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357 天使試験

 俺です。


 今日は変わったお客様をお招きしております。

 いや、勝手に押しかけて来たというべきか……。


 知恵の神ヘルメス。


 天界の所属では珍しい、我が農場へ定期的な訪問をする神だ。

 地の神や海の神はホント皆よく来やがるんだけれど。


 で、そのヘルメス神が今日は何の用ぞな? と尋ねてみれば……。


『いや、悪いねえ聖者くん。いきなりお邪魔しちゃって……』


 と我が農場謹製の粕漬けを喰らいながら言う。


『とても重要な儀式を行うのでね。天界でやってもよかったんだけど、キミやパッファくんにも同席してもらった方が判断が捗ると思ってね』


 判断?

 何か判断させられるんですか?

 まさか世界の命運を左右するような判断とかじゃないでしょうね? 『人は悪か否か』とか?

 天の神は、そういうの安易に結論出してカタストロフしそうだから怖い。


 あとパッファも参列?

 人魚族で六魔女の一人の、人魚国の王子アロワナさんと婚約しているパッファに何用?

 天の神との接点なんてないと思ってたけど?


『いや、やっぱあの子と一緒に旅してきた彼女の意見も聞きたくてね。っていうか当の本人はまだ来てないんだけど……』


 ?

 一体何です?

 誰が来ると言うんです?


 益々訝っていたら、どこぞから聞こえてくる轟音。

 空気を斬り裂くような高い音で、こちらに近づいているようにも聞こえる。

 ドップラー効果で高音に聞こえているのだろう。


 音は近づくほどに高さと大きさを増し、俺たちの頭上でやんだ。

 そしてフワッと降りてきた。


「へへへーい、おひさー」

「ソンゴクフォンじゃないか」


 天使の女の子。

 数千年前に破壊されたのを俺が修理して復活させたのがソンゴクフォン。

 今の時代、現存している天使はウチにいるホルコスフォンとソンゴクフォンの二人だけ。


 もう一人の方のホルコスフォンに比べると小柄で体つきもなだらか。

 幼い少女の印象がある天使だ。


「なんすかーちょっと? こっちゃマジ忙しぃーんすけどー? ってか、あーしを呼びつけるとかマジ何様っすかぁー?」

『神様かな?』


 喋り方が何やら珍妙だが。


 察するに今日のメインはソンゴクフォンか?

 だとしたらパッファが臨席するのも納得かな。パッファは一時期ソンゴクフォンと共に地上を旅して回っていたことがあるからな。

 その関係か?


「……そう言えばソンゴクフォンは、旅が終わってからどうしてたの?」

「特に何も言われてなかったんでぇー、あちこち気ままに飛び回ってたっすぅー」


 へぇー……。

 道理で農場で見かけなかったわけだ。


「最近もぉー、アレキの旦那のダンジョンにお呼ばれして中ボスしてたっすよー。無双してマジ爽快っすわー」

「そんな血も涙もないことを……」


 かつて世界を文字通り破壊しかけた神の兵器が中ボス……。

 ラスボスでも不足はないというのに……。


『でもまあ、このまま放置ってわけにもいかないと思ってね』


 ヘルメス神が言う。


『思い出してもみなさい。何故私が、アロワナ王子の旅にソンゴクフォンを同行させたか?』

「俺は何も聞いてないけど?」


 そもそもソンゴクフォンを旅に出させたこと自体けっこう後になって聞いた俺だし。

 どうしてソンゴクフォンは、アロワナ王子たちに同行したんだっけ?


『常識を身につけさせるためだよ! 天使みたいに壮絶なパワーを持った存在が真っ当な判断力もなしに動き回ったりしたらダメだろう!! 気まぐれでフルパワーをブッパされたら、それだけで世界が終わる!』


 なるほど。

 それでアロワナ王子やパッファという指導役を付けつつ、旅という経験の宝庫で常識力を磨かせようと。


 神様にしては真っ当な判断ではないか。

 押し付けられたアロワナ王子やパッファの迷惑を度外視すれば。


『王子らの旅も終わったところで、ソンゴクフォンに期待していた常識力がしっかり身に着いたか、たしかめてみようと思います!』

「今?」

『そう今!』

「なんで旅が終わってすぐしなかったの?」

『忘れてたわけじゃないよ!!』


 忘れてたのか。


 まあどちらにしてもソンゴクフォンみたいな超越者がふとした拍子に世界滅ぼしてきたら堪ったもんじゃないので、テストは有意義だな。

 俺も謹んで見守らせてもらおう。


『じゃあ、これからソンゴクフォンに色々質問してみるよ! 様々な状況にどういう対処をするか、シミュレートで判断してみようではないか!』


 質問一。


『ソンゴクフォンは道を歩いていました』

「あーし飛べるんでぇー。徒歩ることまずねぇーっすけど?」

『あくまでシミュレーションだから! ……で、道行く先に人が倒れていました。どうやら具合が悪いようです。キミならどうする?』


 常識を問うこのクイズなら、倒れた人を介抱しつつ、近くの家なりに運んでいくというのは正解だろう。

 果たしてソンゴクフォンは、どう答える?


「その人を苦しめている悪者を処する」

「『はれえええええーーーーッ!?」』


 俺もヘルメス神も絶叫。


 何故そんな答えに!?

『処する』って処刑するの意!? 処刑されるべき悪者は登場してないよ設定を広げないで!?


「わかるっす。苦しんでいる人の陰には必ず悪者がいるっす。悪徳領主とかバンパイアとかー」

「いないよ!?」


 いないよ、ねえ……!?


「ただ助けるだけじゃ、またすぐ不幸になるっすぅー。災いを元から断つためにも、討ち入りデストロイは基本っすぅー。王子と姉御もよくやってたっすぅー」

「パッファ!?」


 旅の同行者であったパッファに迫ると、即座に目を逸らされた。


「どういうことなの!? やってたの!?」

「旅の行く先々に、都合よくそういうのがいたんだよ……。ノーライフキングとか、バンパイアとか、自動人形とか悪徳領主とか」

「なんでそんなオールスター気味なの!?」


 キミたちの旅イベント目白押しで楽しそうだね!?


「つまり、すべての苦しみの根源には悪が存在するんすよぉー。悪さえ除けば幸せっつースンポーっすよー」

「その考え危険じゃない!?」


 望ましくないものを取り除けば解決するという思想。

 容易く危険な方向へ転がりがち。


「どっ、どうするのコレ? 旅した結果、身についた常識がヤバい方に傾いてない?」

『ううむ人選間違ったかな……!? いいや、それでも私は信じる! 第二問だ! 第二問できっとよりよい回答を示してくれる! はず!』


 そうだな。

 次の質問に希望を懸けてみよう。


 恐らく最終設問。それぐらい第一問の回答が酷かった。


 では行こう!

 問題!


『アナタは絶体絶命のピンチです! 世界を救うには仲間の命を犠牲にしなければいけません! 世界と仲間、一体どちらを取りますか!?』


 なんか凄いありがちなのきた!?

 究極の選択!


 世界すべての平和を優先させるか、それとも苦楽を共にした家族とも言うべき仲間を助けるか。


 全か一か? 公か私か? 理か情か?


 まさしく絶対重なり合うことのない大局的問題。どちらも正しいというべき問いに、誰もが同じ結論を出せるとは限らないだろう。

 その質問に、ソンゴクフォンは、どう答えるのか。


「……仲間っす!」


 おお。

 あまり悩むことなく、しかも決然と言った。


「仲間を見捨てて掴める勝利などないっす! 世界を救うためには仲間は必要! だからあーしは仲間を絶対見捨てたりはしねーからー!」


 おおおおおッ!?

 いいぞ、なんか良識的な物言いじゃないかよくわからんけど!?


 仲間との絆!

 それが旅によって培われたもっとも大事なものなんですね!

 それをアロワナ王子とパッファが、彼女に教え込んだんですね!?


 ねえパッファさん!?


「まあ……!?」


 気恥ずかしいのかパッファが視線を逸らしたぞ照れ屋さん。

 やっぱり心配なかった!

 ソンゴクフォンは旅の結果大事なものを学び取ったのだ!


「そして仲間と力を合わせて……、敵をボコボコにするっす!」

「ええーッ?」

「敵をボコる時は皆で。とりま袋叩きがデフォだってアニキと姉御に教わったっす! 世界がアブない時は、必ずヤバいことしてる悪いやつがいるっす! ソイツをボコれば万事解決っすー!」


 仲間は大事だが、皆で袋叩きするために仲間は大事だった。

 しかも危機への対処が悪人の排除以外ないとばかりの口振り!?


 この回答は正解なのか?

 ソンゴクフォンが旅を通じて良識を獲得したかどうかは、テストの結果微妙なところだった。

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