんじゃないの? という気が起こらないでもない。


「ですが『会場の建物もまた展示品の一つ』というご意見はたしかに真理であります。そういうところはさすが在位期間五百回も博覧会を開催した博覧会マスターというべきバアル様の一家言といったところですな」


 それ褒めてるのかな?

 褒め言葉としておこう。さすが博覧会マスター!!


「じゃあ、博覧会は会場を一から建てるということで。……場所は本当にどうします?」

「魔都にだって空き地は散見しますよ。一等地からは外れますが。その中から立地や広さなど適当なものを探し出すのがよろしいかと」


 なるほど……。

 元から売りに出している空き地ならトラブルも起こらないよな。


「あ、あの……!」


 俺たちの会話に、おずおずながらも割り込んでくる者たち。

 それはオークだった。


 代表のオークボを先頭にして、大きな集団となっている。

 っていうかこれウチのオーク全員?


「どうしたオークボ?」

「聞くと話に聞いていたのですが、我が君、博覧会とやらの会場を一から建設されるとか?」


 はい。


「ではその役目、どうか我らオーク軍団に拝命いただきますよう……!」

「…………」


 来たよ。

 ウチのオークたちのビルドマニアぶりが。


 なんか建物を作ろうとすると、すぐそわそわしだすんだから。農場の全家屋の建造に関わっていくうちに本当に普請道楽に目覚めてしまったオークたちだった。


「ど、どうでしょうシャクスさん……?」


 一応、この場で一番真っ当な意見を言うシャクスさんに確認してみる。


「いいのではないでしょうか? 会場自体も展示品という方針からすれば、建物をオークボ殿たちに建ててもらうのが適切でしょう」


『やったあ!』とオークボたちハイタッチ。

 でも本当に大丈夫? これが終わったあとすぐにオークボ城もあるんでしょう?


「ではいよいよ本当に問題は、会場の設置場所になりましたな。それは吾輩の方で探しておきましょう」


 シャクスさんが席を立つ。

 今日ここで決められることは全部決めたってことか。


「よ、よろしければ私も同行を……!!」


 オークボが食いつき気味に挙手した。


「いい家を建てるには立地から拘らなくては! 最高の会場を建設するに相応しい土地を、我々に選ばせてください!!」

「そ、それは……!?」


 シャクスさんがチラッと俺の方を見た。

 俺は黙して頷いた。オークボたちがせっかく頑張ろうとしているのだから水を差したくない。


 皆で頑張ればいいものができるだろう。

 そう思ってオークボを会場選抜チームに加えることにした。

 そしたら……。


    *    *    *


「決まりません……!」


 数日してシャクスさんがやつれた表情でやってきた。

 どうやら会場探しが難航しているらしい。


「オークボ殿の条件が厳しすぎて、要求に合う土地がまったく見つかりません……!? もう魔都中の空き地を洗い出しましたのに……!!」

「オークボ……!」


 俺が睨むとオークボはバツが悪そうに目を逸らすのだった。

 いつもは農場一の冷静で的確な判断力を持っているというのに、建物が絡むと暴走するヤツだ。

 好きなものが絡むと……、か。

 一体誰に似たのやら?


「ですが我が君! これは必要なことなのです!」

「そうです! 魔都内にある空き地は小さすぎ狭すぎて、とても開催地には適しません!」

「あんなところに設営したらこじんまりしたものになって白けてしまいます! もっと! もっと広いスペースを!」


 オークボだけでなく、他のオークたちも哀願するように言ってくる。

 建造への拘りが突き抜けてしまっておる。

 どうしてオークは誰もかれもがこんな建造マニアになった。


「とはいえ魔都にそこまで大きな土地が都合よく開いているわけもない……!?」

「魔族の国の首都なんだから当然ですよね……!?」


 オークボたちの眼鏡にかなうような土地を確保するには、それこそ元ある建物を解体でもしないと無理だ。


「だからワシが最初からそう言っておるじゃろー」


 あっちでビール飲みながらクダ巻いているバアルさんは放っといて……。


「実を申しますと、吾輩もオークボ殿たちの方針には賛成なのです。聖者様主導の博覧会ともなれば空前絶後のものとなるのは間違いありません! それをこじんまりとしたもので済ますことはできない!」


 シャクスさんまで熱くなって?


「そんな事態になったら、開催に協力する我らパンデモニウム商会末代までの恥! そこで提案があります!」


 何です?


「魔都の外に会場を作るのはいかがでしょう!?」

「どういうこと?」


 魔都以外の街か村で開催するってこと?

 と思ったが違うらしい。


「魔都は大都市ですが、都市部を囲む城壁から一歩でも外に出れば、いまだ手つかずの土地が広がっています。誰のものでもありません」


 そういうところファンタジーっぽい。


「そういう土地ならばいくらでも使い放題です。魔王様の許可を頂ければ工事可能でしょうし、いっそ都市の外を会場としてみればどうでしょう!?」

「使える土地は無限大!」


 オークボたちが沸いた。

 これによって彼らは無制限にスペースを使って思い通りの博覧会場を設営することができるのだから。


「都市から離れるのがデメリットにならんか?」


 相変わらずビールのジョッキ片手に大魔王さんが言う。


「ただでさえ交通の便不便は集客のネックじゃ。魔都内ですら中心部と離れているために繁盛しなかったという例もあるのに、魔都の外とはまた冒険しすぎではないかの?」


 特にこういったファンタジー世界では、城壁の外から一歩出るとモンスターが襲ってくるかもしれない危険地帯となる。


 魔都在住の中には、生まれてから一度も街の外に出たこともない人もいて。都市部を囲う壁の向こうは地獄だと思っていたりするらしい。


 そんな壁の向こうに出て博覧会を見てください! というのも厳しいという意見。


「いいえ! 農場から提供される展示は、そんな悪条件すら跳ね返す凄まじさを持っています! その凄まじさを制限なく発揮させることをこそ優先させたい!!」


 シャクスさん熱く語る。


「我が君! 我々も都市の外に凄い会場を拵えたくございます!」

「どうか許可を! 我が君!!」


 オークたちも懇願するのでダメとは言えず、俺は根負けする形で許可を出した。


    *    *    *


 ただ俺にとっても設営地の決定には俺なりの思惑があった。

 農場のことを一部開示するにしても、あまり多くを開示したくない。知られ過ぎて俺たちの近辺が騒がしくなるのを避けたいからだ。

 だから博覧会を開催するにしても、あまり多くのお客さんが詰めかけない方がいい。知る人は最小限でいい。

 それを鑑みれば、会場が辺鄙な場所にあった方が都合がいいと思ったのだ。


 しかし俺は、この判断がいかに甘い見通しであったかを後に思い知ることになる。

 問題は、博覧会を開催しようとする者たちへ制限を取っ払ったこと。

 街の外に会場を作ることでスペース的な制限はなくなったといってい。


 ヤツらにとって……、いや俺を含めて歯止めが効かなくなることがどんな結果をもたらすか。

 この時は想像もしていないのだった。

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