312 竜の戴冠式
そんな感じでアレキサンダーさんのダンジョンを改築してきました。
俺です。
向こうはさすが最強ドラゴンのダンジョンというだけあって、大きく立派。
訪ねた俺たちは圧倒された。
ダンジョンというよりは宮殿に招待されたような感じで、改装の作業する俺たちも緊張し通しだった。
おかげでヴィールのダンジョンにあるような果樹園をアレキサンダーさんのダンジョンにも植林できて、ダンジョン果樹園出張版が完成。
有名観光地でもあるアレキサンダーさんダンジョンの新たな名所となってくれたら腕を振るった甲斐があったというものだ。
そんな感じでアレキサンダーさんとすっかり仲良くなり、打ち解けて数日。
その数日で別の準備も進んでいた。
アードヘッグさんが正式にガイザードラゴンとなる。
そのことを正式に示す戴冠式の準備が着々と進んでいた。
* * *
そして完了した。
今日ついに、アードヘッグさんが正式な新ガイザードラゴンに就任する。
戴冠式である。
「うひいいいん……! どうしてもおれじゃないといけないのか……?」
アードヘッグさんが、いまだに現実を受け止めきれずにいた。
ガイザードラゴンとは皇帝竜。
すべてのドラゴンの王。
ドラゴン社会では、このガイザードラゴンの座を巡って激しい後継者争いが勃発していたのだとか。
そんな中、元々のガイザードラゴンが、あるドラゴンとその仲間たちによって倒された。
それがアードヘッグさん。
だからこそ新たなガイザードラゴンに相応しいと皆から押し付けられている。
皆で奪い合うはずだったものが今、押し付けられ合っているという不思議。
「おれには荷が重すぎますよ……! やはりアレキサンダー兄上かヴィール姉上の方が……!?」
「その話はもう済んだだろうが、皇帝たる竜が未練がましくするな」
姉に説教される新皇帝竜。
農場には、今日の主役アードヘッグさんに、お馴染みヴィールと、真最強ドラゴンたるアレキサンダーさんがいる。
皆TPOを弁えて人間形態だった。
新ガイザードラゴンの戴冠式はここ農場で行われる。
「……あのー?」
俺はおずおずと尋ねる。
「あの何故、ガイザードラゴンの戴冠式をウチの農場でやるんでしょう?」
いや別に迷惑とか言うわけではないが、栄えある竜の王を選出する式典には、もっと相応しい舞台があるんじゃないか、って気がするんですが?
一応こちらも準備に協力させていただきましたが、所詮農場なんでホームパーティみたいな様式になっちゃったし。
「それはな……!? アードヘッグを祝う方々が来やすいようにだ」
最強竜アレキサンダーさんが答える。
年配者の滋味を醸し出すように。
「祝う……人……?」
疑問はすぐに解けた。
「アードヘッグ殿! 皇帝竜就任おめでとう!」
アロワナ王子が人魚国から泳いできた。
かつて修行の旅で一緒になった仲間が、ここで再会!?
「聞きましたぞ! 皇帝竜とはよくぞ出世なされた! 共に修行の旅した仲間として誇らしく思いますぞ!!」
「アロワナ殿……!? おれを祝うためにわざわざ……!?」
互いの手が固く握り合われ、ブンブン上下する。
アロワナ王子だけではない。
パッファ、ハッカイ、ソンゴクフォンなど旅の仲間が集結、仲間の出世栄達を祝うために。
……。
大半のメンバーは元々農場に住み込みということは、この際見逃して。
「皆……! 皆ありがとう……! ガイザードラゴンなんて重荷すぎて正直なりたくないなーって気持ちなんだけど。皆から祝ってもらうのは心から嬉しい……!」
どさくさに紛れて情けない気持ちをぶっちゃけた。
「しかし……! 皆にこれだけ応援されたなら逃げるわけにはいかぬ! 全力でガイザードラゴンを務めよう!」
「その意気だアードヘッグ殿!」
「アロワナ殿とて人魚王となるために日々精進しているのだ! 友であるおれも竜の王となってアロワナ殿と同じ高みに並ぼう!!」
「おおーッ!!」
人魚の王と竜の王って同じ線上に並ぶのかな?
まあいいや。
当人が納得してくだされば。
「うむ……! 仲間内から持ち上げてもらう作戦は上手く進行したようだな」
傍から眺めてアレキサンダーさんが満足げに頷いた。
もしやこれ……、当人に腹を決めさせるためにアレキサンダーさんが企てた策略?
この最強竜は策も弄する?
まあ、これでアードヘッグさんも土壇場ながら決意を固め、いよいよ新生ガイザードラゴン就任を阻む障害は何もない。
「それではいよいよ戴冠式を始めよう。アードヘッグこそが次なる竜の王だと示すために」
そのアードヘッグさんより数十段強い竜の皇太子が言った。
新たな王が正式に決まるけど、それより強いのが他にいる。
この捩じれた状況は、竜の世界にどんな変容をもたらすのだろう?
いや、元からそういう状況だったといえばそうなのだが。アードヘッグさんが倒した前のガイザードラゴン自体、もう既にアレキサンダーさんには敵わなかったらしいし。
「でもさ……、ふと思ったんだけど」
「ん?」
ウチのヴィールが言う。
彼女もガイザードラゴンへの興味はとっくの昔に失せていた。
「どうやれば正式にガイザードラゴンになれるんだ?」
…………。
俺はもちろん、アードヘッグさんもアレキサンダーさんですら首を傾げた。
「単に名乗った者勝ちでは……?」
「それだったらあんな大仰な後継者争いをやる必要もないだろ? 新たなガイザードラゴンになるためには、何か特別な何かが必要なんじゃないか?」
ヴィールのくせに真っ当な意見を出しやがる。
たしかにそうかもしれない。
新しいガイザードラゴンになるために必要な何かがある。
それが何かを知る者は、ここに居合わせる者の中にはいない。
もう戴冠式当日だってのにヤバくない?
何故この疑問を今この時になってまで放置しておいた?
「いやもう正統性とかどうでもいいから勝手に名乗っておけば……?」
「えー? 何かそういうの気持ち悪いぞー?」
意外と几帳面なヴィールだった。
ではどうするの?
ちゃんとした方法が発見されるまで戴冠式延期?
そんな考えすら浮かんでいると。
「ククククク、お困りのようだな?」
「誰だッ!?」
戴冠式の場に、見知らぬ何者かが現れた。
子どもだった。
十歳前後ぐらいの幼い。初めて見る背格好の子どもだった。
「子ども? 何故ここに……?」
我が農場は、これでもちっとやそっとではたどり着けない秘境の奥にある。
そこへたどり着くのは生半可なことではない。
まかり間違っても幼い子どもが迷い込むような場所ではない、ここは!
「一体何者だ……?」
和やかな戴冠式のムードが一気に緊張に包まれた。
我が農場へ自力でやってくること自体がただ者でないことの証。
そのただ者でないのが子どもの外見をしているので不気味さは倍増だ。
「クククわからぬか? 無理もあるまい、ニンゲン風情の粗末な感覚器では、偉大なるおれの本質を見透かすことはできまいからな」
「まさかアナタは……!?」
「父上!?」
アレキサンダーさんとヴィールが一斉に警戒感をあらわにする。
現れた、その子どもの正体は……!?
「そうだ、さすがにお前らはおれの正体に気づいたようだな、我が子らよ」
子どもは言った。
「おれこそが真なる竜の王、皇帝竜、ガイザードラゴンのアル・ゴールだ……!!」






