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368 武泳大会・最強の敵

 まあ、俺にとってはそんなことよりも震撼すべきことがある。


 大会全体の盛り上がりよりも、応援してくれる妻たちのことよりも。

 誰が最強かなんて、そんな議論よりもずっと重要なこと。


 次の対戦相手がナーガス王だということ……!!

 人魚王ナーガスさんはプラティのお父さん。

 つまり俺にとっては義理の父親という間柄。


 ……そんな人と試合とはいえ戦うなんて……。


 ……やりにくい!

 ……絶対やりにくいって!


 娘婿としては粗相しちゃいけないナンバーワンの相手じゃないですか!?

 そんな御方とどう戦えと言うの!?

 ガチで歯向かったら関係悪くしそうだし、ヘタに手を抜いても怒られそう!?

 接待プレイはOKな方ですか!?


「……何をキョドついてるの旦那様?」


 プラティが冷酷さの滲み出るような声で言った。


「勝つのよ! ここまで来たら立ち塞がる敵すべてを打ち砕いて勝利の頂を踏みしめるの! パパも兄さんも皆殺しよ!!」

「キミの親族ですよね!?」


 人魚王一家は血の気が多くていけないな!?

 やめてよジュニアに生まれた早々骨肉の争いを見せる気か!?


「いやもう……、余計なことを考えずにベストを尽くすことを考えよう」


 多分それだけが後悔しない選択であろう。


 俺は、再び口の中にエアもずくを放り込み、水中呼吸を可能にする。


「もう不用意に飲んだり吐いたりしないでよね? 残りが少ないんだから」

「……(ゴクン)。わかった! あばばばばばばばば……!?」

「だからー!!」


 プラティから新たなエアもずくを貰い、もう俺これ以上は喋りません。


 ついに到達。

 準決勝戦第一試合会場。


 そこには既に巨人のごとく聳え立つ男人魚が待ち受けていた。


 人魚王ナーガス陛下。

 海を統べる人魚族を統べる王。


 その大きさ凄さは今日一日で実感できた気がする。

 これまではあんまよくわかんなかったけれど。


 大会十五年連続制覇って何よ?

 完全に一時代築き上げとりますやんけ。


 あまりに強くなりすぎて控えるようになったのか、ここ十年ほど出場辞退して後進に道を譲るようになったが、そこからさらに方針を翻しての今年出場。


 修行の旅から帰ってきたアロワナ王子のことが無関係ではまさかあるまい。


 この人も国王として、次代に託すことを考え始めているのだろう。

 そのためにも決勝で、実の息子に相対する必要がある。


 譲りたい……!!


 俺は心から思った。

 そんなドラマティックな大会構成に俺ごときが水を差したくない。

 色んな方面から恨みを買う前に、みずから身を引いてしまいたい。


 しかしそれを許してくれないウチの妻。


「瞬殺よー! パパなんてけちょんけちょんの粉々のズタズタにしてカニのエサにしてやってー!」


 だからなんで実の父親相手に容赦なく言える?


「もっすぅ……!!」


 ほらお義父さんダメージ受けている!!


「負けちゃダメよダーリン! いい気になっている娘婿に真のダンディを教えてあげるのよ!!」

「いい気になってないですってがぼぼぼぼぼぼ……ッ!?」


 くっそ、エアもずくを吐き出してでも訂正せずにはいられなかった。

 プラティに新しいもずくを貰って……!


 そしてついに準決勝。

 試合開始!


    *    *    *


 こうなったら先手必勝だ。

 さっさと戦ってさっさと終わらせようと思い、俺は初手より奥義にて仕ることにした。


『至高の担い手』を発動させ、海水を掴む。

 すると海水は、自分たちのポテンシャルを最大限発揮し潮流を作り出す。


 渦潮、発動。


『至高の担い手』によって生み出された渦は、いわば海中に起きた竜巻。

 一回戦も二回戦もこれで勝った。

 三回戦たる準決勝も決まり手にさせてもらう!


 ……と、すんなりいったらいいんだがなあ。


「もっす」


 魔竜のごとく迫りくる渦潮に、人魚の王は少しも怯むことない。

 むしろ迎え撃つように両手をかざし出した。


「もすもすもすもすもすもすぅ……!!」


 するとなんと、人魚王さんのかざした右手と左手のそれぞれから渦潮が発生したではないか!?

 俺が生み出したのと同じような。


 ってか同時に二つ!?

 渦潮は衝突しあって、互いを打ち消し合うが、ナーガス王のは二つあるだけに威力で優って、渦一本だけ俺に届いた。

 避けなければ飲み込まれてグルグルされていたところだ。


 俺は『至高の担い手』で渦潮を作れたが、ナーガス王には当然そのギフトはない。

 ならどうやって潮流を操り、渦を発生させたというのか?


「それがダーリンのダンディよ」


 リングサイドのシーラ王妃。

 解説が解説になってない。


「ダーリンの迸るダンディは、潮流さえも従うということよ。やることにいちいち理由を求める時点でボーイだということに気づくのね!!」


 わけわかりません。

 しかしこうなっては距離を開けていては不利。

 渦潮による遠距離攻撃の火力は明らかにあちらが上なのだから。接近戦に持ち込むしか勝利の目はない。


 今こそ邪聖剣ドライシュバルツを抜き、突進と共に斬りかかる!


 しかし相手も対応策を持っていないわけじゃない。


 男人魚といえば盾と矛。

 人魚王ナーガスもまた戦いの嗜みとして揃えているものを背負っていたが、それを両手につがえて迎え撃つ。


 ガキィン、と金属音が鳴った。


 何と人魚王が突きだした三又矛が、俺の邪聖剣と正面からぶつかり合って押し合う。

 互角。


 いや待て。

 邪聖剣ドライシュバルツと互角だと!?


 冥神ハデスが地上制圧のために生み出した七聖剣のうちの一振りが!?


「もっすもすもす」

「驚いているようねえ……!」


『もす』しか言わないナーガス王に代わってシーラ王妃が通訳。自慢げに。


「その聖なる矛こそ海神ポセイドスが持つ神器トライデント。その複製品!」


 複製なんかーい。


「人魚王家に代々伝わる王の証よ。人魚王は、このトライデントを受け継ぐことによって王位を確固たるものにするのよ!」


 神の事物の複製であれば神の生み出したもの。

 俺の邪聖剣と同じだ。


 まともに打ち合える根拠にはなるか。


 ヤバい。

 人魚王想像を遥かに超えてマッシブ。


 距離を取ったら渦巻きで攻撃仕掛けてくるし、接近したら神器トライデント。

 間違いなく魔王さん級の実力。


 この世界の王様って皆これぐらい強くなきゃいけないの!?

 これ、けっこう本気でやらないとふとした拍子に押し切られる!?


 そもそも俺がこんな真面目に戦ったことって今まであったっけ?

 オークボやゴブ吉たちに任せてまったくなかった気がする。


 普段から戦ってないと、根源的な戦闘本能が養われずにすぐ押し負けそうになる。

 そういう意味では大いに危うげな勝負に持ち込まれてギリギリのところであったが……。


    *    *    *


「試合終了、勝者、プラティ王女の旦那」


 会場が湧き返った。

 そうであろう。

 現役時代より当たり前のように優勝を重ねてきた負けなしの帝王が今、ついに敗北したのだから。


 敗因はスタミナ切れ。

 さすがの不敗王も加齢と、長い政務によってできたブランクが響いたようだ。


「も、もっす……!!」


 いや俺も随分息上がったけど……!!


「ぷ、プラティ、新しいもずくを……!! 新鮮な酸素を……!!」

「はいはい、頑張ったご褒美に好きなだけお食べー」


 極限まで体を酷使してわかった。

 このエアもずく、水中で息するためだけでなく急激な運動のあと酸素を補給するためにも具合がいい。


 正直俺ももう戦えるほど息が続かなかったので、先にナーガス王が降参しなかったら俺の負けだっただろう。

 体が動かずに攻撃を回避できたかもわからん。


「もっす……!」


 降参したはずのナーガス王の方から俺の方へ歩み寄ってきた。

 勝った俺の方がバテて動けない……!


「もっす!」

「『聖者の実力しかと見せてもらった。益々安心して娘を任せられる』だそうですわ」


 シーラ王妃、翻訳ありがとうございます。

 激闘の末に娘さんの結婚相手としてより強く認めてもらったのなら嬉しい。


 さて、とにかくあと一試合、決勝戦が残っているわけだが。

 ……もう体が動かん。

【お知らせ】

異世界農場外伝の『異世界を彷徨えJK勇者』が2019.7.2~更新再開しています。

本編にもちょくちょく登場する勇者モモコが主役。

下のリンク↓(ランキングタグ最下段)から読むことが出いますのでよろしければ。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
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