300 異世界妊活計画
色々あって農場に帰ってきました俺です。
プラティの里帰り兼俺の両親御挨拶は大過なく終了。
無事こそ成果とあいなりました。
人魚王夫妻は「またいつでも遊びにおいでなさい」と送り出してくれた。
アロワナ王子は当然ながら人魚国に残る。これから王位継承に向けての準備に取り掛かるそうだ。
魔王さんは、せっかく訪問したのに後半空気だった。俺たちと同じタイミングで辞去。魔都へと戻り人魚国との正式な平和条約調印へと進むらしい。
アロワナ王子の修行に同行した旅の仲間で、まずハッカイは農場に戻り他のオーク共々農場勤務に戻る。
ドラゴンのアードヘッグさんは、そのまま旅を続けて世界を飛び回るらしい。
『試練がなかろうと、おれは英雄と王を見守るのだ!』と去り際に言っていたが何のことやわからなかった。
天使のソンゴクフォンもそれに同行していった。
本当に何故かわからないが『あーしはフリーダムだしー』が捨て台詞だった。
双方、気が向いたら農場なり人魚国になり遊びに来るそうなので今しばらくは放置でよかろう。
そして最後に、見事アロワナ王子と恋仲になった彼女が……。
* * *
「これから授業を始めらぁーッ!!」
「パッファさん投げ遣りに教えないでください」
依然として我が農場に住み込みが続行になった。
アロワナ王子と婚約して、本格的に人魚の王室に移り住むと思いきや、魔女としての前科が災いし、そのまま輿入れ不可とされてしまった。
この問題を解決するには、過去のイメージを払しょくする実績づくりが必要であり、その一環として教師をやるパッファ。
現在農場には、マーメイドウィッチアカデミア農場分校と称して若い人魚の女学生たちが多数留学している。
彼女らを優秀な魔法薬学師に育て上げれば貢献度を認められて、アロワナ王子との結婚もスムーズになるだろうという理屈だった。
「お前らあああああ! 一刻も早く一人前になって活躍しやがれえええええ! アタイの人妻ライフ実現のためにいいいいッ!!」
「そんな下心剥き出しにしてたら却って逆効果ですよ」
それだけではない。
ここ農場では現在、若手人材留学企画実行中ということで、人魚族の他にも魔族人族の留学生が滞在して様々なことを学んでいる。
そういう意味では講師パッファが高名を得るにはもってこいの環境ということで、新たなステージに励んでください。
……と、思ったのだが……。
「……なあ、聖者よ」
「んー?」
「教え子どものことなんだが、ちょっと気になるというか……」
「そうだねぇー」
パッファも気になっておいでだが、俺も気になっていた。
誰もが気になる状況変化が留学生たちに起き始めていた。
それは……。
カップル祭り、である。
「ワルキナさーん、今日の授業わからないところがあったのー、一緒に復習しましょう」
「スタークさん! 明日のダンジョン実習、一緒に受けませんか!? 私一人じゃ怖くて!」
「手作りチョコです! よかったら食べてください!」
「許嫁とかいないんですか? いないんですよね? よしッ!!」
「おっぱいは大きい方が好きですか小さい方が好きですか?」
「これは、魔族で流行っている占いで、頭蓋骨が砕けたら二人の相性は最高なんですよー」
「勘違いしないでよね! アンタのことなんか全然大好きなんだからね!!」
……。
若者たちの間で特濃ピンク色の旋風が吹き荒れておる。
「恋の色一色だなあ……」
どうしてこうなった?
「そりゃあ十代の男女を混ぜたらこういうことになるに決まってるだろ」
「若さか……!?」
「そう、若さだ」
「若いって凄いなあ……!?」
若い男女が同じ場所にいたら恋が起きないわけがない。
これはどんな世界でも共通の原則であるらしい。
そもそもの引き金としてリテセウスとエリンギアのカップル成立があるようだが、あれをきっかけに留学生間で異種族カップルが次々成立しているようだ。
「でもまあ、これも目的達成にはいいことなんじゃない?」
パッファが現状を分析する。
「というと?」
「三種族が交流して、友好を深めることも留学の目的なんだろう。留学生どもが色ボケ化して、国際結婚しまくれば嫌でも各国の距離は縮まるだろうよ」
たしかに。
俺が思い描いていた友好とは違うが、これも絆が深まる一つの形か。
やや肉欲が主体となっているのが気になるところだが、ここで学んだ子たちが将来結婚して、間に子どもが生まれ、ハーフの次世代が大いに活躍していけば、それもまた平和な時代の助けになろう。
「あーあ、見せつけやがってムカつくなあ。アタイも早く結婚したいなあ、結婚したいなーっと……」
パッファが恨み節を述べる。
けどアナタだって事実上婚約してるし相手のアロワナ王子も公務の合間を縫って三日と空けずに通ってくれてるでしょう。
農場に恋の嵐が吹き荒れておる。
チッ、リア充どもが妬ましい。
しかし、あらゆる生物がつがいを見つけ、子を成し育てるのは世界でもっとも自然なこと。
だから基本的に色恋沙汰には静観していたが、ある時それを結びつきを感じざるを得ない出来事が起こった。
ここからしばらくは、その出来事について語っていきたい。
* * *
発端は、オークボから持ち掛けられた相談事だった。
「ダルキッシュさんが、俺に相談?」
「はい」
とはいえオークボ自身の悩み事ではなく、彼はあくまで仲介者だった。
相談の根源はダルキッシュさん。
旧人間国で領主を務めている。
若年ながら有能な領主で、領民を愛し分別のある良識者。
出会ったきっかけは、オークボたちが趣味で城を建てたいというので、その築城場所に選んだ土地がたまたまダルキッシュさんの治める領地内にあったことから。
そこに建てられた風雲オークボ城は、今では領の名物として観光資源化している。
オークボたちも、製作者として城の維持管理に時おり訪問しているらしく、領主であるダルキッシュさんのところにも挨拶に寄るのだそうだ。
「ダルキッシュ殿には最近悩みがあるそうで……、詳しく聞いたところ我らではどうにもならない問題だったのですが、我が君ならばよい思案があるのではないかと……!」
「ほう」
ダルキッシュさんには俺も恩義がある。
彼の領内に勝手に建てたオークボ城を黙認してもらったしな。
あの時の寛大さに報いるためにも、俺にできることならお役に立ちたい。
「では、ダルキッシュさんからの相談事を受けるためにも農場にお招きするか。又聞きだと礼を失するしな」
「畏まりました」
そんなわけでダルキッシュさんを農場にお招きすることになった。
* * *
農場に来てくださったダルキッシュさんには同行者がいた。
彼の細君ヴァーリーナさんだ。
二人の馴れ初めはやや複雑で、つい最近終結した人魔戦争と無関係では語れない。
戦争に負けた旧人間国は占領され、領主の下には魔王軍から監視役が派遣された。
その役目をもって領主ダルキッシュさんの下に来たのがヴァーリーナさんだった。
かつての敵同士で微妙な関係にあった二人だが、色々あって互いを好き合うようになって結婚。
魔族と人族の国際結婚。多分その第一号だろう。
いわばウチの農場で吹き荒れている恋愛旋風の先駆けと言える存在であり、将来彼らのようなカップルが増えてくれればいいなあと思っている。
ある意味うちの十代カップルの先輩に当たるわけだ。
そんな二人が、一体どんな相談を。
「あの……まずは聖者様、跡取りのご誕生おめでとうございます」
対談するなりダルキッシュさんから言われた。
ジュニアのことをオークボ辺りから聞いたのか。
「わざわざご丁寧にどうも。でも、今日の用件はそちらの相談事を聞くことですんで、挨拶は手短に……」
「いえ、実のところ私たちの相談事は、そのことと関係あるので……!」
ジュニアと関係?
私たち?
「私とヴァーリーナも、一緒になってから相応の時間が経ちました。私ども、夫婦としての相性はよいようで日々健やかに過ごせています」
「彼は私をとても大切にしてくれて、日を増すごとに『結婚してよかった』という気持ちになれます」
なんだ惚気か。
「しかし、そんな私たちの結婚生活にも唯一問題があって。しかもかなり重要な問題と言いますか……!」
「赤ちゃんが、まだ……!!」
ほう?
そうか、ダルキッシュさんとヴァーリーナが結婚したのは昨年冬の頃。時期的に妊娠報告があってもおかしくない。
「夫は領主です。自領を託す後継ぎが必要です。そしてその後継ぎを生むことは、領主夫人となった私の大事な使命なのです!」
「しかし挙式から半年以上。その……、励んではいるものの、いまだ私たちの下に授かり物はなく……」
そろそろ焦り始めていると。
そうだよなあ。
封建社会だと、血統の継続は重要問題。子どもが生まれないという理由で離縁されることもあるという。
そういう事情からして二人の悩みは深刻なものだろう。
まだ数ヶ月程度じゃないか、と軽く見ることはできるが、人族魔族の国際結婚という物珍しい二人に、何かとケチをつけたい者たちがいないとも限らない。
くだらない発端で愛する二人の仲を裂かないためにも、俺にできることがあれば躊躇いなく実行すべきだろう。
……。
でも……。
俺に何かできることがあるのか? 子宝を二人に贈るために?






