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321 感動の対面

 俺ですが。


 ゴティアくんとマリネちゃんを、お祖父ちゃんに会わせるプランをまず皆で話し合うことにした。


 色々情報を出し合った結果、エルロンたちの工芸品を買い取っている大口のお得意様が、なんとその大魔王であったと判明。

 世の狭さを実感しつつ、それを上手く使えないかと思った。


 皆で思案した末に……。


「ウチの工芸品で釣るか」


 という案でまとまった。


「大魔王さんとやらは美術品とか工芸品とかいうのが、とにかくお好みらしい。そして我が農場にはそういうのたくさんある」


 エルフが作る陶器、エルフが作る革製品、エルフが作るガラス製品、などなど。

 作っているのがほぼエルフだが、とにかくそういうのをエサに誘き出せば、大魔王さんはきっと農場へ来るはずだ。


「そこでゴティアくんマリネちゃんを対面させる! どうだろうか!?」

「よき案かと」


 皆から承認を貰って早速実行に移すことにした。


 まず招待状を書いて送る手はずを整える。

 その仲介を魔王さんに頼んだが、魔王さんは『父を謀るようなマネはできない』とまず意図を明かしてからお誘いするという。


 真面目だなあと思ったがそれが魔王さんの王才だ。


 上手いこと話が進んで我が農場へのご訪問が決まり、一同誠意をもって迎えることとなった。


    *    *    *


 今日が御来訪の日だ。


 俺たちは転移ポイントで大魔王様をお待ちする。


 魔国からウチの農場へ来るには転移魔法しかないので、このお出迎えスタイルはお約束だった。


 俺の目の前で、転移魔法による空間のブレが起こったあと、逞しい体格の魔族が二人、現れる。


 一人は魔王さん……ならば、もう一人の老けた方が問題の大魔王さんか。


「ようこそいらっしゃいました」

「うむ」


 大魔王バアルさんは、親子というだけあって魔王さんによく似ていた。

 当然、魔王さんより年上で、もはや老境の年格好だが、しかし体格はよく全身筋肉が盛り上がっていると服の上からでもわかる。


 この人がケンカしたら二十代の若者にも余裕で勝つな、と思える逞しさだった。


「大魔王バアル様は、派手な遊興ぶりでも評判でしたが、それに合わせて武闘派の魔王としても有名だったそうです」


 隣に控えるベレナが解説してくれた。

 さすが魔族娘だけあって祖国の事情に詳しい。


「現役の魔王であった頃は、人魔戦争の最前線に立って怒聖剣アインロートを振るい、人族軍を数千単位で吹き飛ばしていたそうです。だから本国で派手に遊んでもなかなか意見できなかったとか……」

「有能なのか無能なのかわからん人だなあ……」

「有能ではありますが時々激しく無能。というのが大勢の評価だったようです。有能と無能が交互に入れ替わるとも……」


 判断の難しい人だな。

 そういう人だからこそ魔王さんも嫌い切ることができず、ああして仲を修正しようと四苦八苦されてるんだろうが。


 とにかく、そんな魔王さんの援けになれるよう俺も全力を尽くそう。


「ではまず母屋にご案内いたします。こちらへ……」

「うむ」


 大魔王さんは『うむ』しか言わなかった。

 口数が少ない人なのか、それとも緊張しているのか。

 心の垣根を払って打ち解けるのはまだ難しい。


    *    *    *


 母屋では、先んじて訪問していたアスタレスさんグラシャラさんの両魔王妃が待ち受けていた。

 その胸には当然幼い子どもたちが。


「だ、大魔王様! 御機嫌麗しゅうございます!」

「ございます!」


 舅にして国父とも言うべき相手に、さすがに万全の礼を示すのだった。

 一兵卒から叩き上げのグラシャラさんは、礼儀作法に慣れてないので色々危うい。


「よい」


 大魔王さんが手振りで制する。

 そしてついに、魔王子ゴティアくん魔王女マリネちゃん、祖父との対面である。


「この場所のことはゼダンより聞いておる。いかなる勢力にも属さず、確認もされていない場所なればそこはないも同じ。我らの会見も正式に存在しておらぬというわけじゃ」

「はは……ッ!」

「だからこそ承服した、それを忘れるでないぞ」


 要するに『勘違いしないでよね! これで仲直りしたわけじゃないんだからねッ!!』という主張ということか。

 とにかくまずアスタレスさんが、大魔王さんの前へ進み出る。


「魔王ゼダン様より種を頂きました。魔王子ゴティアにございます」

「うむ」


 アスタレスさんの手から一歳の幼児を受け取り、胸に抱く。


「ほほう、元気な盛りじゃの。小鹿のように暴れおる」


 一歳のゴティアくんは、言う通り元気いっぱいで、大魔王さんの髭などを物珍しそうに掴んで引っ張らんとする。


「このように壮健で、妄聖剣ゼックスヴァイスの継承家系の母を持つ。魔王家の次代は安泰じゃの」

「恐れ入ります」


 ゴティアくんを返して、次に向かい合うのは第二魔王妃グラシャラさんと、その娘マリネちゃん。


「ゼダンのヤツが二人目を持つこと自体意外であったが……。バカ真面目なヤツゆえにの。怨聖剣の継承家系であったか……?」

「あのいえッ! アタシは分家の分家ですから、本家とはほとんど関係なく……!」

「そんな無名の一兵卒を四天王に引き上げ、なおかつ成果を上げたからこそゼダンの手腕が評価される。ワシにとっては口惜しいことであるがの」


 一通りマリネちゃんを抱きあやしたあと、グラシャラさんに返還する。


「責任ある者にとって、世継ぎを生み育てることも重要な役割。お前はその辺まで完璧にこなしておるのゼダン」

「いえ、これは徹頭徹尾アスタレスとグラシャラの手柄です……!」


 魔王さん畏まって言う。

 ついに対面を果たした祖父と孫たちに、魔王さんは感涙に咽びそうになっていた。


「結局、お前に魔王の座を明け渡したのは正解だったのかもしれんな。お前は永遠に終わらぬものと思われていた人魔戦争を終結させ、人魚国とも友好を結んだ。お前の手腕で世界が平和に向かっておる……」


 おお……!

 いい流れだぞ。


 今まで素直になれなかった大魔王さんが魔王さんの功績を認め、このまま和解の運びに……!?


「……もはや、魔国のことはすべてお前に任せ、この老体は完全に身を引いた方がよさそうじゃ。すべて好きなようにするがよかろう。だからワシは……」


 大魔王様、駆け出す。


「この場所を好きなだけ見学してくる!」

「待ったぁーッ!?」


 ドアを蹴破り脱出しようとする大魔王さんを、俺が寸前で食い止める。


「待ってください! 今日はアナタとお孫さんを対面させるために組んだんですよ! なのに話もそこそこ部屋から出ようなんて、どういう了見ですか!?」

「そんなことだろうと思ったが、ワシの目的はあくまで、あの素晴らしい皿やら神像を作った現場を見ることじゃ! そっちへ案内せい!!」

「するか! その前にゴティアくんやマリネちゃんをもっと可愛がれ!!」


 孫に直接接すれば途端に愛着が湧き、他などどうでもよくなるぐらいゴティアくんたちに首ったけになると思ったが、そんなことなかった。


 このジジイ。

 自分に興味のあることにしか興味がない!?


「うるせえええ!! ワシは大魔王だぞ偉いんだぞ! ワシの言うことを聞いてお前の抱える職人根こそぎワシに寄越せ!! 最高の作業環境を用意してやるから!!」

「サラッと要求上げてんじゃねええええッ!? お前が放置していた分だけゴティアくんたちをしっかり溺愛するまでこの部屋から一歩も出すかあああッ!!」


『有能であり、かつ激しく無能』という大魔王さんへの評価を激しく実感できた。


 俺と大魔王さんは、部屋から出す出さないの主張をぶつけ合って激しい小競り合いを繰り広げた。

 それらを眺めて、魔王さん御一家が揃って苦笑いを浮かべるのが見えた。


「聖者殿……、いいのだ、親父殿がそういう御方なのは息子の我が一番よくわかっているのだから……!!」


 仕方ない。

 こうなったら最後の手段だ。


「先生、お願いしまぁす!!」

『承知ですとも』


 こんなこともあろうかと隣室に待機してもらっていたノーライフキングの先生にお出ましいただき……。

 またいつものように神を召喚してもらった。


 今回呼び出したのは魔族の絶対主、冥神ハデス。


「ぬおおおおおーーーッ!? このうちにある神像にそっくりな御姿は、まさか……!?」


 ハデス神を目の当たりにして大魔王さん、大いに恐れおののく。

 そんな大魔王さんを、神は目の仇のように睨みつけ……。


『いいか……、浮気なんて、最低だ!!』


 懇々と説教し始めた。

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