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336 絡繰仕掛けの天才(自称)

 俺です。

 ああビックリした。


 なんかいきなり超巨大自動人形が出てくるんだもん。

 館ミステリものと思いきや怪獣特撮ものに急きょ変更なんて聞いてないですわ。


 ……まあ。

 いずれも俺の勝手な思い込みなんですけどで。


 さらに言えば、トリックを凝らした殺人犯だろうが巨大怪獣だろうが敵ならば粉砕できる戦力をウチの子たちは有しているので結末は変わらない。


 実際、満を持して登場の巨大自動人形もあっけなく崩壊し、ただの残骸と化しちゃってるけれども。


「本当に何だったんだ……!?」


 今回引率役のパッファが訝しげに巨人の残骸を覗きこむ。


「前来た時はこんなの出てこなかったのになあ? 結局前の戦いで自動人形軍団は壊滅したんだから、こんな切り札があるなら使わないはずがないだろうに……?」


 その切り札も瞬殺されたんですがね……。


 偶然か意図してか、残骸となった巨大自動人形は頭部のみ無事転がっていた。

 攻撃が胴体に集中してか、本当に計ったように傷一つない。


 これがセオリーなら、機械だってんで何事もなく頭だけで喋り出すんだろうけど……。


『このおおおおおおッ! 貴様らああああああッ!?』


 おうッ!?

 まさか本当に喋り出した!?


『一体何者なのだあああッ!? 完全無欠の存在となった、この機械仕掛けの巨神マリアージュ2をおおおおおッ!?』


 と自動人形は頭部だけになって喚き散らしている。

 よく喋る人形だなあ、自動人形は皆こうなのだろうか?


「んッ? 今の名前……!?」


 パッファが反応する。


「なんだ? 何か引っかかることでも?」

「いや、今この人形が名乗った名前、たしか自動人形の制作者と同じような……!?」


 名前?

 たしかマリアージュとか言ってたな?


「自分の作品に自分の名前つけるってのもよくあるんじゃない? なんかコイツいかにも特別そうだし……」

『フン……! いいところを突くが惜しいな。私は、我が最高傑作にして、私自身だ!!』


 何言ってんだコイツ?


「え? キミがキミで? 最高傑作で?」

『だから私がマリアージュ自身だというのだ! 世紀の天才! 誰も作れないものを作れる! 時代の開拓者! それがこの私マリアージュだ!!』

「えー?」


 巨大自動人形は喚きたてるが、俺たちの側は半信半疑。


「自動人形を発明した魔法研究者マリアージュは、もう百年以上前の人物だよ? とっくの昔に亡くなって、この世にはいないよ」


 パッファの話では、死体も既に確認済みだという。

 前に訪れた時、土に埋めて葬ったとのことだが。


「……じゃあ、コイツが制作者マリアージュを自称しているのは……?」

『凡人の頭脳では到底理解できないだろうが教えてやろう。天才の偉業を知り、天才の偉大さを思い知るがいい!!』


 首だけになった巨大自動人形は、聞かれてもないのに自分の出自……、どういう目的で作られ、どう生まれたかを語りだした。

 コイツ自身が凄く語りたいヤツだ。


 証言をまとめたところ、コイツは製作者マリアージュの人格データを移し替えられたものだという。


 死期を悟ったマリアージュが、死後もなお存在し続けるために取った方策。

 みずからの作り出した自動人形の一体に、自分の記憶意識をそっくりそのまま転用する。

 そうすることで元の肉体が滅び去ったあとも存続できるということらしいが……!


「……どう思うパッファ?」

「迂闊に信じるのはちょっとね……。コイツら自動人形はただでさえ思考回路が短絡的で、自分がマリアージュだって信じ込んでるだけな可能性もある」

「そういうこともあるの?」

「実際ここで初めて会った自動人形は、マリアージュが死んだことにも気づけてなかったからね。コイツらの頭の作りは所詮その程度なんだよ。このデカブツも『記憶を移された』って設定を受けて、勘違いしてるだけなのかも……?」


 パッファがそう言うと、巨大自動人形の頭部は『なんだとおおおおおッ!?』と怒り出した。


『ふざけるな! 私は稀代の天才マリアージュだ! 最高傑作に生まれ変わったマリアージュだ! 天才の偉業にケチをつけるか凡才風情があああッ!!』


 彼(?)自身のプライドに関わることなのか、パッファの懐疑へ全力抗議する巨大自動人形(頭部のみ)。


『世界へ復讐するために、私自身が自動人形へと人格移植したのだ! 私自身の手で、私を認めなかった世界に復讐するために、最強自動人形へと転生したのだあああッ!!』

「既に敗北してるってのに何でここまで偉そうなんだ……!?」


 もう世界に復讐できませんからね。

 アナタ自身を含めてすべての自動人形崩壊してますから。


「でもだからと言って、コイツが本当にマリアージュの魂? を移し替えられた転生体だって証明することもできないしなあ?」

「できるんじゃない?」


 こともなげに言うパッファ。


 マジで?


「さすが六魔女の一人」

「いやいやアタイには無理だけど。先生当たりなら朝飯前で可能なんじゃないかなって」


 先生かあ……!?

 基本的に不可能ないからなあの人。


『先生? 何処の誰だか知らんが、私の偉大さを証明できると言うならしてみるがいい。私の天才的発想を理解できる頭脳を有していればの話だがな!』


 今や頭だけとなっているヤツが、何やら得意げに言う。


『どんなに偉かろうが、世間から認められようが、私を理解することなど不可能なのだ。私が天才だからだ。天才は誰からも理解されないから孤高なのさッ!』


 高慢なようでもあるが、どこか拗ねているような印象もあった。


 まあ、当人も望むなら白黒ハッキリさせてみようじゃないか。


 コイツが、本当に過去の魔法研究家マリアージュの記憶をコピーされた分身なのか。

 それともただ単に、勝手に信じ込んでいるだけなのか。


 それを先生に判別してもらうため、俺たちは転移魔法にて巨大人形の頭部ごと農場へと帰還した。


    *    *    *


 そして先生と対面。

 ノーライフキングの先生と。


『はわわわわわわわわわ……!?』


 凄まじき瘴気を伴う先生を前に、自動人形マリアージュは人形のくせに表情をこわばらせた。


『ノーライフキング……!? ノーライフキングううううッ!?』

『いかにも、皆から「先生」と呼ばれているノーライフキングであるが』


 先生は人格者で、たとえ相手が頭部だけとなった人形でも敬意を失わなかった。

 それに対して自動人形の方ときたら……。


『聞いてねえええええッ!? 聞いてない! ノーライフキングだなんて聞いてない!! 世界最凶の存在ではないかあああッ!?』


 いくらビビったからといっても礼儀は払いなさい。

 ご本人様の前ですよ。


「それで先生……、この人形なんですが……?」

『当人の言う通りで間違いないでしょう』


 概要をパッと説明しただけで即座に判断を下してくださった。

 つまりこの人形の中に本当にマリアージュの魂が?


『この人形からはプシュケーを感じます、プシュケーの発露は魂あるものの証明。当人の主張通り、この者の魂は肉体を脱し、この絡繰仕掛けの体に移し替えられたのでしょう』

『おお! おおおおおッ!!』


 本人が一番驚いてるじゃないか。

 口では豪語しながら自信なかったのか?


「やっぱり先生は凄いですねえ。一目で魂があるかどうかを見抜いてしまうなんて」

『我らアンデッドにとっては重要なことですからな。同じ不死者と言えど、魂を失わずに自律活動する者と、既に魂を失い傀儡と成り下がったリビングデッドとは大きな違いがあります』

「なるほどー」

『アンデッドとの戦いに慣れた上級冒険者なども見分けられると思いますぞ』


 ということで、この自動人形はマリアージュさん本人であると確定しました。

 確定したからと言って何かあるわけでもないけど。


 いや、ホントどうしよう……!?


『しかし、なかなかよい出来ではありませぬかな?』


 先生が、巨大な人形の頭部を見上げて言う。


『魂を別のものに移し替える……。魂の加工それ自体も超越者の領域で、我らノーライフキングでもなければ不可能と思っていましたが、まさか生身の人類に実行できる者がいるとは……』

『……』

『さらに人形も出来がよい。そうでなければ魂の入れ替え先として成り立ちませんが、この仕上げ、努力と情熱のあとが見えるようではありませんか』

『……ありがとう』

『は?』


 そこで俺と先生は同時に気づいた。

 頭部だけとなった巨大人形の両目から、涙が流れ出ていたからだ。


「ひッ!?」『うひぃッ!?』


 さすがに俺も先生も驚いて引く。


『初めてヒトから認めてもらった……!』

「え?」

『私のしたことを、初めて認めてくれる人が現れた……! ありがとう、ありがとう……!』

『お、おう……!』


 本気で感涙する人形に、俺も先生もどう対応していいかわからず『そうですか……!』と相槌打つので精一杯だった。


 って言うか泣く機能までついてるのか人形?

 よくできてるなあ……!

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