305 出産祝いラッシュ
我が子ジュニアが生まれて早三ヶ月。
その間絶え間なく皆が祝辞を述べてくれた。
新しい命の誕生。
それよりめでたい祝い事などあるだろうかという勢いで毎日お祝いムードだった。
我が農場に住む者たちは無論のこと、その外からの客人たちも。
ある時などは魔王さんが訪ねて来て……。
「申し訳ない」
来るなり速攻土下座された。
「ええッ!? なんでッ!?」
魔王さんから頭を下げられる心当たりがまったくないので困惑する。
「ご子息への出産祝いが遅れた挙句、結局渡せなかったことに対して謝罪させていただく! 我が身の不甲斐なさこの上ない!!」
ああ。
そういうこと。
まあたしかに出産に伴って祝いの品を贈り合うのはよくあること。
ウチだって魔王さんのとこのゴティアくんやマリネちゃん誕生の際には、農場からたくさん出産祝いを贈った。
それに対して此度、ウチのプラティがジュニアを出産したのは、絶好の返礼の機会ということだろうが……。
「聖者殿の愛息にどんな贈り物をしていいのかわからず……! ぶっちゃけ、何を贈っても元々ここにあるものに見劣りするので、あらゆる贈り物候補が却下に……!」
「ああ……、なんか……、そう、すみません……!」
たとえば、ウチのジュニアにベビー服でも贈るとしよう。
ただ我が農場にはバティという世界最高水準の縫い師がいる。
彼女のデザイン、作成する服はトップブランド。
素材も我が農場でのみ作られる一級の生地。さすがに金剛絹のような伝説級素材は滅多に使わないが、普通の絹や木綿など、日常生産される素材も外に出せば凄まじい価値があるという。
そんな素材と制作者によって作り出された自前ベビー服に勝るものを、用意できるか?
……できなかったらしい。
それは他の品物についても同じような状況で、贈り物とすることを却下。
何を贈っていいかわからない。
という風に魔王さんを困らせていたとは!
「き、気にしないでくださいよ。気持ちがこもっていれば何だって嬉しいですよ! 俺と魔王さんの仲じゃないですか!!」
「……いや、そうやって聖者殿の寛容さに甘え続けるわけにはいかん。ここはせめて、肝心の気持ちだけでも全力で表そうと思い用意させてもらった!」
おお!
その言い方だとあるんですね贈り物!
わかりました!
その出産祝い、何であろうと全力で喜ばさせていただきます!!
「歌を歌う!」
「ん!?」
「ジュニア殿誕生の喜びを込めて、我が魔族に伝わる祝いの歌を歌わせていただく! それが我からのプレゼントだ!」
マジで気持ちだけを純化させてぶつけてきた。
魔王さんが咳払いして喉を調整している間、オークボやゴブ吉が楽器持って出てきた。
「キミらが演奏するの!?」
楽団オーク&ゴブリンの演奏。
魔王ゼダンさんによる歌。
曲名『おはよう赤ちゃんボンジュール』
「お~はよぅ、赤ちゃんボンジュ~ル~♪」
うわ、すっごい美声。
魔王さんらしい低音の歌声が腹にズッシリ響く。
普通にプロ並みの歌唱力。
それを母プラティに抱かれて、一番前で静聴する我が息子の表情は曇っていた。
……ちょうど今時、お昼寝の時間帯だった。
『静かにしてくんねえかなあ』という表情になるのも致し方なかった。
ゼロ歳児に気を使えというの無理な話か。
魔王様、サビの繰り返しまできっちり歌い上げて終了。
普通にスタンディングオベーションが起きそうなくらい、いい舞台だった。
「どうだろう!? 喜んでくれただろうか!?」
しかしそれをきっちり理解するのは、まだゼロ歳児にはキツイかなあ?
「おお! ジュニア殿も喜んでいるではないか! よかった! 気持ちが伝わった!」
「えッ!?」
つられて見てみると、すぐさま昼寝したいジュニアの表情には何とも言えぬ苦笑が浮かんでいた。
ゼロ歳児が既に気を使うことを覚えていた。
さすが俺の息子と思うと同時にやるせない気分になった。
* * *
そんな風に、外からの出産祝いに贈られるものは気持ちを最大限に示した無形のものが多かった。
アロワナ王子からは神前相撲でジュニアの無病息災を祈るものだったし。
もちろんそれらの催しは嬉しい。
皆がジュニアの誕生を祝い、健やかな成長を祈ってくれているわけだから、これ以上に嬉しいことがあるだろうか?
いやない!
そんなこんなでジュニアも幸せ者だなあ、と満足しつつ新生児期が過ぎていくのかと思いきや……。
特大級の出産祝いがやって来た。
* * *
『出産祝いを届けに来ましたぞ』
「え? 先生が?」
ノーライフキングの先生のご訪問に、不審を感じたのは理由がある。
先生は、既にジュニアの出産祝いを贈り終えているはずだったからだ。
かなり初期、それこそ生まれたその日のうちに、先生はジュニアに元気に育つ守護魔法をかけてくださったではないですか。
それなのに重ねてプレゼントに来られるとは……。
まさか先生、アンデッド歴千年目にしてついに『出産祝いはまだかい?』『もう贈ってくれたでしょう』的な状況に!?
『いやいや、ワシのはもう贈り済みなのは知ってますとも。まあ別に何度も繰り返し贈ってもよいものですが』
え?
じゃあどういうこと?
『ジュニアに贈り物をしたがっているのは、この方々でしてな。じゃー』
先生が杖を振ると、空間が歪んで次元の穴が開く。
もはや見慣れた光景だが、これはつまりまた……。
「神降臨!?」
地の神ハデスと、海の神ポセイドス。
それに加えて各眷族神の方まで押し寄せてきて、いつ以来ぶりの神大集合!?
『聖者の息子に祝福を与えるのは余だ』
『いいや余だ!』
現れるなりケンカしてる地と海の神!?
一体何事なんです!?
『聖者よ、跡取り誕生おめでとう。今日はこの地母神の夫ハデスが直々に祝いにやって来たぞ』
『だからそれは余の役だっていってるだろー! 勝手に割り込んでくんな!!』
なんでそんなに険悪なんです?
あんまウチの子にギスギスした人間関係……もとい神関係を見せないでほしいんですが?
教育に悪いから!
『何、聖者よ。汝の下に新たな命が生まれたからには、神からも祝いを贈らねばならんと思ってな。不死の王に命じて降ろしてもらったというわけじゃ』
「それは気を使っていただき申し訳ない……!」
まさか神直々にお祝いが来るとは。
スケールがデカすぎて恐れ多いが、来てくれたからにはしっかり歓待しなければ。
『だから聖者の息子に祝福を与えるのは余だって言ってるだろ! 地の神どもは帰れ!!』
しかしハデス神の横で、海神ポセイドスが執拗にごねていらっしゃる。
だから何故そんなに敵対的なのです?
お祝いなんだから皆で和気藹々と祝えばいいでしょうに?
『……聖者様、これには神々の定めたルールが大きく影響しておるのです』
見かねた先生が補足してくれた。
『神には、人と接するに対して絶対守らねばならぬルールがいくつかあるのです。その一つ……!』
――神は人に、さらなるものを与えてはならない。
「ああ」
それ前にも聞いたことがある。
なんでも前に、神が人へ色々な力や加護を与えすぎたせいで世界のバランスが崩れかけたから、与えるなら一つだけにしましょうってヤツだよね?
『そのルールから、ご子息へ贈られる神からの祝いは一回のみ。その権利を巡って神々は反目しあってるわけですな』
なるほどわかった。
我が子ジュニアを巡る神々の状況が。
正直やめて欲しい。
ウチの子が原因で神々の戦争が勃発したら洒落にならん!!
「ここは厳正に、どちらの祝福がジュニアに相応しいか厳正に審査しましょう!」
神対抗。
ジュニアへの贈り物品評会スタート!!






