344 ダンジョンの価値
シルバーウルフさんによる冒険者講座はまだ続いております。
S級冒険者の、ダンジョンで生き抜くための知恵と注意力には感嘆されるばかりであるが。
それ以上に、S級冒険者さんの方が驚きおののいていた。
先生のダンジョンに。
「何なんだこのダンジョンはああああああッ!?」
という具合に。
「またマナメタルの鉱石があるううううッ!? 五つ星の洞窟ダンジョンからしか採掘されずうう! 小指の先程度の一欠けらでも持ち帰れば一生遊んで暮らせるというマナメタルがあああああッ!?」
そういやドワーフ王のエドワードさんも驚いていたっけ。
エドワードさんの場合驚きすぎてよく死ぬのが厄介なんだが……。
「せっかくだから採掘しといてー」
「承知!」
俺の指示でオークたちがピッケル打ち込みマナメタル鉱石を掘り出していく。
「そんな無造作に!?」
その一連の動作にさらに驚くシルバーウルフさんだった。
「マナメタルなんて勝手に湧いてくるものだから『見つけ次第掘り出してっていい』と言われてるんで。先生から」
「マナメタルがそんなに勝手に湧き出す!? バカな、発生から結晶化まで百年単位でかかると言われているマナメタルが……!?」
え?
一度掘っても翌朝には元通りになってますけど?
やっぱアレかな?
先生がいることで何か影響でもあるのかな?
「とか言ってる間にまたモンスターが現れたぞー」
「うぬッ!? 皆私の後ろに! モンスター急襲時の対応の仕方を教える!」
といってシルバーウルフさん、ウチの生徒たちを背中に回す。
ここ何か先生っぽくてよいねと思ったが、ある理由から凛々しさはすぐさま吹き飛んだ。
「んんッ!?」
向かってくるモンスターの姿を確認して。
「あれはああああッ!?」
猛スピードで、地面を泳ぐように迫ってくるセイウチのような肉の塊。
上顎から刀剣のように長い牙を生やしている。
「あれは超希少モンスター! ビッグタスク! あんなのまでいるのかこのダンジョンは!?」
「はいやー」
「一撃で殺したーッ!?」
いつもながらウチのオークたちは仕事が速やかだ。
セイウチ型モンスターは頭をカチ割られて、ビクビク痙攣しながら絶命した。
「なんだ!? 何なんだこのダンジョンは!? ビッグタスクといえば、一生に一回出会えれば幸運だという、それぐらい希少なモンスターだぞ!?」
「へえ、そんなに珍しいモンスターなんですか。でもここじゃけっこう有り触れてますよ?」
と俺。
「えええッ!?」
「一回入れば最低一回は遭遇しますし、ほら、今まさに」
俺は指さす。
その示した先から、巨大セイウチモンスターの団体さんが迫ってきていた。
「希少モンスターの群れええええええッ!?」
「皆迎撃準備だ!」
数が多いので俺も邪聖剣ドライシュバルツを引き抜いて参戦する。
なんでかあのセイウチは団体で襲ってくる。
最初の一匹は先駆けに過ぎなかったか。
俺とオークたちで何とか迎撃に必死になっていると、いつの間にかセイウチモンスターの死体が積み重なって山となり、危機は脱した。
「ふぃー、やっと一息……」
「ビッグタスクの死骸が……!? こんなにたくさん……!?」
打ち震えるシルバーウルフさん。
「でもこのモンスター、倒しても利用価値が低いんですよねー。肉は脂肪だらけで食いづらいし……?」
「何を言っている!? ビッグタスクの牙こそ宝のように貴重なものだぞ!? 様々な道具に加工できるし、何より削って粉にしたものは万病に効く霊薬だ! だからコイツとの遭遇は幸運とされているんだ!」
へー。
一見無価値と思っていたこのモンスターに、そんな利用方法が?
「さすが一流冒険者! 経験豊富で色んなモンスターと戦ってきたから、特長にも詳しいんですね!?」
モンスターのどんな部位にどんな利用法があるかとか。
生徒たちにとってだけでなく俺たちも学ぶ価値があるんじゃないだろうか。
「是非とも俺たちに伝授してください! モンスターを有効活用する冒険者の知恵を!」
「いや……! それ以前に、こんなレアモンスターがポコポコ出てくるこのダンジョンの異常性を……?」
「あ、また新しいモンスター現れた! あれはどんな風に活用できます?」
「また激レアモンスターああああああッ!?」
こうしてS級冒険者の役立つ授業は進んでいった。
* * *
そして最深部、先生の下へとたどり着いた。
『コングラッチレーション』
先生から賞賛の拍手を賜った。
『よくワシのおる最深部までたどり着いた! お前たちならやれると信じていた! 見事だぞ!』
「先生ー!」「頑張りました先生ー!」
同行していた生徒らが先生の下へ駆け寄っていく。
アイツら俺やオークたちのあとを付いてきただけで特に何もしてなかったけどな。
そしてさらに脇の方では、シルバーウルフさんが精根尽きたように蹲っていた。
「……あの、大丈夫です? そんなに疲れました?」
「疲れた……! しかし疲れたのは歩いたり戦ったからではない……! 精神的疲労だ!!」
左様ですか。
「何なんだこのダンジョンは!? 普通のダンジョンだったら大騒ぎになるようなレア素材やレアモンスターが湯水のごとく! 優良だ!! ダンジョン自体が宝の山のような超優良ダンジョンではないか!!」
『そんな照れますなあ……!』
先生が顔を赤くして照れなさった。
あのミイラみたいな顔でも赤面する機能あるんだ。
「このダンジョンが、正式にギルド登録されたらどんな評価になるんだ……!? 最高級の五つ星……!? いや、それ以上の六つ星に認定されることだって……!?」
シルバーウルフさん、なんかブツブツ言っておられる。
「六つ星ダンジョン……! これまでアレキサンダー様のダンジョンのみで唯一無二だった最高を超えた最高等級。元来五つ星が頂点だったというのに、それすら超える超優良というので例外的につけられた等級……! アレキサンダー様の『聖なる白乙女の山』以外にありえない等級だったが、ついに第二の事例が……!?」
『いや照れますなあ……!?』
先生がまた照れておられた。
「おいッ!?」
シルバーウルフさん、俺へ食って掛からんばかりの勢い。
「こんなの全然勉強にならないぞ!?」
「ええー?」
いきなり何かと思ったら、これは生徒たちにダンジョン攻略法を学ばせようという企画意図自体への難癖?
「だってそうだろう!? このダンジョンは何から何まで規格外で非常識だ! レア素材で溢れ、レアモンスターが跋扈している!!」
「あ、はい……!?」
「常識が破壊されてしまう! これを普通だと思って一般ダンジョンに入ってみろ! あまりの落差に失望してしまうぞ! 失望! このダンジョンでは、ダンジョンの常識を学ぶことはできない!!」
「なんかすみません……!?」
『本当に……!?』
先生まで一緒に謝っておられた。
たしかに学習のためには平均を経験するのが一番いいよね?
俺は先生とヴィールのダンジョンしか経験ないんでわからなかったんだけど、そんなに常識ド外れて凄いダンジョンだったのか……!?
「これは……!? どうすべきだ? ギルドに報告すべきなのか? このダンジョンの存在を? そんなことしたら大混乱になりそうな気もするが……!? しかし冒険者としての義務を考えたら……!?」
頭を抱えて葛藤するシルバーウルフさん。
「特に先生! アナタの存在が問題です!」
『なんと!?』
いきなりシルバーウルフさんの興奮の矛先が先生へ向いた。
『わ、ワシに何か至らぬ点でも……!? ワシは生徒たちの成長のために精一杯心を砕いているつもりなのだが……!?』
「その優しさが問題なのです!」
『優しさが!?』
思わぬ指摘に大ショックの先生。
「たしかにアナタはお優しい。恐怖の王ノーライフキングとは思えないほどに。だからこそ問題だ。他のノーライフキングはアナタのように寛大ではない! むしろ残忍だ! 冷酷無比だ!」
『た、たしかに……!?』
「ここでアナタの優しさに慣れきった生徒が『そういうものだ』と勘違いして別のノーライフキングへ不用意に接触したらどうします!? 確実に死にますよ! 人類にとってノーライフキングの視界に入ることは死と同義なんですから!」
目から鱗が落ちるような指摘だった。
なるほどたしかにノーライフキングは世界最恐。その存在は災厄でしかない。
俺たちにとってもっとも身近な先生が気さく&大らかであるせいで忘れそうになるが、ノーライフキングとは本来世界でもっとも危険な存在なのだ。
「おい」
「ひぃッ!?」
なんかいつの間にかシルバーウルフさんの背後にヴィールがいた。
「その死体モドキのことばっかり褒めやがって気に入らん。農場にはヤツと並んでこのヴィールのダンジョンがあることも忘れるな!」
「え? あの……!?」
「今度はおれのダンジョンも見せてやる! そして死体モドキ以上の高評価を下せ! さあ行くぞ突入だーーーーッ!!」
「ひええええええッ!?」
そう言ってシルバーウルフさんを担ぎ上げ、駆け去っていった。
『ワシは……、たしかに失念しておった……!!』
その一方で先生がショックを受けておられた。
『たしかにノーライフキングとは危険で恐るべきもの。その遭遇は死と同意。そんな基本的な感覚を麻痺させては、生徒たちに死の危険を与えてしまう……!?』
先生、深刻に受け止めすぎです。
先生が先生すぎる。
『これは、急いで授業を組む必要がありそうですな』
「授業?」
『ノーライフキングの恐ろしさを教え込むための授業です。そのためにももう一つ課外授業をすべきでしょう』
「課外授業? なんです?」
『ワシ以外のノーライフキングを見学する授業です』






