354 新米皇帝発展記その一
おれの名はアードヘッグ。
新たなガイザードラゴンに選ばれた男。
……いや、半ば押し付けられ気味だったんだけども。
先代ガイザードラゴンであった父上を滅ぼし、その功で後継者に擁立されてしまった……。
実力的にはアレキサンダー兄上やヴィール姉上のような格上がいるというのに。
二人とも称号に興味ないから……。
そんなわけで誰かがやらなきゃいけないなら、おれがガイザードラゴンを務めねばなるまい。
ドラゴンの新しい時代。
竜が人類始め様々な種族と融和していく時代の先駆けとなりたい。
このおれが、皇帝竜として。
そんなわけで新即位したおれが最初に行わなければいけないのは居城作り。
本拠がなければ皇帝竜も示しがつかないからな。
* * *
そこでやってきたのが龍帝城跡。
おれの前にガイザードラゴンであった父上が根城としていた極大ダンジョンだ。
しかしそこは今、ただの更地と化していた。
『うわー……』
おれ、あまりの荒涼ぶりに立ち尽くす。
何もない。
ただ土が剥き出しの平地あるのみ。
世界唯一にして最大規模の城郭型ダンジョン龍帝城。
かつてここにあったはずなのに、見上げるような威容で聳え立っていたはずなのに。
影も形もなくなっていた
何故!?
『いや……、そうじゃないかなって気はしてたんだけど……!?』
心当たりはあった。
城郭型ダンジョン龍帝城は、ガイザードラゴンたる父上の放つマナによって実体化していたダンジョンだ。
通常地形によって世界中を対流するマナに淀みが生まれ、淀んで高濃度化したマナが空間を歪めて生みだされるのがダンジョン。
しかし、雄大なる自然の作用でしか生み出されないはずのダンジョンを、一個の生命が放出するマナの濃度で生み出す。
それができる唯一の存在がガイザードラゴンだった。
父上は、ご自分から噴出されるマナで時空を歪め、実体化させて、巨城を作り上げていたのだ。
だからこそ父上を倒すことによって龍帝城は消滅した。
原因が消えれば、結果も消え去るのは道理。
そんなわけで今の龍帝城跡地は、虚しいばかりの荒野になってしまっていた。
『城に鎮座して、皇帝気分を演出しようと思ったのに……!?』
皇帝の称号を得たドラゴンである。
やっぱりそれなりに豪華な巣に住まわなければ示しがつかない。
父上からガイザードラゴンの称号を引き継いだのだから、居城も引き継ごうと考えていたのに……!?
その居城が霞のように消え去っていたとは……!?
『何を当たり前のことに呆然としている?』
『うわッ!? 父上!?』
突然背後から話しかけられたので振り返ったら、そこに豆粒みたいな小竜がいた。
この小竜こそ先代ガイザードラゴンのアル・ゴール父上であった。
おれやアロワナ殿たちから袋叩きに遭って敗北した父上は、かつての万能を失い、こんな小さくなってしまったという。
『父上、いつの間にこちらへ? 聖者の農場に残ったものとばかり……!?』
『おれもあそこで食っちゃ寝生活を満喫しようと思っていたのだが、聖者のヤツが「働け」などと言いだしてきてな。働きたくないから逃げてきた』
『働きなさいよ……!?』
『くそ聖者の偏狭め。ヴィールのヤツが実質食っちゃ寝しているのに何故おれは働かなくてはならんのだ?』
ヴィール姉上が既にいるから、それ以上特例を作りたくないんでは?
それでおれのところに逃げてきたと?
『何故よりにもよって、おれのところへ……!?』
『そりゃお前が次のガイザードラゴンなんだからな、先代のおれを敬ってくれるだろう』
勝手なこと言ってんなこの竜。
まあ一度は滅び去って、こんなに矮小な存在と成り下がってしまった父竜を、さらに潰そうという気も起きないから……。
現状このままでいいか。
『おれを頼って来てくださったのは光栄ですが、しかし今のおれに他をかまう余裕などありませんよ?』
『ほう?』
『自分のダンジョンも持たない家なし竜から突然ガイザードラゴンに伸し上がってしまいましたからな。新居を探し出すのが当面の問題です』
アテにしていた龍帝城は、ご覧の通り霧散してしまったし……。
皇帝竜が家なき子では示しがつかん。
『何を言っているお前? 家がなければ作ればいいではないか?』
『はあ?』
『お前は……、自分がどれほど超越存在になったのか理解できてないな。いいか? お前はガイザードラゴンとなったのだぞ?』
はい。
だから苦労しているのではないですか。
ホント身の丈に似合わぬ肩書きを得るものではないわ。
『ならお前の力で新しい龍帝城を発生させればいいではないか』
『え?』
いやいや、待ってくださいよ。
特にマナ淀みができないような地形にダンジョンを発生させるなんて、並大抵のマナ濃度では不可能。
『そんな高濃度高出力のマナを放出できる一個の生命体といえば、それこそガイザードラゴン以外にいないでしょう』
『だからお前が今そのガイザードラゴンではないか』
『えー?』
そういやそうでした。
『お前が受け継いだのはガイザードラゴンの名前だけではないこと、既にわかっているはずだ。「龍玉」をその身に埋め込まれたお前は、宿す力もガイザードラゴンなのだよ』
言われてみれば……。
過去のブラッディマリー姉上との戦いでも、おれが発揮したパワーは以前とは比べられないぐらいに強かった。
……いや、戦ったのはほとんどヴィール姉上だった気もするけど……。
とにかく自分でもビックリするぐらいに自分が強かった。
『あれもガイザードラゴンとなったから。「龍玉」を受け継いだからだと?』
『試しにマナを放出してみるといい。お前好みの龍帝城が生まれることだろうぞ?』
……いまだ半信半疑だが。
父上の勧めに従ってみるか……?
マナ放出!
ふぉおおおおおおーーーーッ!
……。
……おッ?
なんか本当に実体化し始めてきた。
おれのイメージを形にした、おれの龍帝城が……!
『これがおれの城……!?』
かつて父上の龍帝城があった地に、おれの新しい龍帝城が築かれる。
おれが新たな皇帝竜として君臨し、その威光を知らしめるための城が……。
完成したけど……?
『なんだこれはああああーーーッ!?』
全然城じゃなかった。
というか建物ですらない。
なんだかよくわからない素材で盛り上がった山みたいになっている。
『イメージが足りんのだ未熟者』
小竜姿の父上から窘められる。
『もっと明確なイメージの下に実体化させねばちゃんとした龍帝城はできない。お前はまだまだ足りないものが色々ありそうだな。膨大な竜力だけでガイザードラゴンは名乗れない』
父上そんな。
まるで立派な先輩みたいな口ぶりで?
『引き継いだ力だけでなく、もっと多くを蓄積しなければ本物になれないということだ。真のガイザードラゴンにな。どうやら鍛え甲斐がありそうだ』
『何をやる気なんです!?』
『お前の治世は大変だぞ? 何しろガイザードラゴンでないのにガイザードラゴン級の力を持ったヤツがたくさんいるのだから。アレキサンダー、ブラッディマリー、あとヴィール。早くアイツらと同じラインに立たなければな』
『あの方たちと同列になる必要があるんですか!?』
『ガイザードラゴンになるなら当たり前だろう。さあまずはヤツらに負けないイメージ力の構築だ! 巨大にて緻密な龍帝城のイメージを練り上げるのだぞ!』
『やめてえええええッ!?』
何か知らんが、一度は倒した父上から皇帝竜のレクチャーを受けることになったおれだった。
皇帝竜ガイザードラゴンとして過ごすのは、思った通りに大変だ。







