37 四天王筆頭(自称)
「という感じで……」
ウチで働く擬人モンスターの一人。俺がオークボと名付けたオークが説明する。
我がオークやゴブリンたちもすっかり人格が成長して、個性豊かになった。
オークボは、十体いるオークゴブリンのリーダー格みたいな立ち位置だ。
「雑兵と思しきモンスターを排除し、残った魔族を降伏に追い込みました。幸い魔族どもはさしたる抵抗もせず降伏を受け入れましたので、こうして捕えおきました」
説明ご苦労。
ここまでに至る流れは理解した。
しかしウチのモンスターたちは強いなあ。
あっちに積み上がっている粉々になった骨の山。骨付きチキンの食いカスかと思いきや、あれ全部スケルトンって言うモンスターが、粉々に粉砕された跡らしい。
百体ぐらいいたんだってさ!
それを、俺が駆けつけてくる短い間に全滅させたのかよ?
こっちはたった十人……。いや、俺に報告に来て、一緒に駆けつけたゴブリンのゴブ吉を除けば九人か。
……百対九で、瞬殺かあ。
「キミらが強いのはわかったけれど、あまり無茶しないでくれよ。キミらに死なれたら泣くからな」
「我が君の心遣い、痛み入ります。そんな我が君のためならば、我ら死も厭いません」
あれ?
逆効果?
彼らとはそのうちじっくり話し合うとして、今は目前の問題に集中しよう。
「で、これが問題の魔族さん?」
現在浜辺で正座中。
喉元にゴブリンの鎌を突き付けられて、なんか少しでもおかしな動きをしたら喉がパックリ行くぜ? という状態。
捕えられた魔族は全部で三名。
指揮官が一人で、あとの二人は副官というか付き人って感じだな。
で、その指揮官然とした魔族が……。
……綺麗な女の人だった。
プラティやヴィールとはまた違ったタイプの美人で、お色気ムンムンのお姉さん。
ただ耳が長かったり、肌の色が褐色がかっていたりと普通の人間とは違う点がいくつかあって、それが魔族の特徴らしい。
その部下である、後ろに控える副官二名も両方女性。
やはり魔族の特徴を有していたが、ただし一番偉そうなお姉さんよりは、やや歳若。
「魔王四天王の一人で『妄』のアスタレスと名乗っていました」
「『モー』?」
多分あだ名とかなんだろうが、『モー』って何? 牛の鳴き声?
……ああ。
「どこを見て納得している!? お前の想像しているのとは一切違うからな!!」
おっぱいガン見しているのが即座にバレた。
そうか、牛みたいに大きなおっぱいだから『モー』じゃないのか!!
「『妄』のアスタレス。……聞いたことがある名だ」
俺と一緒にここまで駆けつけてきたアロワナ王子が言う。
「魔王軍の大幹部だ。そんな大人物が、何故こんなところに?」
「決まっているだろう人魚族の王子よ! 我ら魔族が貰い受けるはずだったものを、受け取るためだ!!」
アロワナ王子の正体を一見にて看破してくる。
さすが魔王四天王?
「ま、まさか……、プラティのことか!?」
「そんな名だったか人魚の才媛姫は? まあどうでもいいが、その姫は元来我が魔族の陣営へ輿入れするはずだった者。その正当な権利を行使しただけのことだ」
「バカな!? その話は既に決着したはずだ! 魔族側の交渉役も、最後は納得して帰って行ったぞ!?」
何やら揉め事が続いているらしい。
とにかく魔族側が納得できずに戦力を送り、ウチの子たちによって見事返り討ちに会いましたと言うところが今の状況か。
「魔族を舐めるな。我々は、欲しいと思ったものは必ず手に入れるのだ! そして我ら魔族の面子を潰した者には必ず落とし前をつけさせる。お前のことだ!」
と、女魔族のアスタレスさんが俺の方を睨みつけた。
俺のことか……。
「聖者とはお前のことだろう!? 花嫁泥棒のお前を我々は決して許さぬ! 多少強力なオークやゴブリンを率いているようだが、それでいい気になるなよ!! 我ら魔王軍は、オーガやサイクロプスと言った大型擬人モンスターも保有しているのだ!!」
「強力なオーク? ゴブリン? いやー照れるな」
「褒めてないよ! とにかく我らと敵対したお前に明日はないということだ。いかなる手段を用いても必ず殺……!」
ゾクリ。
という悪寒が走って、アスタレスさんの悪罵が止った。
この悪寒は、ここにいる誰もが感じているようだ。
『……誰が、誰を殺すと?』
「あ、先生」
気づけばノーライフキングの先生が来ていた。
悪寒はこの人の仕業か。
「ののののののの……、ノーライフキング!?」
「あ、そう言えばアロワナ王子は初対面でしたっけ?」
ウチのご近所さんなんですよ。
でも何故ここへ?
『騒ぎの気配が伝わってきましたからな。心配になってやってまいりました』
「それはそれはご丁寧に……!」
『そしてそれは、ワシだけではないようですぞ』
バッサバッサと羽ばたきの音。
見上げると、そこには空を覆わんほどに巨大な竜身が……。
見慣れた竜身が……。
「ヴィールもやって来た……!」
ご自分の山ダンジョンで鳥を追いかけ回してたんじゃないですっけ?
ドシンと砂浜を揺らしながら着地。
その目は、アスタレスさんへと注がれている。
『殺すとほざいたな……? 矮小な魔族風情が。我がご主人様を……!』
「え? え? え!?」
アスタレスさんとしては悪夢の真っ只中だろう。
世界二大災厄。
どちらか一方でも魔族全体の存亡を左右しかねない二種類の脅威。アンデッドの王とドラゴンが、二つ揃って目の前に現れたのだから。
『我がご主人様を害するということは、おれを敵に回すということだな? 虫けら同然の魔族どもが。ガイザードラゴンの娘、グリンツェルドラゴンたるこのヴィールにケンカを売るとは……!』
火を噴くような咆哮が鳴り渡る。
『種族ごと滅ぼされてもかまわんということだなッッ!?』
「「「ぎゃあああああああーーーーーーーーッッ!?」」」
アスタレスさん始め、魔族三名戦意喪失。
今にもオシッコをちびりそうなほどビビりが極まっていた。
そして彼女たちを乗せてきた魔族の船は……、船乗りとかがまだ残っていたのだろう。
とにかくアスタレスさんたちを置き去りにするのもかまわず、舳先を返して大海原へと逃げだしていった。






