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338 人形生活

 あービックリした。

 アイツら唐突に成仏しやがるんだもん。


 いや、ファンタジー異世界に『成仏』という概念があるかどうかも謎だが。


 とにかくも自動人形の発明者マリアージュと、彼が一番最初に作った自動人形。

 その二者が、長い時を越えて再会することでなんか色々満足してしまったらしい。


 二人して魂が肉体(?)から遊離し、天へ昇っていってしまった。


 天空にあるのは、あの悪名高い天神たちの住まう天の神界のはずだが。

 まあいいか細かいことは。


 そもそもマリアージュは本来百年ほど前に死んだはずの御方だし、もっと早くにああなるべきだったんだろうけど。


「来世でもお達者でー」


 いや。

 来世あるかどうかもわからんけど。

 俺は旅立つ二人を快く見送るのみだった。


『冥界でもお達者で』の方がよかったかな?


    *    *    *


 とにかく、天才が遺した発明品、自動人形は我が農場で有効活用させてもらうことになった。


 農場に運び込まれた人形たちはピッタリ百体。

 研究所あとにはまだ九千体以上の自動人形が残骸のまま野ざらしになっているが、ウチで働かせるには百体で充分。


 残りは、引き続き野ざらしとなるか、魔王さんが部下に命じて回収していくらしい。のちの研究のために。


 そんなこんなで新たに加入した……いや配備された自動人形百体。

 我が農場での作業効率化に甚だしく貢献しております。


 何せ彼ら(彼女ら?)は人形。

 生活する必要もないから寝床もいらないしご飯もいらない。


 必要最低限、整備と収納のスペースさえあればなんとかなる。


 これで……。

 人手足りなくなる→人員補充する→増えた人員を養うために畑や住居を拡張する→拡張した分を運営するのにさらに人手がいる。

 ……という循環から脱出することができる。


 それもこれも自動人形によるオートメーション化のお陰! 

 自動人形バンザイ!

 機械化バンザイ!

 ……という感じだ。


 自動人形たちは主に単純作業に従事してもらっている。

 作物に病気や虫がついていないかのチェックや、害獣害鳥の見張り。

 農場内での物資の運搬。

 さらに蒸気船ドックや温泉の管理など、任せたいことは多岐にわたる。


 それもこれもマリアージュが拘りに拘った自動人形の出来のよさゆえ。


 魔法による感覚センサーや人工知能、姿勢制御装置のおかげで、けっこう複雑なことも自分で判断して行える。

 前の世界でも人にしか任せられなかったことも安心して機械任せにできるというのは大きい。


「いやあ……! 凄いですね魔王さん! これは技術大革新じゃないですか!?」


 一緒に自動人形の出来栄えを見守る魔王さん。

 彼に、俺は溌剌と尋ねた。


 この人も、マリアージュの作った自動人形を高く評価して、自国の研究に取り入れたいと言っていた。

 農場でのサンプルは、魔国での自動人形実用化へ向けての貴重な実例になるだろう。


 いつの日にか、世界中の村や街でマリアージュの作った自動人形が働くという、彼の夢が実現するのかもしれない。


「あー、そのことなんだが……!」


 魔王さんがおずおず言い出す。

 なんか言いにくそう。


「自動人形によって労働事情が改善されるという話な……、実を言うと解決されているというか……、事足りてるというか……!」

「はい?」

「我々魔族には、擬人モンスターがいるではないか……! オークとかゴブリンとか。手が足りないところでは彼らが働いてくれて、もう充分に足りているというか……」


 そうだった。

 この世界にはダンジョン内で発生するモンスターという存在がいて、さらにその中で比較的人間に近い形態のものは、魔法で言うことを聞かせられるという。


「人族と戦争していた頃は最前線に送り込んでいたし、今でも各地で労働に使われている。元から知能が低くて単純な作業しかこなせないが……!」


 それ自動人形の用途とモロ被りですやん。


「多分、マリアージュが生きていた時代の魔王も、その辺りを考えて却下したんだろう。彼の提案を。自動人形を作って賄うことは、大体擬人モンスターで事足りるから……!!」


 たしかに。

 でも、じゃあなんで? 魔王さんはさっき成仏したマリアージュを手放しで評価し、研究所に招聘までしていたじゃないの?


 役立つ目途のない研究に、そこまでの評価を与えたってことは……!?


 あ、ウソ?

 優しいウソ!?

 魔王さん、人を思いやるウソをつきやがった!?


「いやぁ……! あの……!?」


 魔王さん露骨に目を逸らした!?

 やっぱり! 魔王さんは基本優しいので!?


 でもなんで、そんなすぐばれるウソをついたの!? 当人がすぐさま彼岸へ旅立ってくれたからよかったものの、そうでなかったらどう繕えばよかったのか!?


 あ!?

 もしかして計算してた!?


 魔王さんにはマリアージュが現世への未練をなくして昇天することが予測できてた!?


「いやあ……、あんな無機物に無理やり魂を移して、長く定着できるとも思えなかったから……! せめて満足して冥界に旅立ってほしいと……!」


 やっぱり魔王さん優しい……!


「いや、だからといって彼の研究が本当に意味ないわけではないんだぞ!? 直接労働力としては使えぬが、それ以外に何か活用法はないか研究機関で模索して……!」


 大丈夫です。

 フォローはいいです。


 魔王さんが、魔王として充分に気配りしてくれたことはわかりましたから。


 ……。

 マリアージュの研究成果が後世に受け継がれるかどうかは後世の人材に期待することにして……。

 現在を生きる俺たちは現在に目を向けよう。


「だ、大丈夫ですよ! 彼の研究は、たしかにここで実を結んでいますから!!」


 俺の農場でな!


 自動人形が目指した役割を既に占領している擬人モンスター!

 それが我が農場で不利となる点が一つある。


 オークやゴブリンたちが我が農場で働いていると、知らないうちにすぐ進化して高等存在になってしまうからだ!

 オークボやゴブ吉を始めとして、今や彼らは大切な農場の仲間!

 道具扱いになんかできない!


 何よりこれ以上世界のバランスを崩しそうな存在を量産するわけにはいかない!

 変異化したオークゴブリンたちにはマジでそれぐらいの力があるのです!


「しかし! 自動人形たちなら大丈夫! 彼らはきっと進化なんてするはずがない!!」


 所詮人形だし、生きてないし!

 ついさっき最初の人形が開発者と共に昇天という魂あるものの証左みたいな現象には全力で目を逸らし……!

 人形たちは我が農場の完全なる単純労働力となってくれるに違いない!!


「とっぽいわね旦那様……!」

「はッ!?」


 そんなことを言って俺の背後に立つのは……!?


 プラティ!?

 我がワイフ! その胸にはジュニアを抱いて!?


「そんな楽観的観測が今まで当たったことがあるの!? 腑抜けた希望を持った旦那様に現実を叩きつけてあげる! この農場に置いておくものは、何であろうと特別になるのよ!」


 プラティに抱っこされたジュニアが『んだんだ』とばかりに頷いていた。


 ……いや。

 ちょっと待ってよ?


 さすがに毎回それはないでしょう?

 今までは偶然に偶然が重なったようなもので、そう何度も奇跡が起こって堪るか?


 それに自動人形自体、世間一般の目から見れば特別なものなんだから大丈夫!

 これ以上発展の余地もないって。


 危険な未来ばかり警戒してたら人生楽しめないぞ!

 大丈夫。

 大丈夫だってば!

 自動人形たちは永遠にこのままだってば!


    *    *    *


 ……と思っていたのに。

 自動人形、我が農場に置き始めてから一週間程度で変わった。


「今日も仕事頑張ろー」

「終わったら学生の子たちと遊ぼうねー」

「何それウケるー」


 自動人形が女子高生みたいなノリでお喋りしている!?


 外見も、まんま球体関節の人形みたいだった形態が滑らかに変わって人間のように!?

 髪の毛も生えてるし、顔つきも頬肉柔らかく表情豊か。

 人間そのもの!?


 っていうか全員可愛い女の子!?

 自動人形が可愛い女の子に変貌しておる!?


 俺がちょっと目を離した隙に、自動人形に一体何があった!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
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最終進化は天使かな?
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