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314 ドラゴンの秘密・始

「すべてのドラゴンが……!?」

「消滅する……!?」


 あまりにも不穏当な発言に、その場に居合わせた者の呼吸が止まる。


 そのリアクションに満足してか、邪悪な表情の子どもが進んで語る。


「そもそもおのれら、ドラゴンとはいかなる存在かちゃんと知っているのか?」

「ドラゴンは地上最強の種族だ!」


 ヴィールが即答したが、それに対して元ガイザードラゴンは失笑を返すのみだった。


「何故、地上最強の力を与えられているのか? ということだ。この世のすべての命ある者は神々が生み出した。地の生物は地の神が、海の生物は海の神が、天の生物は天の神がそれぞれな」


 では、ドラゴンを生み出したのはどの神か?

 天地海、どの神でもない……。


「万象母神ガイア。この世界そのものを生み出した創世神こそが我らの親よ……」


 ドラゴンは、あらゆる法則に囚われない超越の存在。

 その秘密の一端が垣間見えた。


「世界そのものを創造した万象母神は、のちに天神、地神、海神をそれぞれ生み出し世界の彩りを任せた。しかし神々の中には傲慢にして、地上の生ける者を虐げる者もあらわれた」


 その事態を憂いた創世神は、子神の勝手を許さぬよう監視役を置いたという。


「それが我らドラゴンだ。ドラゴンは神々を監視し、行き過ぎれば掣肘を加え傲慢を正す。その役割を持って生み出された」

「そんなッ!?」


 元ガイザードラゴンの物語りに、俺たち人間組だけでなく当のドラゴンたちまで驚く。


「だから神々と対抗できるだけの力を我らは許されているのだ。使命を持って生み出された我らに、勝手気ままに繁栄することは許されない」

「それがまさか……!?」


 最初の話と繋がるのか。

 全ドラゴンは、新たな竜の王が決まるたびに消滅するという。


「新たなガイザードラゴンが決まれば、それまで生きていたドラゴンはすべて消されて一となる。その上でガイザードラゴンが自分の複製を生み出して数を揃える。神々に対抗する軍団を作り上げるため。それがドラゴンの生態なのだ」

「何故そんなことをするんだ!?」

「与えられた使命を忘れぬようにするためだ」


 生き物は、生き続ける限りその在り方が変容していく。

 最初に持っていたはずの意義、宿命すら忘れて変化する、その時々の環境に対応して。

 それを成長とか、進化とか呼ぶこともある。

 一個人ですら一生の間で別物のように様変わりするのに、種族としての変化は時を経るほど止めようがない。


 ドラゴンもただ時の経過だけに任せていけば、種族としての進化変容によって最初に与えられた使命を忘れていくことだろう。

『神を監視し、罰せよ』という使命を。


「それを忘れさせないため、定期的にリセットボタンを押す……!?」


 新しいガイザードラゴンが発生するたび種を一度滅ぼし、新たにゼロからスタートし直せば、最初に与えられた使命を忘れることは絶対にない。

 ドラゴンは永遠に、祖神が与えた命令の忠実な実行者でありえる。


「そう……、地上最強などと驕っても所詮ドラゴンは神の道具なのだ。その在り方からはみ出すことはできない……!」


 元竜の王だった子どもは、疲れ果てた老人のような顔つきだった。


「それでもおれは運命に抗おうとした。永遠に皇帝竜として君臨しようとした……!」

「それがあの後継者争いだったのですね……?」


 長男竜たるアレキサンダーさんが問いただす。


「そうだ。お前を後継者から外したのも、『ニンゲン贔屓を気に入らなかった』というのは口実よ。単におれが永遠に皇帝竜の座に居座りたかっただけだ」


 そして不在となった後継者の椅子をエサに、自分の複製体でもある子どもたちを戦わせ、その隙を突いて力を奪い、吸収した。


「思えばあの後継者争いも、代替わりによって引き起こされる全消滅の前倒しのようなものでしかなかったな。最後に一竜だけが残る結末は変わらん……」


 そう言って、元ガイザードラゴンは皮肉っぽく笑った。


「しかしその最後の一竜にはおれ自身がなるつもりだった。最終的にはアレキサンダー、お前も倒して力を奪い。若さをも取り戻して永遠の皇帝竜となるはずだったが、その野望はアードヘッグによって打ち砕かれた」


 『龍玉』に見捨てられた彼はもう何もできない。

 静かに滅びを受け入れるのみ……。


「だが! ならばせめて滅びの運命を知り、無様に足掻くお前たちを嘲笑いながら消えてやるとしよう! さあ、目の色変えて『龍玉』を奪い合え! これを勝ち取った者だけが生き残るのだ! 最強種ドラゴンが破滅の恐怖に追われ必死にもがくのだ! こんな愉快な催しがあるかあああああッ!!」


 もはや脱落が決まった元ガイザードラゴンのアル・ゴールさんは、もう完全ヤケで高笑いしていた。


 その横で俺は、お馴染み先生に声を掛ける。


「先生、先生」

『はい』


 戴冠式ということで先生にも参列してもらっていた。

 おめでたいことは皆で祝う方がいい。


 そんな先生に、これまたお馴染み召喚魔法で神を召喚してもらった。


 万象母神ガイア。


 すべての神の生みの親と言うべき根源神。

 そんな取り分け偉い神様にお願いした。


「代替わりしても竜が滅びないようにしてくれませんか?」

『いいよ』


 世界の法則が変わった。

 これでドラゴンは、世代交代するたび選ばれた一体を残して全滅するという過酷な宿命から解放された。


「あれぇーーーーーーーーーーーーーッ!?」


 あまりにすんなりといった問題解決に、竜の皇帝だった方、衝撃を受ける。


「そんな!? そんな簡単に!? こんな簡単に生き残れるんだったらこれまでのおれの苦労は何だったの!?」


 本当なんだったんでしょうね?


『竜は変わらずとも世界は変わっていくでしょう?』


 召喚されたガイア神……、すべての母というべき女神様であったが。

 用事だけ済ませて帰るのも何なのでという感じでコメントを述べる。


『あっ、その食べ物美味しそう、貰っていい?』

「どうぞどうぞ」


 創造神様は、戴冠式のために用意しておいたご馳走を目敏く見つけて抓む。

 抓みながら語る。


『直系のバカ息子アホ娘を見張るためにアナタたちを生み出したわけだけど。そのアホどもも時過ぎることでけっこう賢明になっていってね。アホのゼウス以外は監視の必要もないなって思えてたのよ』

「わかります」


 ここにちょくちょく遊びに来るハデス神やポセイドス神も大概いい人だし。

 ……いい神?


『問題のゼウスも先ごろ自分の子どもらによって幽閉されたし。もう問題ないでしょう。この際ドラゴンに与えた任を解くから自由に生きなさい』

「えええええーーーーッ!?」


 驚愕し動揺するのは元ガイザードラゴンだった。

 他のドラゴン面子は、特に沸き返る様子もなく……。


「好きに生きろと言ってもなあ……!?」

「おれたち元から充分自由に生きてたぞ。これ以上どう自由になればいいんだ?」

「姉上はもっと縛られて生きた方がいいんでは?」


 そうか。

 たしかにコイツら元からとんでもなく自由だった。


『そんなものよ。そもそも神々のヤンチャなんか遥か昔に途絶えてたんだから。竜たちも自由にやってたわ。今回の変更は既に死文化していたものを本格的に削除したに過ぎないわ』


 創造神様、お気楽に言う。


『自由に生きなさい竜たちよ。お前たちもまたこの世界に生きる者。好きなように振る舞い己の生きた意味を遺すがいいでしょう』

「ひゃっほーう」


 ヴィール。

 意味もなく盛り上がるな。


「じゃあ、色々めんどくさいのも消え去ったということで、本題を進めるのだー!」


 本題?

 何だっけ?


「忘れたかご主人様! 今日はアードヘッグがガイザードラゴンになるための戴冠式なのだ! これがあればいいんだろう?」

「あッ!?」


 ヴィール、元ガイザードラゴンから赤い宝玉をひったくると、迷わずアードヘッグさんに向けて……。


「食らえぇーーッ!!」


 とぶっつけた。

『龍玉』を握った拳が、丸ごとアードヘッグさんの鳩尾に沈む。


「ぐげえええーーーッ!?」


 そりゃ「ぐげえッ!?」って言うよね。

 引き抜いたヴィールの手に『龍玉』はなく、何処に取り残されたか明らかであった。


「アードヘッグ! ガイザードラゴン就任!!」

「「「「おおー!」」」」


 周囲から惜しみない拍手が飛んだ。


『竜から必要ない使命と共に「龍玉」も消しちゃおうかと思ったけど。そうねえ、種族を束ねる長は必要でしょうねえ。残してあげるから自由に使いなさい』


 創造神様は大らかに言うのだった。


 こうして、この世界に新たな皇帝竜が生まれ、人類だけでなくドラゴンにも新しい時代が訪れた。

 ……ってことでいいのか?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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[一言]神様みんな軽っ!!
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