328 誰が強いの
ある時、ウチに留学に来ている若い子が、こんなことを問いだした。
「オークボさんとゴブ吉さんは仲がいいから実現しないと思うけど、戦ったらどっちが強いの?」
しかも当の本人らに。
横から聞いてた俺は『何てこと質問するんだ』と思ったが、質問された張本人であるオークボとゴブ吉は……。
「どちらが強いかなんて、大したことじゃないんだよ」
「そう、私たちは我が君たる聖者様の下で同じ目的に向かって働いているのだ。優劣を気にする必要がどこにある?」
大人!?
彼ら二人のあまりにも大人な対応に、俺自身が感動するほどだった。
そう、強いということに意味はない。
降りかかる困難や、嫌なヤツをぶちのめす時にのみ必要なもので、平時に比べ合ったり、まして自分より弱い他人を見下すために使うものではないんだ。
いいこと言った! 俺!
「納得できません!」
今の答えに満足できない生徒がいた。
若手魔族のエリンギアだ。
人魔人魚族が分け隔てなく混在する農場留学生の中でも、はねっ返りで有名な彼女。
今日もビンビンで尖っておるぞ。
「私たちは魔王軍、つまり戦うことを職務としています! そんな私たちにとって誰がどれほど強いかは一番の関心事! おざなりにはできません!」
「リテセウスくんのことは関心ないのー?」
「誰だ茶化したヤツはぁーッ!?」
この青春的なやりとり。
いかにも学び舎みたいな雰囲気でほっこりした。
言うのが遅れたが、ただ今は留学生を集めて農場授業の真っ最中。
本日はオークボとゴブ吉を特別講師にお招きしている。
その授業の中で飛び出したのがさっきの質問だった。
『……まあ、仕方のない心理と言えますかのう』
そう言ったのはノーライフキングの先生だった。
俺と共に授業の見学席にいらっしゃる。
『彼ら程度の年頃なら、誰が何番目に強いか拘るものです。くだらないものに拘るからこそ若さだと言えましょう』
千年以上を存在する先生の含蓄ある言葉だった。
『特にオークボとゴブ吉は、それぞれオークとゴブリンながら数段階の変異を果たした最強種。どれほど強いのかと興味を持ってしまうのも仕方ない』
そうですねえ。
オークボもゴブ吉も、我が農場で働くようになって随分長くなったが、最初はただのオークでゴブリンだった。
……はずだ。
なのにウチで働いていくうちに知らん間にパワーアップを果たしていて……。
オークボは……。
オーク→ウォリアーオーク→レガトゥスオークからの最終段階で……。
ユリウス・カエサル・オークへ。
またゴブ吉は……。
ゴブリン→スパルタンゴブリン→ブレイブゴブリンからの最終段階で……。
タケハヤ・スサノオ・ゴブリンへと進化している。
第一段階の変異で既にアスタレスさん辺りを圧倒していた彼らだ。
さらなる変異を経てどれくらい強くなったか、俺にもよくわからない。
そしてとにかく強さのランキング付けに拘る若者たちは興味津々なようだ。
『そうですなあ、ワシの見立てによるとオークボもゴブ吉も、世界二大災厄に並ぶ程度の実力はあるでしょうなあ』
なんかとんでもない見解がサラッと出た。
世界二大災厄。それはこの世界でもっとも凶悪最強とされる二種の存在、ドラゴンとノーライフキングのことだ。
「それって……、仮にオークボさんかゴブ吉さんが先生と戦ったら、先生に勝っちゃうかもしれないってことですか……!?」
留学生の一人が恐る恐る尋ねる。
ご自身ノーライフキングである先生は、苦笑しつつ……。
『その通り、ワシももう最強などと偉ぶってはおれぬな』
「いやいやいやいや……!」「滅相もない……!」
すかさずフォローに入るオークボとゴブ吉。
気配り人だった。
「我が君と並んで大恩ある先生にお手向かいするなど絶対にありません! 我々が先生に勝つなどというのも愚かな夢想です!」
『年寄りを敬ってくれるとは優しい魔物どもよ。好意を受け取るとしよう』
オークボ、ゴブ吉の尊敬の念によって彼らより先生の方が強いというポジションが固定されました。
こういう強くても慎み深いところを、留学生の皆も学んでほしいなあと思うのだが……。
「えぇ~、何そのグレー感……!?」
「なんだか収まりがつかないです。白黒はっきりさせたいですー」
「大人はいつもそうやって結論から逃げる!」
学生たちの評判は大層悪かった。
若い彼らは、何事も『1』か『0』かでしか物事を語れない。それがいつの間にか小数点をつけて、間の結論を出せるようになるのは成長したということか、それとも老いによる妥協か……。
「……では仕方ない」
俺は言った。
「彼らの疑問を解消するためにも、ここは一つ機会を設けようではないか。誰がどの程度強いか、疑念の湧きようがないくらいハッキリさせるための」
「我が君……、それは……!?」
オークボたちが不安そうに俺を見る。
……安心しろ、キミたちにガチンコ勝負させるなんてつもりは毛頭ない。
留学生たちを満足させるための考えなのだから、彼ら自身が当事者でなくては意味がないではないか。
「そういうけで、若者ら諸君には……」
我が農場の強者たちと、実戦形式で対決してもらう。
* * *
唐突に授業は実技に変更された。
野外、耕作予定地の開けた場所に、人族魔族人魚族の若者たちが集っている。
「本日は、キミたちの日頃からの疑問を解消するためにこの場を用意した」
群衆に向けて俺は言う。
「ただ、傍観者として目で見たところで強さなど実感しにくいだろう。そこで、キミたちみずから当事者として、我が農場選り抜きの強者たちと対戦してもらい、その強さを肌で実感してもらおうと考えた!」
その意図説明に、留学生たちからはブーイングの嵐。
「ぎゃー! やだー!」
「殺される! 殺されるー!」
「オレは別に誰が強いかなんて興味ないのにー!!」
さすがに農場の基本的なレベルは皆熟知しているらしく、リアルな死の恐怖に打ち震えていた。
他人事として誰が最強かと議論するのは楽しいが、自分がその中に放り込まれるとなれば別。
そういう感じなのだろう。
「大丈夫大丈夫、皆には殺さない程度に手加減してもらうから……」
実際のところ、こういう経験は授業としてもとても大切ではないかと思う。
世界最強レベルを実体験することによって世界の広さを感じ、見識を広めて思いやりの心を持ってもらおうと……。
「えー、では概要を説明します」
戦いは、人魔人魚の全留学生をまとめてと、農場から選出された代表者一人ずつとで対戦してもらいます。
それを聞いて留学生たちは、安堵と戸惑いが同時に起こった。
「全員対一人……!?」
「それはいくら何でも不公平というか……!? オレたちのこと舐め過ぎてません?」
ほう?
ではキミたちは全員で一斉にかかれば勝つことができると?
俺が選りすぐった農場の精鋭たちに。
「選抜した農場代表者は全部で五人。つまりキミたちは五回戦を戦うことになる」
模擬戦だから勝とうが負けようが五回やるよ。
「あと一応断っておくけど、その五人の選抜者の中に先生とヴィールは含まれていません。あとホルコスフォンも」
あのレベルをぶつけるのはさすがに外道すぎると慈悲の心が動いた。
「あ、あのー……!?」
学生の一人がおずおず手を挙げる。
何かな質問かな?
「聖者様は、戦われるのですか?」
「いや、俺は常に司会進行と審判役だよ。戦うのはそれ以外の五人」
そう答えると、学生たちの間で俄かに歓声が沸き起こる。
「よっし! よっし!」
「レジェンドクラスが出てこないなら、何とか生き残れるかもしれない!」
「一勝ぐらいできるかも!」
と楽観的なことを話し合っておる。
じゃあ早速、農場側五人の闘士の一人に登場いただこう。
一番手は農場在住魔族の代表として参戦してもらった。
元魔王軍、四天王補佐。
ベレナ。






