342 銀狼の冒険者教室
俺たちは今、冒険者のシルバーウルフさんなる方をお迎えしていた。
ただその人、ノーライフキングの先生を見た途端泡を噴いて腰抜かしてしまったけど。
これまで先生と対面してきた人たちも大概恐れおののくリアクションを取ってきたが、反応の激しさではこの人が一番な気がする。
『『『『『こんなので大丈夫か……?』』』』』
と出迎え組の誰もが思ったが、アレキサンダーさんのフォローによって評価が持ち直した。
なるほど、実体験があるからこそ異様な反応と言えるわけね。
「す、すみません昔、ノーライフキングの伯爵に追いかけ回されたトラウマがありまして……!!」
おお!
なんかそれっぽい具体的なエピソード! 披露の仕方もさりげなくてポイント高い!
「伯爵の『狩り』から逃げ切っただけで英雄扱いされたものだがな……!」
と寂しげに笑った。
「先生、これポイント高いんじゃないですか? いい講師になってくれるんじゃないですか?」
『ふむ、そういうことならとりあえず保留としておきましょう。ワシの可愛い生徒たちに教える資格があるかどうか』
先生、なんでそんなに判定厳しいんです?
すっかり先生が生徒たちの保護者気取りになっている!?
* * *
こうしてシルバーウルフさんは、我が農場の留学生たちに特別講義を行うことが決まった。
彼はアレキサンダーさんの推薦で、トップクラスの冒険者だという。
「ところで……!?」
「何かな?」
「いや、特徴的なお顔をしてるなあ、って……!?」
初対面の人には失礼かもしれないが、やはりシルバーウルフさんのお顔が気になった。
シルバーウルフという名前と関係あるのかもしれないが。
彼の顔。
狼そのものだった。
比喩とかではなく、狼そのものの顔だった。
獣人!?
「私はワーウルフだからな」
「わーッ!? ウルフ!?」
ではなく。
『聖者様、以前話しましたでしょう。人族には少数ながらそういう一族がいるのです』
と先生。
たしかに覚えております。サテュロスたちがやってきた時に話しましたよね?
サテュロスは山羊と人が合わさった獣人だった。
何でもその昔、人と獣を合成させる魔法があったとかで多くの人が様々な動物と合成させられた。
今ではそんな非人道的魔法は根絶したが、獣と合わさった人々は子孫にもその特徴を伝え、獣人という一族として確立された。
「……私は、人と狼が合わさった獣人ワーウルフの末裔。ワーウルフは人族を遥かに超える鋭敏な感覚と、瞬発力持久力ともに優れた四肢を持つ。私がS級冒険者になれたのもワーウルフとして生まれ持った才能ゆえと確信している」
「なるほど……!?」
しかし、外見のことに触れられた途端頑なになったシルバーウルフさんを見て、きっとそれが原因で起こった不愉快な出来事もあったのだろうなと察した。
だからそれ以上触れないのがよかろうが……。
狼型モンスターのポチどもが『友だち? 新しい友だち?』とばかりに後ろからついてくるのを止めようがなかった。
「獣人は合成された獣に準じて身体能力が高まるからな。冒険者への適性は当然高まる」
同行するアレキサンダーさんからも補足が入った。
「たしかに。私の他にもゴールデンバット、ブラックキャット、ピンクトントン……。たった五人のS級冒険者のうち半数以上が獣人ですからね」
五人中四人だった。
「冒険者は、常に危険と隣り合わせの職業です。魔国と違い、民を守護する概念など持たない人間国。その統治下で『自分の身を守るには自分で戦うしかない』と立ち上がった戦士が最初の冒険者とされている」
やがて同じ志を持つ者たちが結集し相互補助の意味合いで作った組合が冒険者ギルドの基礎となる。
「人間国の民にとって『今そこにある危機』がダンジョンだ。ダンジョンを放置すれば中からモンスターが溢れ、周囲の村落に危害を加える。自衛を目的とした戦士団はまずダンジョンに入り、モンスターを駆除することに専念した」
そうした営みが長い時間をかけて蓄積し、システムが完成された。
いつしか、そうした仕事を最初から目標にする者も現れ、職業としての名前も付けられた。
「それが冒険者だ」
「素晴らしい!」
そういう話をしてくれる人が欲しかったんだよ!
是非とも生徒たちの前で話をしてほしい!
「冒険者ギルドは、人間国とはまったく関係ない経緯で成立した組織だ。過去幾度となく制御下に組み込もうとする国家との権力闘争があった。しかし我ら冒険者は権力に屈することなく独立不羈を貫いてきた。それが我ら冒険者の誇りだ」
シルバーウルフさんは語っていくうちに調子を取り戻してきたようだ。
先生にビビッて腰を抜かしていた彼は本来の彼じゃなかったんだ!
「それでは早速、その含蓄あるお言葉をウチの生徒たちにお聞かせいただければ……!?」
「冒険者の知識と経験は、いわば財産。そうやすやすと他人に見せては商売にならない。しかし日頃から言い知れぬほど世話になっているアレキサンダー様たっての頼みとなれば、受け入れないわけにはいかんな」
なんか面倒くさい物言いができるほどに調子が戻ってきたみたい。
「ではダンジョンに行くとしよう」
「え?」
「冒険者の心得は机上で学べるものではない。現場にて学び、体に肌に直接叩きこむものだ。それをできない人間国の貴族が、知識だけでわかったつもりになり気軽にダンジョンに入って帰って来られなかった。そんなことが何度もある」
「おお……!?」
肝要なのは知識でなく実体験!
なんか玄人っぽくていいぞ!
「わかりました! では早速ダンジョンへ行きましょう! どっちがいいですか!?」
「どっち?」
俺の発言に、シルバーウルフさんは首を傾げた。
その仕草が、鏡で自分の姿を見た犬みたいだと思ったが、それは胸の中に秘めておこう。
「あっ、ウチの近くから行けるダンジョンが二つあるってことですよ」
『ワシと』
「おれのダンジョンだなー」
先生とヴィールが並んで手を挙げた。
「課外授業ってことですよねー。先生のダンジョンがいいか? ヴィールのダンジョンがいいか? そこは是非ともプロの意見を窺いたいんですが……!?」
「え? 待って? ちょっと待って?」
再びシルバーウルフさんがプロらしくない態度になった。
つまり腰砕けの態度だ。
「どういうことだ? えっと、そちらのノーライフキングが主をしているダンジョンがあるってこと?」
「先生です」
「そうか先生って言うのか……!? で、もう一方はどういうこと? あの女の子? がなんでダンジョンと関わりあるの?」
「ヴィールはドラゴンですよ?」
「ええあああああああッ!?」
賢老モードのアレキサンダーさんを見ているから、ドラゴンが人間に変身できるのは知ってると思ったのになあ。
意外に驚かれる。
「いやあのッ!? 変身できるのがわかってても見破れるわけじゃないし……ッ!? えッ!? ってことはドラゴンの主がいるダンジョンも!?」
「近くにありますよ?」
シルバーウルフさん、へたりと膝をついた。
体の力が抜けるほどのショックだった?
「主ありダンジョンが二つも……? 未発見の……?」
衝撃冷めやらぬシルバーウルフさんの横で、先生とヴィールが言い争っている。
「ヤツらは、おれのダンジョンに来させるのだー! いい機会だから改めておれの偉大さを知らしめてやるのだー!」
『いいや、生徒たちの安全を保障するためにもワシのダンジョンがよい。ワシが監視するから、不測の事態にも即応することができる。お前は抜けておるから何が起こるかわからん』
「お前、アイツらに過保護すぎじゃないかー!?」
どっちを課外授業の現場にするかで揉めておられる。
たしかに先生は、生徒たちに対して親身というか保護心が突き抜けてる感じがする。
さすが先生というかね。
「アレキサンダー様……! ここは一体何なんですか!? 未発見の主ありダンジョンが二つも隣接してるだなんて、そんなことがあり得るんですか!?」
「だから言っただろう、ここが聖者の農場だと」
「聖者の農場!? 噂以上に凄いところだった!?」
シルバーウルフさんが衝撃を受けている横で……。
ヴィールが変身してドラゴン形態になった。
どうやら戦いで白黒つけるらしい。
なんか色々戦って先生が勝った。






