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308 誰が殺した

 真なる最強ドラゴン。

 グラウグリンツドラゴンのアレキサンダーさん。


 その突然の来訪は、俺たちに事件を予感させたが。

 やっぱり事件が起きていたらしかった。


「お父さんが、倒されたって……?」


 俺もさすがに加わらざるをえなかった。

 アレキサンダーさんのお父さんってことは、それこそ竜の皇帝ガイザードラゴンだろう?


 そのガイザードラゴンが倒されたって!?


 大事じゃないか。


「私も気づいたのはつい最近でな。大気に交じって伝わってくる父上の気配が途絶えたのだ」

「そんな風に感じ取れるんですか?」

「父上は老いたりともガイザードラゴン。その存在感は世界全土に充満する。ただ気をつけて探知しないと感じない程度で、わたしも父上のことなんかどうでもいいから、しばらく気にしていなかったのだ」


 で、つい最近になって異常を察知したと。


「わたしも竜同士の社交を断って久しいので情報が入って来ぬでな。何か知っている同胞がいないかと飛び回っていたら、ここを発見した」


 そしてヴィールと出会ったと。


「ヴィール、お前何か知っていないか?」

「知ってるぞー」


 ヴィールはいつも通りにあっけらかんと答えた。

 え?

 知ってるの!?


「ご主人様だって知ってるんじゃないのか?」

「何が?」

「あの人魚どもが父上を倒したって」


 ……。

 ん?

 人魚?

 って誰!?

 竜の王様を倒しちゃうようなマッチョブルな人魚に心当たりがないんですが!?

 脳内検索ヒット、ゼロ件!!


「ご主人様も薄情だな。ほらアイツだよ、プラティの兄ちゃんの、こないだ修行から帰ってきた」

「アロワナ王子!? マジで!?」


 俺何も聞いてないけど!?


 アロワナ王子からは帰還後、修行の土産話をチラホラ聞いていたが、さすがに皇帝竜を倒しましたなんてエピソードは聞いてない!?

 あまりにスケールがデカい話なんであえて話さなかった?

 奥ゆかしいアロワナ王子ならありそうな話だが。


「おれはアードヘッグのヤツから聞いたぞ。『うっかり父上を倒しちゃったけどどうしよう?』って相談口調で」

「そんな軽い話なの!?」


 うっかりで倒しちゃったんだ、しかも!?


「…………」


 その話を聞いて、賢老の姿を持つ皇太子竜アレキサンダー。

 しばらく沈思して……。


「では、父上を倒したのはアードヘッグとその仲間たちか?」


 と確認してきた。


 いや待ってください!?

 まさか、お父さんを倒された敵討ちとか!?


 それはアロワナ王子やパッファなども標的に入ります!?


「アードヘッグに会わねばならんな。今どこにいるだろうか?」


 会ってどうなさるおつもりで?

 まさか『罪を償え死ね!』みたいな展開にならないよね!?


「アイツは今、世界中を飛び回ってるだろう気ままに。普通に探すとなったら面倒くさいぞ」

「そうか」

「そこで、アイツには緊急用の何処にいても繋がる魔法通信を登録済みなのだ! 呼べば、どんなに遠くにいても今日のうちに飛んでくるだろうドラゴンの翼なら」


 ちょっとヴィール!

 何トントン拍子に話を進めてるの!?


 もう少しアレキサンダーさんの真意を窺ってからの方がいいんじゃなくて!?


「頼む、呼んでくれ」

「わかった、ハイ来れ、来たコレ!」


 何それ呪文!?


「何か用ですかヴィール姉上!? おや、アレキサンダー兄上までいらっしゃるではないですか!?」


 そしてすぐ来た!?

 グリンツドラゴンのアードヘッグさん!


 なんでそんなにタイムラグなしに来ちゃうの!?

 まったくドラゴンってなんで何から何まで常識が通用しないの!?


    *    *    *


 こうして我が農場に計三人のドラゴンが集った。

 ドラゴンの数え方って『何人』でいいのか?

 それはともかく。


 元々ウチに住んでるグリンツェルドラゴン(皇女竜)のヴィール。

 ちょくちょくウチに顔出すグリンツドラゴン(皇子竜)のアードヘッグさん。

 そして今回初参加のグラウグリンツドラゴン(皇太子竜)のアレキサンダーさん。


 ……あと一匹なんかいたような気がしたけど、これ以上話がややこしくなるのが嫌なので、触れないでおいた。

 酒瓶の中で大人しくしていてくれ。


 とにかく、ここに複数の竜が集うサミット的空間に。


「我が弟グリンツドラゴンのアードヘッグに問う」

「何でも答えよう」

「我らが父ガイザードラゴンをお前が討ったという。相違ないか?」

「違うな。おれ一人の手柄ではない。我が旅の仲間全員で得た勝利だ」


 アードヘッグさん!

 無闇に仲間を巻き込まないで!!


「おれが英雄にして王者と認めたアロワナ王子や、その奥方パッファ。それにソンゴクフォンやハッカイ。誰一人欠けても父上には勝てなかった」


 普段なら「何て仲間思いな物言いなのでしょう!」と感動するところなのだが、今は不安で胸いっぱい!

 大丈夫?

 アレキサンダーさんから「では、その仲間全員に報復するとしよう」とかにならない!?


「……そうか、よくぞ成し遂げた」


 あれ?


「父上には、いずれ我が手でけじめをつけなければならないと思っていた。それがグリンツドラゴンの筆頭たるグラウグリンツドラゴンとしての我が役目。それを弟竜であるお前に肩代わりさせてしまい心苦しい」


 あれ、なんか意外と好意的。

 お父さんをボコボコにされたのに。


「ご主人様、観察が甘いぞ」


 ヴィールから叱られるように言われた。


「兄上と父上は仲違いしていると流れで説明しただろう。それなのになんで兄上が父上の敵討ちする必要がある?」


 しかも人格的にアレキサンダーさんの方がダンチで上っぽいしなあ。

 つまり打倒ガイザードラゴンは、正義にして益なることだったのか。


「父は、不仲のわたしに対抗するため他の竜から力を奪おうとまでしていたからなあ。誓約の呪いをかけるために後継者選びの試練をでっちあげるなどと姑息な手段まで使って……」

「仰る通りです! おれは父の非道を看過できず、仲間と共に抗ったのです!」


 聞けばアードヘッグさんも一度は試練の不合格を言い渡され、誓約によって力を奪われそうになったという。

 力を喪失したドラゴンは知恵を失い、レッサードラゴンという獣のような存在へと成り果ててしまう。


 アードヘッグさんを大事な仲間とみなしていたアロワナ王子たちは「そうはさせるか!」と抵抗し、その流れで打倒ガイザードラゴンを果たしてしまったと……。


「友情って凄いなあ……」


 さすが努力勝利と合わせて三本柱にされるだけはある。


「ですが、我らの所業が父殺しの大罪であるというなら抗弁は致しません。新たなるドラゴンの首魁となるべきアレキサンダー兄上が裁かれるというなら、おれはそれに従うのみ」


 潔い!?


「わたしは、そんな偉そうな役目に収まるつもりはないのだ。我が望みはニンゲンの輝かしき可能性を見守ること。ドラゴンの権力争いからは一線を引いておきたいのだよ」

「しかし兄上……」


 ヴィールが口を挟む。


「父上がいなくなったからには、誰かが新しいガイザードラゴンになることは必然の流れだと思うぞ? その第一候補は、元々正統後継者である兄上じゃないか?」


 もしアレキサンダーさんが新しいガイザードラゴンに即位しなければ、それこそ残ったドラゴンたちで後継者争いが勃発することになろう。


 今度は調停役なしで、ルール無用の仁義なき戦いになるに違いない。


 しかもそれを最強種ドラゴンたちが行えば、その戦いは当事者の中だけで収まるわけがなく……。


 きっと人類への巻き添えも酷いことになるだろうなあ。

 戦いの余波で街や村が壊滅しましたとか、普通にありえるかも。


「そうなったら困るなあ。ニンゲンの営みは、わたしにとっても大事なことだ」

「兄上って人格者?」

「何かいい考えは……。お、そうだ!」


 アレキサンダーさんの頭上で豆電球が光った幻覚。


「アードヘッグ」

「はい?」

「お前が次のガイザードラゴンになりなさい」

「はいッ!?」


 唐突な無茶振りが始まった。


「今生ガイザードラゴンであった父上を倒したお前こそが後継者に相応しい。お前は、みずからの実力で皇帝竜の座を勝ち取った。それでいいではないか」


 厄介ごとを押し付けたいという意図がありありと感じられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] Σ(゜Д゜;)まだ酒瓶の中に入ってたの!?竜酒出来ちゃわない!!??
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