33 家完成
自我を獲得したオーク、ゴブリンたちと心を一つにして働き、ついに目標の一つが達成された。
「家、出来たーーーッ!!」
家というにはかなり大きい、屋敷と評した方がいい。
とにかく立派なものが出来た。
「これだけのものなら俺とプラティ、それにヴィールが一緒に暮らしてもまったく不足はないだろう」
むしろ余る。
三人住みでは完全に持て余す規模と豪華さの屋敷だったが、先生やアロワナ王子が訪ねてくることを想定したら、まあ順当な大きさではなかろうか。
…………。
それに。
……漠然とした予感だが、これからまだ住人が増えていきそうな、そんな気がするんだ。
備えて損はあるまい。
「これが旦那様とアタシたちの愛の巣なのね!?」
「しかし変わった作りの人の家だな?」
完成した我が屋敷を見上げる妻二人の反応も、概ねいい。
そして、ヴィールの言う「変わった作り」という評価の意味は……!?
日本家屋だった。
武家屋敷風、とでも言おうか。
俺とオークとゴブリンたちが力を合わせて築き上げた我が城は、俺が元いた世界の、しかも数百年前を思わせる和風建築に仕上げてみた。
木造の床や柱。
何より畳。
畳の上に大の字で寝転ぶのが何よりの快楽なのだ。
なので俺は完成したばかりの和室でダイブ気味に寝転んでみた。
「畳の感触気持ちいいー! い草の匂い芳しいーッッ!!」
大満足だ。
これだけでも家を和風建築にした甲斐があった。
「え? そんなに気持ちいいの?」
「じゃあ、おれたちも……!」
プラティとヴィールも畳に寝転ぶと、それだけで表情が変わった。
「何これ何これ!? こんな不思議な感触の床初めてよ!?」
「何だこの匂い!? 草!? 草か!? でもいい匂いだクセになる!!」
二人にも畳は好評のようだ。
ただ、この世界生まれの二人にはまだ和室のルールが周知されていないらしく、土足だった。
靴は玄関に脱いでおく。
これ厳守。
床に素足が不満なら、後々スリッパでも拵えよう。
家の建築に伴って、新しい素材も色々ゲットしたからな。畳の材料となったい草は元より、綿花の栽培も始めたよ。
そうした栽培作業はゴブリンたちに頑張ってもらった。
おかげで布団も作れたし、布素材も潤沢だ。
そのうち被服にも挑戦してみたい。
……で。
まあ、どうして和風建築なのか? という話だが。
その理由としては、まず一つに気候。
気候に合った家を作るのは、何より大事なこと。
海が近く、湿気を含んだ海風が吹くこの場所は、湿気対策の万全な家がよいと思ったのだ。
高温多湿の日本で生まれた和風建築は、その点優秀。
木の柱もい草の畳も、余分な湿気を吸い取り快適にする。
……まあ、あとは団欒中いつでもどこでも寝転びたいという俺自身の望みからだ。
立派な洋館で、密室殺人が起きそうな独特の雰囲気もいいが、俺は我が家に、全身を弛緩させられるような落ち着きを求めた。
結果の和風建築だ。
まあ、要するに俺の好みを完全に反映させたのだ。
「でも驚きね~。旦那様にこんな家を建てられる技術があったなんて……!」
「そうだなあ、こんな珍妙な作りの家、おれも今まで見たことがないぞ。ご主人様は一体どこから珍奇な知識を仕入れてくるんだ?」
……。
まあ、その辺は完全に『至高の担い手』頼りだったけれど。
ノコギリやカナヅチを握るだけで、俺を一流の大工に変えて、オークたちへの指示もテキパキ出すことができた。
本当に『至高の担い手』様々だ。
このギフトをくれたヘパイストス神に、一日も早くおむすびを作ってお供えしたい。
では。
ここからさらに、我が邸宅のさらなる秘密を紹介していくこととしよう!!
* * *
さて、和風建築というコンセプトから出た我が屋敷だが、別に徹頭徹尾和風に拘ったわけではない。
問題なのは住みやすさ、快適さだ。
そこを踏まえて屋敷の内部は、一部分が洋間もあって和洋折衷が取り入れてある。
最たる部分が台所だった。
土間も兼ねた台所には、コンロや流し台のような設備の他に窯焼きオーブンも設置してみた。
ゆくゆくはこれでパンやピザを焼きたいと思っている。
米炊き用の釜も用意して、始めちょろちょろ中ぱっぱも可能だ。
肝心の米がまだできていないんだけど。
居住空間は和室が七部屋、洋室が二部屋とかなり多めだ。
それに加えて食堂と、何かあった時に皆で集まって話し合う大広間も設けた。
かなり部屋を多めにしたつもりだが、足りなかったら建て増しするつもり。
あと言い忘れたがこの家、二階建て。
前述の和室七、洋室二のうち和二洋一部屋が上にある。
二階の窓からは、海が一望できてとてもいい眺めだ。
そして和風建築だからこそ縁側も付けた。
天気のいい日にここで日向ぼっこするのが今から楽しみだ。
トイレは、依然としてガキヒトデを利用させてもらうことにした。
ヤツらの無限の悪食にていかなる汚物も即座に分解できるから、トイレも同棟に設置しながら非常に衛生的。
ただ、俺としては陶器で洋風便座を作り、座って用を足せるようにしたかったのだが、そこまではまだ無理だった。
陶器焼き用の窯がまだ完成していない。
家と並行して作っていたが、間に合わなかった。
そして風呂。
家を建てるにあたって目玉として取り組んだ設備であるが、これも完成に間に合わなかった。
せっかくの和風建築だから、というので檜風呂をイメージしたのだが、ヴィールの山ダンジョンに入って檜に近い建材を探そうとしたものの、失敗。
『至高の担い手』を使って一から檜を育てる、という考えもよぎったが、プラティ謹製ハイパー魚肥をもってしても、木を丸ごと一本、一日そこらで育成するのは不可能。
あと風呂を沸かすのを薪でやるのも手間で、その辺魔法で何とかしようとしたらプラティとヴィールの共同開発が難航して、やっぱり屋敷そのものの完成に間に合わなかった。
要は、我が屋敷はまだまだ未完成。これから絶賛成長中。
といったところだな。
それから、今回から家作り、畑の世話に協力してくれるようになったオーク、ゴブリンの皆さんは。家の脇に自分たち専用の家屋を作って、そこで寝起きするようになった。
「屋敷に一緒に住めばいいのに……」
と言ったが、オーク、ゴブリンたちから「そんなことは恐れ多い!」と辞退された。
それでもオークらが建てた自分たち用の居住施設は立派なもので、各自のプライベートがしっかり保障された個室が、横一列に並んで一棟になったような作り。
もしかして……、というか。
もしかしなくても長屋だった。
モンスター長屋か……。
風情があっていいのかもしれない。
ゴブリンたちもここから畑仕事へと出かけていく。
綿花やい草といった食物にするでない作物も育て初めて、さすがに一人ではどうにもならなくなっていたところで、彼らの応援は本当に助かった。
モンスターながらも自我を獲得したゴブリンたちは、自分たちが育てたい作物をリクエストして来て非常に労働意欲旺盛だ。
担当的には建築作業のオーク、農作業のゴブリン、という感じで分担ができている。
このまま彼らと一緒に開拓作業を頑張っていきたいと思う。
無論、頼りになるのはオークとゴブリンたちだけではない。
我が妻プラティも、初期から頼りになっている魔法薬をこれからも頼りにしていくぞ。
新住居を建設中。専用の魔法薬研究室でも用意しようか? と提案したが、既に醸造蔵を研究室代わりに使っているからと断られた。
醸造蔵と食糧庫は新住居より先に作られたが、ドラゴン形態のヴィールが無理やり持ち上げて移設した。
これで保存した食料も、醸造蔵の発酵食品も必要な時にすぐ取り出せることとなったわけだ。
我が屋敷の無敵感が増してきた!
そして俺たちが最初に暮らしてきた掘っ立て小屋は、何だか愛着も湧いてきたので取り壊さずそのままにしておくことにした。
以後は農具の保管倉庫兼、休憩場所として使用される予定。
こうしてまだまだ調整するところは多いけど、俺は自分の土地に自分の家を手に入れたのだ! これからの開拓生活がますます楽しくなってきたぞ!!
* * *
最後に。
もう一人の我が妻、ヴィールに関してだが。
「お前、ダンジョンに戻らなくていいの?」
「んー?」
すっかり実家のような安心感でくつろぐヴィールに、俺は尋ねた。
このドラゴン、そもそもこの近辺にある山ダンジョンの主だ。
「一応お前があのダンジョンの主なんだから、長いこと留守にすると都合が悪いんじゃないのか?」
いや詳しくは知らんけど。
でも貴重なたんぱく分を補給してくれる山ダンジョンが主不在で荒れ果てたら嫌だなあ。
「それもそうだなー。じゃあこうするか。ちょえええーい!!」
ヴィールがなんか気合いを込めると、彼女の体から光り輝くものが飛び出し、やがて形を成して顕在化した。
あれはドラゴン!?
ヴィールのドラゴン形態ではないか!?
でもこっちには人間形態のヴィールもいる。
ヴィールが二人。
「あれは、おれの魔力で作った分身だ。アイツをダンジョンに置いておけばよかろう。ないとは思うが、侵入者への対策にもなるだろう」
「そういうものか」
「それよりもご主人様ー! 俺は腹が減ったぞ! 肉! 肉を食わしてくれ! カリッと焼いたヤツな!!」
「はいはい」






