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341 冒険者とは

 私の名はシルバーウルフ。


 ギルドからS級と認められた冒険者の一人である。

 その階級に見合った経験と実績を持ち合わせていること、自負している次第である。


 思えば多くのダンジョンを攻略したものだ。


 旧人間国で最大規模を誇る洞窟ダンジョン『無限臓物』。

 屋敷自体が生命をもって常に自己改築、膨張し続ける遺跡ダンジョン『アバリシア・ファミリア』。

 火山帯に発生し、内部に溶岩が流れる危険度最上級『ヴァルカンの巣』。

 既存のダンジョンカテゴリに属さない世界唯一の樹海ダンジョン『迷いの森』。

 ノーライフキングの伯爵が住まう『カントリー・キャッスル』。

 そして究極、グラウグリンツドラゴンのアレキサンダー様が君臨する六つ星ダンジョン『聖なる白乙女の山』。


 すべて攻略した……。

 そのすべてで死にそうな目にあった……。


 あれらの苦労が認められてのS級認定ならば非常に誇らしい。


 冒険者の等級は、単なる肩書きでも飾りでもない。

 その冒険者が歩んできた戦いの記録を凝縮したものだ。


 だから私は、Sの等級を誇りとしている。

 思い上がりにならないように自戒してはいるが。


 私より優れた冒険者は、そう何人もいないだろうというのも正直な気持ち。

 もし仮に、前人未到の新ダンジョンが発見されたとして、その調査を頼まれるとしたら私のような人材だろう。


 冒険者ギルドの上層部とも懇意であるし、何か困ったことがあれば私を頼りにくる。

 そういう自分を自負していたところだが……。


 ある時、ギルドよりお声がかかった。


    *    *    *


 その頃、私は再び『聖なる白乙女の山』の攻略にかかっていた。

 何やらダンジョン内部で改装が行われたらしく、新たに追加されたダンジョン施設を調査しようと多くの冒険者が挑戦していたのだ。


 私もその一人として究極ダンジョンの新たな仕掛けに挑んだが……。


 ……『ダンジョン果樹園』とはまた奇抜な。


 山ダンジョンの一区画に茂った果樹には、色とりどりの実が成って美味。

 多くの冒険者が攻略も忘れて実を摘んで食らうが、中には樹霊が憑りついている木もあって、ソイツらが仕掛けるトラップは超危険だった。


 頭上から降ってくるヤシの実なるものは激突したら頭蓋骨が陥没するし、栗とかいう実の、ハリネズミみたいな棘だらけの果皮は触れただけで痛い。


 まあ、それらに四苦八苦したのは余談として。

 本題はここからだ。


 ダンジョン果樹園(出張版)攻略中、私はギルドから呼び出しを受けた。

『なんだろう?』と『聖なる白乙女の山』麓にあるギルド支部を訪ねてみると、そこにはギルド支部長と共にもう一人の人物が待ち受けていた。


 豊かな髭を蓄えた、いかにも賢者然とした老人。

 しかしそれは仮の姿。


「アレキサンダー様……!?」


 他でもない世界最高級ダンジョンの主ドラゴン。

 人類を遥かに超える知性と魔力を持ち合わせたドラゴンは、自分の姿を自在に変えることもできるという。


 あの姿は、我ら人類と意思疎通するために壮大なる存在がわざわざ取ってくださる配慮なのだった。


「励んでいるようだな銀狼よ。新たに設置したダンジョン果樹園の具合はどうだ?」

「大変歯ごたえがあります」


 一目見てすぐ、私を呼んだのはアレキサンダー様であり、ギルドは仲介に過ぎないと察した。


 ドラゴンは基本、人族を含めた人類すべてを虫ケラ程度にしか認識していない。

 アレキサンダー様だけが例外で、人の生きざま心持ちを慈しみ、加護を与えてくださる。


 ご自分の住むダンジョンを開放し、冒険者を受け入れてくださるのもその一環。

 他のダンジョン主だったら侵入した冒険者に気づいた瞬間殺しに来る。


「我ら冒険者は、常にアナタに感謝しています。アナタのダンジョンは我々にとってもっとも困難で、もっとも得るものの大きいダンジョンです」

「そう堅苦しい挨拶はいらぬ。お前たちが忍び込んでくるのはよい刺激だ。私も退屈せずに済んでいる」


 本当に気さくな方だ。

 わざわざ私たちと同じ姿を取って、人類の私に会いに来てくださるなんて。


「今日はお前に頼みたいことがあって来た」

「私に……、頼み……!?」


 また想像を超える事態だ。

 あらゆる面で人類を遥かに超えたドラゴンが、そんな卑小な人類に何を頼むというのか?


「義理を通すため先にギルドへ話し許可を取ってある。あとはお前の返答次第だが……」

「アレキサンダー様の命令ならば何なりと……! 我ら冒険者一同、アレキサンダー様にご恩返しできる機会を常に待ち続けておりました……!」

「命令ではなく頼みだというのに……。冒険者のくせにやたらと畏まった男だな」


 苦笑するアレキサンダー様。

 大丈夫? 機嫌損ねてない?


「では了承ということで。早速行くとするか」

「行く? 何処へです?」


 了承はすれども、一応何をさせられるかは聞かせてほしいのですが?


「聖者の農場へ」


 んんんんんんんんんんんんんんんッ!?


    *    *    *


 聖者の農場。


 その名前は私も聞いたことがあった。

 冒険者業界では今一番ホットな、各冒険者の間を忙しなく飛び交うフレーズ。


 この世界のどこかにあるという理想郷だとか。


 世界すべての財宝をすべてかき集め、積み上げたのと同等の富がその場所に眠っているという。


 現役の冒険者たちは、その秘境の噂に胸躍らせ見つけだそうと躍起になっている。


 冒険者の仕事はダンジョンを攻略するだけでなく、まだ発見されていない未踏ダンジョンを発見することも重要な目的。

 聖者の農場も、そうした発見目標の一つに数えられているのだろう。


 その聖者の農場に招かれた。


 どういうこと!?

 多くの冒険者が血眼になって探す聖者の農場を、アレキサンダー様は既に見つけていたというのか?

 さすがドラゴン!?


 そのアレキサンダー様の、元来の姿に戻った巨大な手につかまれて空を飛ぶ。


 ……また死ぬかと思った。


 そうしてフライトの末に辿り着いたのは、一見本当にただの農耕地帯に見えるような場所だった。


 畑がいっぱいに広がっているのは上空から確認できた。

 そして地上に降り立ち、なんか出迎えられた。


「ようこそ講師! 遠いところをよくいらっしゃいました!!」


 講師?


 出迎えに来た男は、これといって変哲もない普通の男に見えた。

 普通すぎて拍子抜け。


 ただ、その普通の男の背後に並んでいる者たちが普通ではない。

 いや普通でないどころか異常だった。

 異常の中のさらに異常だった。


 中でも一際目を引くのが……。


「ノーライフキングがいるうううううううッ!?」


 あばばばばばばばばッ!?


 ノーライフキング!? ノーライフキングッ!?


 世界最悪の恐怖! ドラゴンに並ぶ唯一の災厄!? 冒険者がもっとも恐れるべきもの!?


「ごべべべべべべべべッ!?」

「ちょっと怖がり過ぎ!?」


 私はその場で腰を抜かし、口から泡を吐いた。

 恐怖のあまり気絶しなかったのは、冒険者としての最後の生存本能による。


『……大丈夫ですか? この者は?』


 ノーライフキングが私のことを見てるうううううッ!?

 気絶するな! 気絶だけはするな!!

 一瞬の隙を見つけて逃げ出すために!!


『ワシの姿を見て恐怖するのは仕方ないとしても、これは少々怖がり過ぎでは? この程度で取り乱す粗忽者にワシの大事な生徒を指導してほしくはない』


 なんかちょっとノーライフキングが不機嫌んんんッ!?

 助けて、助けてアレキサンダー様あああああッ!!


「いや不死の王よ、これはむしろ冒険者として有能な証だぞ」

『うぬ?』

「ノーライフキングを見てここまで恐怖する。それは最強アンデッドの恐ろしさを身に染みて実感している証拠だ。一般の者はドラゴンノーライフキングの恐ろしさを噂でしか知らぬから、初見ではここまで怯えられぬ」

『なるほどそういう受け取り方もできますな』

「実際にノーライフキングと遭遇し、生きて難を逃れたことを、この取り乱しぶりが証明しておるのだ。生き延びる力こそ冒険者の本領だ」


 ふぉ、フォローありがとうございます……!


『ふむ、そういうことならとりあえず保留としておきましょう。ワシの可愛い生徒たちに教える資格があるかどうか』

「ノーライフキングの生徒って何ですか!?」


 死者の学校ですか!?


『なんだ聞いておらぬのか? おぬしがここで何をさせられるのかを?』


 はい、まったく聞いておりません。


『講師だ。ここでおぬしは冒険者として培った知恵や技術をワシの生徒たちに伝授するのだ。よいな』


 はいッ!?

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