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340 新たな教師

 なんか気づいたら自動人形たちが人化していた。

 どうやら冥神ハデスの仕業らしい。


『いつも供物を捧げてくれている礼のようなものじゃ。なあに感謝には及ばんぞ』


 供物っていつも食わせてる混ぜごはん一通りのことか!?


 どうするんだよ!? 食事も寝床も必要ないからって利点で自動人形百体も連れてきたのに、人化したら食事も寝床もいるじゃん!!


 ご丁寧に一人残らずうら若い乙女に変えてくれやがって!

 こんな子地べたに寝かせておくわけにもいかんだろうが!?


 とりあえずオークボが急ピッチで宿舎を建設し、バティの指導で元自動人形乙女みずから自分の着るものを仕立てたりと大忙しになった。


 ……こんなことになるんじゃないかなあ、と思っていたんだ。


 思えば以前オークボ、ゴブ吉たちの時も『擬人モンスターは感情がないので人として扱う必要はありません』って言われたのに、いざ一緒に暮らしてみたら感情を獲得して立派な農場の仲間だよ!


 歴史は繰り返したんだよ!!


 今さらオークやゴブリンたちを道具のように見ることはできないし、もし唐突に別れることにでもなったら腸が切り刻まれるように悲しくなってしまう!!


 きっと自動人形の彼女らもそうなってしまうに違いない。


 ……どうすべきかは即座に思い当たらないので、元自動人形たちの扱いはひとまず置いておくことにして。


 まず喫緊の問題に対処していくことにしよう。


    *    *    *


 農場留学生の話である。


 彼らは将来、人間国魔国人魚国との交流を盛んにしつつ国を背負って立つ人材となれるよう、ここで勉強している。


『農場で国家運営の何が勉強できるんだ?』という意見もあるだろうが、そこは安心。


 我が農場、そんじょそこらとはわけが違う。

 将来有望な彼らの益となる、立派な講師を多数揃えることができるのだ!


 その代表例はノーライフキングの先生だろう。

 先生は、死を超越した最強アンデッドとして、千年以上を生きた知恵知識があり、学ぶべきことはそれこそエベレスト級にたくさんある。


 当人も教えることが大好きなようなので、留学生たちは魔導の極致を学ぶことができ、先生は若者たちと触れ合えてwinwinの関係だ。


 その他にもベレナやパッファという魔族人魚族それぞれの俊英が常勤講師に就き。

 魔王さんやアスタレスさん、アロワナ王子も時おり遊びに来ては非常勤講師として教壇に立っていらっしゃる。


 そこで俺は最近ハタと思った。

 この講師たちの布陣はバランスを欠いていないか? と。


 どういうことかって?

 今言ったメンバーをもう一度洗い直してみよう。


 先生は超越者として別カウントにするとして……。


 ベレナ(魔族)、パッファ(人魚族)、魔王さん(魔族)、アスタレスさん(魔族)、アロワナ王子(人魚族)。


 そう。

 魔族と人魚族ばっかり。


 この世界には三大種族と言って魔族、人族、人魚族の三つが基本として存在している。

 なのに我が農場の教師陣は、この三種族の構成に著しい偏りがある。


 要するに人族の教師がまったくいない! と言うことなんだが。


 このままでは生徒たちが農場から卒業したあと『人族に優れた人材はいない』と偏見をもって、人族が軽んじられかねない!?


「急ぎ人族の講師を用意しなければ!?」

「旦那様も細かいこと気にするわねー」


 育児中のプラティから呆れた顔をされた。


 しかし俺は止まらない。

 農場で学ぶ生徒たちの将来のため、ひいては世界全体の明るい未来のために。


 農場へ人族の講師を招聘するのだ!!


    *    *    *


 そこで俺の少ない伝手から人族の、若者に教えられそうなひとかどの人物を探してみる。


 まず最初に思い当たったのが数少ない人族の友人、旧人間国で領主をされているダルキッシュさんをお呼びしてみた。


 ダルキッシュさんは、旧人間国での領主の仕事がどんなものか熱弁を振るってくださったが、こと統治のノウハウや体験談についてはガチ王族の魔王さんやアロワナ王子の方が凄い知識を持ち合わせている。


 辺境領主ならではの苦労話とかでオリジナリティもあるにはあったが、生徒たちに得るものは少なかったようだ。


 ただ代わりとしてダルキッシュさんは魔族のヴァーリーナさんと結婚し、史上初の異種族国際結婚夫婦となったとこで、その際に苦労したことや問題になったことを披露して、むしろそっちの方が貴重な話となった。


 生徒たちも食い入るようにして聞いてたし。


 ちなみに奥方のヴァーリーナさんは、こないだの苦労の甲斐あって見事ご懐妊なさったらしい、おめでとう。


 で。


 他に知り合いの人族と言えば、元から我が農場に住んでいる元人間国の王女レタスレート。

『アイツが何を教えるんだ?』と不安の声もあったが、試しに教壇に立たせてみた。

 すると案の定、豆の話しかせずにある意味で期待を裏切らなかった。

 元は人間国の王族だったんだから、そっち方面で何か実のある体験談でもないのかと迫ってみたが、現役王女だった頃は食えや遊べやで身になること一つもしていなかったという。

 むしろ反面教師の究極形だった。


 ただ、レタスレートの徹底した豆押しにより、たくさん豆を食べることで健康になった生徒の幾人かがグーパン(魔力なし)で岩を砕けるようになってたので、その点実りはあるように思えた。


 しかしまだ弱い。

 もっと人族ならではの講義を開ける人族講師はいないものか?


 俺の知り合いの範囲内では万策尽きたので、もう誰かの伝手、友だちの友だちを頼る他ない。

 皆で広げよう。

 友だちの輪! だ!!


    *    *    *


「ならば冒険者などはどうかな?」

「冒険者?」


 俺の相談を受けてくださったのは最強竜アレキサンダーさん。


 先日のドラゴン騒動でお知り合いになったドラゴンさんだが、それがきっかけで定期的に遊びに来られるようになった。


 ドラゴンは元から最強種族だが、このアレキサンダーさんは中でも飛び抜けて最強らしい。

 二番目に最強竜だったブラッディマリ―さんと、新生ガイザードラゴンのアードヘッグさんと、そして愛の波動に目覚めたヴィールが束になって掛かってもまだ勝てるんだそうな。


 そんなアレキサンダーさんも、時折教壇に立って生徒たちにドラゴンの英知を教授してもらっている。

 きっと勉強になっていることであろう。


 ドラゴンならば、ウチの農場にはヴィールがいるもののアイツは感覚的すぎて授業は無理。


 ……で、そのアレキサンダーさんからさらなる意見を求めたところ、出てきた言葉が冒険者。


「冒険者は人族特有の職業だからな。魔国にも人魚国にも似たような職業はないと聞く」

「ど、どんなことするんでしょう?」


 やっぱ冒険かな?

 魔王を倒すために旅したり?


「第一にはダンジョンを攻略することだ。私のダンジョンにも毎日のように冒険者が潜ってくる」


 アレキサンダーさんは旧人間国の領土内にダンジョンを持っていて、そこを住み処としている。

 ドラゴンが山ダンジョンの主になるのは一般的なことなんだそうな。


「魔族や人魚族、他の人類の統治下では、ダンジョンは軍隊が管理封印しているそうでな。人間国だけがそういう対処をしておらず、ダンジョン対処の専門家として冒険者が生まれたんだそうな」

「人間国のテキトーっぷりはよく聞きますもんね……」

「冒険者には、長年ダンジョンを攻略して他にはないノウハウが蓄積されているという。それを教壇で披露すれば、若者たちの成長に繋がるだろう」


 ドラゴンにしては珍しく人間大好きなアレキサンダーさん。

 積極的に話に乗ってきてくれた。


「では、私のダンジョンに攻略に来ている冒険者の中から実力者をピックアップして交渉してみようではないか」

「だ、大丈夫でしょうか? 『勝手なことするな』って怒られない?」

「私は人族の冒険者ギルドと懇意だから問題ない。我がダンジョンを冒険者のために開放しているから、季節の節目に贈り物されるほどだ」


 常識的には主のいるダンジョンは危険度MAXで立ち入りできないらしいから、主の方から歓迎してくれるダンジョンなんてそら貴重だろう。


 そうした要件を負って、アレキサンダーさんは一旦ご自分のダンジョンに帰られた。


    *    *    *


 後日、また来た。


「アケサカ・モモコという冒険者がいてな」

「はあ……?」

「今、私のダンジョンを攻略している中で一番活きのいい冒険者だ。最初の攻略で五合目まで登ってきたからな。彼女に『講師をしてみないか?』と持ち掛けてみたのだが、断られた」


 えー?


「『私は聖者の農場を探し出すのに忙しいので!』と言われて。でもまあよく考えてみたら彼女は召喚された異世界人だし、人族の講師という条件からは外れよう。そこで別の者に声をかけた」

「そっちが本命ですか?」

「うむ。凄いのがスカウトに応えてくれたぞ! 何しろ世界に五人しかいないS級冒険者の一人だ!」


 アレキサンダーさんはやけにウキウキしていた。

 最強ドラゴンすら興奮させるレアっぷり?

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