311 観光悲喜こもごも
オレの名はシャベ!
人間国の冒険者だぜ! ウェーイ!!
今はまだまだ三下だけど、いつかは大成果を上げてトップランク冒険者になってやるぜ!!
そのためにもオレは探す!
聖者の農場を!
今、冒険者ギルドでもっともホットな話題、誰もまだ見つけていない謎の理想郷を見つけ出せば、その功績は大! 特大!
ドラゴンを倒したとか言うのをさらに上回るだろう!
富も、名誉も、夢も、そこに眠っている!
聖者の農場へレッツゴー!!
* * *
そんなわけで今日オレは……。
人間国で間違いなく最高水準のダンジョンだと言われる『聖なる白乙女の山』に来ておりまする。
「そこと聖者の農場と何か関係があるの?」と聞くヤツがいるかもしれない。
……。
……特にないです。
仕方ないだろッ! 聖者の農場はそう簡単に見つかるものじゃないんだよッ!
探し始めてもうかれこれ一年近く経つが、手掛かりの一個も出てこない。
だから今日は気分を変えて、旅の途中たまたま近くを通りかかった最高ダンジョンに、せっかくだから寄っていこうというわけだ。
『聖なる白乙女の山』は、その名が示す通り山タイプのダンジョン。
そして山ダンジョンには大抵ドラゴンがダンジョン主に付く。
この山にもダンジョン主たるドラゴンが君臨していて、グラウグリンツドラゴンのアレキサンダー様というのだそうだ。
そのアレキサンダー様っていうのが変わったドラゴンで人類好き。
だから自分のダンジョンを人族のために開放し、自由に出入りしていいシステムになっている。
普通主ありダンジョンなんて、入るなら上級冒険者が死を覚悟しないといけないレベルなのに、安全が保障されるって言うんで大盛況。
しかも主ありダンジョンは、主が管理しているからレアな素材やモンスターの出現率も高い。リスクに見合った報酬も期待できるダンジョンなのだ。
そのダンジョン主が冒険者を歓迎して安全を保障してくれるって言うんだから、つまりローリスクハイリターン。
そりゃ優良だわってんで、冒険者ギルドから付けられるダンジョン等級――、普通星一つから星五つまでの評価基準なのに、規定越えの星六つを付けられた最優良ダンジョン。
それがここ『聖なる白乙女の山』なのだ!!
冒険者なら誰もが行きたがる、この最高ダンジョンに、オレもついに足を踏み入れる!
一流冒険者の第一歩を踏む気分がするぜ! いざ行かん!!
『聖なる白乙女の山』は麓に受付用の冒険者ギルド支部があって、そこでダンジョンに入る許可を貰わなければならない。
さらに周囲には、ダンジョンに入る冒険者のための宿泊所や、準備を整えるための各種売店。
憩いとしての酒場や、果てに賭場や劇場まで。
もはや一個の街と言っていいぐらいの規模だった。
さすが人間国一のダンジョンだなあ……、と圧倒されながらギルドに入る。
ダンジョンへの立ち入りは冒険者ギルドによって厳しく制限され、基本的にギルドから認められた冒険者しか入所不可。
オレもまず地元で貰った冒険者免許を見せて、ギルド加入者であることを証明。
続いてダンジョン入山申請書を書いて、それとは別にダンジョン内で何かあったとしてもオレ個人の責任でギルドに訴えたりしませんよという誓約書を書く。
加えて憲兵所から貰ってきた『ここ数年犯罪に関わっていません』という証明書を添えて、ダンジョン獲得物の利分け表にしっかり目を通しましたよというサイン。
さらに簡単なアンケートにも応えて、ダンジョン挑戦中宿泊や装備についてギルドからの支援を受けるかという判断を……。
……ッ。
……めんどうくせえッ!!!!!!!!!!
なんでギルドのダンジョン入所手続きってこんなに面倒くさいのッ!?
いや、やんないとダンジョンに入れないからやるけどさあ!!
もうちょっと簡易的になりませんかね!?
人間国滅びて魔国に支配されたんだから、これを機に改革をッ!?
* * *
などとごねつつ手続きをやっと終わらせたオレは、ついに入ることができる。
人間国最高のダンジョン『聖なる白乙女の山』へ。
何気に楽しみだよ?
だって人間国で間違いなく最高のダンジョンだなんて言われてるからさあ?
オレの地元にあった一つ星のしょっぼい洞窟ダンジョンとは比べ物にならないんだろうなあ。
規模もクオリティも。
出てくるモンスターも強力で、手に汗握る死闘を繰り広げればきっとレベルもズンドコ上がるに違いない。
レア素材もたくさん入手できて報酬もガッポガッポなんだろうなあ。
夢が広がるぜ最高ダンジョン!
いずれオレが到達する聖者の農場も、きっとこんな素晴らしい感じなのかなあ、とイメージ演習しながら攻略していこう。
そうして夢膨らませてダンジョン入口まで来てみたら……!
……ん?
なんかダンジョンの入り口に柵がしてある?
そして柵の前に立札があって、こんなことが書かれていた。
――『ダンジョン「聖なる白乙女の山」はただ今改装工事中で、立ち入りが禁止されております』
なーんーだーとおおおおおおおーーーーッ!?
なんで!?
何この観光地あるあるッ!?
わざわざ遠くから足を運んできたのに、やっと現地に到着したと思ったら『入れません』て!?
『入れません』って!?
なんでもっと大々的に周知してくれなかったんだよ!?
そうしたら、ここに寄ろうかな? って発想する前に気づけたじゃない!!
……え?
してた?
旧人間国各所にある冒険者ギルド支部に告知してある?
オレがそれに気づかなかっただけか。
それもよくある。
しかしそれでも入れないなら、あんな七面倒くさい手続きもしなくてよかったでしょう?
ってな感じに諦め悪くブー垂れていると……。
「手続きを取っておくと次来た時に省略できますから、やっておいて損はないですよー」
と受付嬢さんからやんわり言われた。
それでも気が済まないので受付嬢さんをナンパしてみたがすげなく断られた。
……ちっくしょー。
大体ダンジョンが改装って……、何をどう改装するんだよ?
ダンジョンって自然にできたものじゃないの?
自然にできたものを改装とかできるの?
……できるんだろうなあ。
だってドラゴンが主なんだから。
せめて改装って何やってるんだろうなあ? ってたしかめるために中を覗こうかと思ったが、バレたりしたらダンジョン出禁になって最悪冒険者の資格はく奪されるかもだから諦めて大人しく去った。
それでも、まったく何もなしで帰るのも癪なので、宿場町の賭場でメチャクチャ博打してスッて帰った。
* * *
そんなことがあって数週間後。
相変わらず聖者の農場を探し求めているオレに噂が聞こえてきた。
あの『聖なる白乙女の山』ダンジョンの噂だ。
「オイ聞いたか? アレキサンダー様のダンジョンが装い新たにリニューアルしたって!?」
と冒険者仲間から聞かされる。
おう、ということはダンジョンの改装完了したのか?
「すげぇらしいぜ! なんとダンジョンの中に果樹園ができたらしいんだよ!!」
果樹園?
っていうと、果物作ってるあの?
「そう、それだけでも驚きだってのに、しかもそこになってる実が、余所にはない貴重な果物らしいんだ!! 味もサイコー! その果物をメインターゲットにベテラン冒険者が突入するらしいんだぜ!!」
興奮気味に語る冒険者仲間。
……そうか。
改装によって、そんな新名物ができたのか。
現状に満足せず、改良改革を加えてよりよい発展を目指す。
オレも見習わなきゃな!
オレも改良改革を加えて発展し、いつか聖者の農場へたどり着くんだ。
こんな一つ星ダンジョンで日銭を稼いでいる暇なんてないんだ!!
クソッ、最高ダンジョンに入れなかった鬱憤晴らしで賭場に入り浸って所持金全額スラなければ!!
しかもあとから聞いたら、最高ダンジョンの改装終了してリニューアルオープンしたの、オレが去った翌日だった。
何なのこの間の悪さッ!?
くっそう! この苦境から逆転するためにも!
絶対聖者の農場を見つけてやるんだから!






