30 華燭
こうしてアロワナ王子は海へと帰って言った。
ここで起きた出来事を父である人魚王に報告し、承認を得るのだという。
お土産に我が畑で獲れた野菜をたくさん持たせて、俺たちは彼を送り出した。
今度来てくれた時は、ハムや燻製も贈れるようにしたい。
「あの……、旦那様、本当にいいの?」
見送りのあと、プラティがおずおずと俺に尋ねてきた。
「アタシのこと、本当にお嫁さんにして……! アタシが言うのも何だけど、ほぼ完全に勢いよね……!?」
「結婚っていうのは九割勢いでやるもんじゃないのか……?」
未来のことなんか考えたら、色々ありすぎてとても踏み出せたものじゃない。
「アタシ……、人魚国で面倒なことが色々起きて……、それが煩わしくなって家出して……! それで旦那様に出会ったの。釣り上げられたから嫁になるなんて半分こじつけ……!」
やっぱりそうだったか。
「でも、ここで旦那様を一緒に生活するようになって、とっても楽しかった。旦那様の作ってくれる料理はおいしいし、旦那様を手伝うこともやり甲斐がある……! 旦那様、本当にアタシ、このままここにいてもいいの?」
「もちろん」
「やったあ!」
プラティが心底嬉しそうに、俺へ抱きついた。
また互いの結びつきが強くなったような気がした。
「じゃあ……」
そんな俺たちの隣に、ドラゴンのヴィールがいた。
もちろん人間形態だ。
「おれもニンゲンと結婚する」
「「!?」」
この発言の突拍子のなさは、さすがドラゴンというべきところか?
「何言ってるのこの竜!? 旦那様は、もう既にアタシと結婚してるんですけど!?」
「強いオスなら、複数のメスを独占することぐらいよくあるだろ。ご主人様ぐらい強ければ、百のメスを犯して従えようと何の問題もない」
「ご主人様!?」
なんか妙な呼び名が!?
「おれは考えたのだ! どうしたらご主人様から聖剣を奪うことができるのか!? ご主人様と結婚したら、財産は共有になるだろ!?」
「あー……!」
「ご主人様が寿命で死んだら、遺産として邪聖剣を引き継げばいいのだ! ニンゲンの生など、我らドラゴンから見れば一瞬! 待つだけで労せず聖剣は我が手にというわけだ! ふははははははは!!」
正面突破が叶わぬと断じて、持久戦に持ち込んだってわけか?
「あと、ご主人様の妻になれば、ご主人様の美味しいご飯も毎日食べ放題だからな!」
「そっちの方が主目的か!?」
「さあご主人様! このグリンツェルドラゴンのヴィールも妻として娶るや否や!? まあ答えを聞くまでもないがな! ニンゲンごとき下等種族が雌竜を娶るなど、これ以上の栄誉はない!」
うーん、と俺は悩んだ結果。
「NO」
「えええええええッッ!?」
プラティと正式に契りを結んだその日に、別の女を見繕うとか無節操な気がしたし。
あとヴィールの「受け入れられて当たり前」という態度がちょっと……。
「ど、どうしてだご主人様? おれのことが気に入らないのか? おれが向こうのアンデッドの王に負けてしまうくらい弱いのがいけないのか?」
ヴィールは、意外なほどオロオロしだした。
そして次には、ポロポロ涙を流して泣き出した。
「ええええええええッッ!?」
さすがに泣かれるのは反則だ。
俺は即座に取りなしにかかるしかなかった。
「ウソウソウソウソ! ヴィールのことは大好きだよ! 嫌ってなんかいないって!!」
「じゃあ、俺と結婚してくれるのか?」
「YES! イエスイエス! します!」
「やったあ」
結局押しきられる形となった。
プラティから「仕方ねえなコイツ」みたいな目で見られたが、本当に仕方がない。
他にどうすればよかったというのだ?
* * *
こうして俺は二人の妻を同時に持つことになった。
重婚とかの問題は……、問題ではないのであろう。
何せファンタジーだ。
富だろうと女だろうと、強い男がすべてを独占できるのだ!
……俺は強くないけどね。
すべては神様からの贈り物『至高の担い手』のおかげ。
手に入れたものではなく背負ったものとして、彼女たちの幸せを目指していくとしよう。
そこで。
次に作るものが俺の中で決定した。
家だ。
今、俺たちが寝床としているのは、簡単汲み上げただけの掘っ立て小屋。
とても粗末にして簡素。
元来は、俺一人が雨露を避けて寝られるようにという目的で建てたものだしな。
男一人の住まいとしては充分だが、家族の住居としては不充分。
というか論外。
アロワナ王子から怒られたのもいい機会だ。
俺も結婚して一家の大黒柱となった以上、妻たちとのびのび暮らせる立派な住居を拵えなければ!