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362 再び深海へのいざない

 アロワナ王子が遊びに来た。

 一番喜んだのは当然ながらフィアンセのパッファ。


「旦那様ーッ! 会いたかったーッ!!」

「愛する未来の妻よ! 私もだぞー!!」


 二人抱き合って、その場で回転しておる。

 それを俺は冷めた視線で見守るのであった。


「……アロワナ王子が前に遊びに来たのって三日前ぐらいじゃなかったっけ?」

「それでも二人にとっては永遠に等しい空白だったのよ」


 隣にいる我が妻プラティが悟ったように言った。


 最近ようやくわかってきたが人魚という種族自体、恋愛感情というものが非常に深い種族であるようだ。

 業といってもいいぐらいの深さ?


「聖者殿! ご無沙汰しておりますぞ!!」


 恋人と睦み終えたアロワナ王子がこっちに向かってくる。


「だからほんの三日ぶりですけどね」

「我が甥っ子は元気にしておりますかな!? それはそうと今日は面白い話があるのですぞ!」


 何やらもったいぶったように言ってきた。

 今日はただ漫然と遊びに来たのではなく何ぞや用件があるようだな……?


    *    *    *


「武泳大会?」


 何それ聞いたことがあるような?


「旦那様……、アレよ」

「あーアレね!? わかるよアレでしょう!? アレアレ。アレだったよねアレ!?」

「そうアレよ」

「アレかー」


 あとでプラティからこっそり教えてもらった。


 武泳大会というのは人魚族が開催する一種のお祭り。

 しかも勝ち負けを競い合う武闘祭だ。


 腕自慢の人魚たちが出場し、一対一の試合形式で戦って、戦って、戦い合わせて、最後の一人になるまで戦う。

 そうやって最強を決めようという類の催しらしいな。


「ああ、思い出した! 去年もそんな話していたよね!?」


 たしかアロワナ王子が優勝したとか。


「うむ! 今年も季節が巡ってきたというわけだな! 私も今年は前回優勝者としての参加! 挑戦を受ける側としてプレッシャーを受けておる!!」

「今の旦那様に敵うヤツなんて人魚国にはいないよ!!」


 ……。

 テンションたっかいなあ、このカップル?

 まさかもう祭りの雰囲気に毒されているのか?


「……武泳大会は、人魚国でも一番盛り上がる催しの一つだから。特に男人魚は興奮するわよねー」


 武泳大会に出場するのは男の人魚のみ。

 つまり男の意地とプライドが懸かった勝負となるわけで、そりゃあ開催前から盛り上がるということらしい。


 特にアロワナ王子は、去年の同大会で優勝している。

 ディフェンディングチャンピオンとして気合も入ろうというものだ。


 思い出せば、より克明に思い出せてきたが、そうアロワナ王子が『修行の旅に出る!』とか言い出したのも、去年の同大会で優勝したのがきっかけじゃなかったっけ。


 王子も、あの旅を経て随分お変わりになられた。

 そのきっかけとなった大会というのだから、感慨深いものがあるなあ。


 あれからもう一年が経ったのか。


「一年を経て、再び大会が開催される……!?」

「そこで聖者殿にご提案があるのだが」


 アロワナ王子がズズズイと迫ってきた。


「今年の大会は聖者殿もお越しにならないか?」

「はいぃ?」

「実は去年の大会にもお誘いしようかと思ったのだが、何分開催場所は海の中。陸人の領域ではない上に、聖者殿は農場から動かない様子なのでなかなか誘いづらかった……!」


 あらあら。

 そんな風に気を使ってくださっていたなんて?


「しかし最近の聖者殿はあちこち出掛けられているようだし、何より一度人魚国へ来訪くださったからな。どうだろう、また人魚王夫妻に孫の顔を見せてあげてはくださらんか?」


 とのご提案。


 ……そうだのう。

 俺としても嫁の実家とは良好な関係を保ちたいし、機会があれば何度だって訪ねるべき。


 大きなお祭り。


 来訪の理由としては充分じゃありゃしませんか。


「よし、行きましょう」

「やったあ!」


 OkLet'sGo的なノリで行くことが決まった。

 プラティの実家なので当然我が妻プラティと、二人の宝ジュニアも伴って行くことになるだろう。


「やったわねジュニア。またおじいちゃんとおばあちゃんに会えるわよ?」


 プラティが息子に話しかける。

 ジュニアの方は当然まだ理解できる年頃でもなく、母親の顔をぼんやり見返すのみだった。

 だってまだ赤ちゃんだもんなー?

 言葉なんてわかるわけないよなー?


「…………」

「……本当にわかってない、よね?」


 赤ちゃんの時折すべてを見透かしたような表情何なの?

 そして『そんな表情してませんでしたよ?』と言わんばかりに、すぐさま興味を別のものに移す。


「まあ、とにかく喜んでお招きに応じたいと思いまっす!」

「ありがたい!! 前回同様人魚国を挙げて歓待させていただきますぞ!!」


 こうして訪問の約束を交わした上で、アロワナ王子は今日も農場で存分に遊んで行かれた。


 俺やプラティとお喋りを楽しんでいったあと、きゅうりの糠漬けをボリボリ貪ったり、相撲したり。

 留学生に人魚国についての授業をしたり、そしてまたきゅうりを食って相撲したり。

 そして一際パッファとイチャついてから海にお還りになられた。


    *    *    *


 後日。

 ついに再び人魚国を訪れる日がやってきた。


「出航!」


 魔法蒸気船ヘルキルケ号に乗って、波を切って進む俺たち。


 農場から人魚国へと至る道は一旦航路にて。

 人魚国が海上に確保している外交窓口である楽園島まで行き、そこから魔法薬製のシャボン玉の中に入り海中へ。


「また割れたりしないだろうな……!?」

「ちゃんと改良したから大丈夫よー」


 今回の人魚国行きのメンバーは、俺、妻プラティ、息子ジュニアのファミリーに、当然のようにヴィールが加わる。


 今やウチのジュニアあるところヴィールありみたいな感じになっている。

 これから先ジュニアがすくすく育って、誰よりヴィールが速やかに子離れしてくれるのか?

 そこが若干不安なところだ。


 以上のメンバーで再び訪れます人魚国。

 今度は一体どんな事件が待っていることやら。


「しかし、巨大魚はまだ見えてこないのかな?」


 人魚たちの住む人魚国は、大きな大きな魚の体の中にある。

 なんかの童話みたいな話だが、その巨大魚がそろそろ海底にうっすら輪郭ぐらい見えてきてもいいぐらいだが……?


「今日行くのはそっちじゃないわよ」

「え? そうなの?」

「今日は武泳大会なのよ。男たちの槍と筋肉と闘志がぶつかり合う血祭。とても街中でやれる規模じゃないのよ」

「そんなに激しいお祭り!?」

「だから武泳大会は、人魚国の外で……、あ、ほら見えてきた。特設会場よ」


 マジだ。

 暗い海底にほのかな光。

 そして数え切れないほどの人の気配。


 近づけば近づくほどわかる。

 大会のためだけに設えられた野外闘技場。

 そこに集う多くの闘士たちと、それ以上に何十倍もの数詰めかけた観衆。


 異様な熱気に包まれていた。

 この規模、この激しさ。

 たしかに人魚国のある巨大魚の腹中に収まらないと言われて納得だ。


「これが……! 武泳大会……!?」


 人魚国最大規模の戦闘大会。


 男人魚がプライドを賭けて力と技をぶつけ合う。

 そして最強を決める催しだった……!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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[一言] 吉幾三って英語で言うとなんていうと思う? OK Let's Go よし,いくぞう
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