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02 ギフト

 ここで話を少し遡って、俺が異世界に転移する直前のことを語りたい。


 その時、俺は前の世界にも、今いる世界にも、どちらにもいなかった。

 狭間、異次元というべき場所だろうか。


 そこで俺は神様に出会った。


『ボ、ボ、ボクは神様なんだな』

「…………」


 俺の前に現れた神様は、あんまり神様っぽくなかった。


 神というにはあまりに風采上がらず凡庸で、ぶっちゃけ言うと賢くなさそうだった。

 ただ、それだけに純朴で誠実、相手に対して絶対ウソなどつかないと納得させる品格を持っていた。


『お、おにぎり持ってないかな?』

「…………」


 周囲からバカにされつつも、なんか凄い芸術品とか作り出しそうな雰囲気。


『き、キミはこれから異世界に召喚されるんだな。ボクのパパが、キミのことを選び出したんだな』

「パパ?」

『天の神の王ゼウスなんだな』


 そういうアナタは何の神様なんですかと尋ねると……。


『ボ、ボクは造形の神ヘパイストスなんだな。モノづくりが得意なんだな』


 とヘパイストスさんは答えた。

 愚鈍そうだが好感の持てる人柄だった。いや神か。


『今まで異世界召喚の管理はアテナの仕事だったんだな。でもアイツは男嫌いで、召喚者を露骨に差別するというんで、他の神から文句が出たんだな』


 よくわからないことを一方的に話してくる。

 あとになって考えれば、俺たちの住む世界から異世界へ誰かを召還する際に、それを管理する神様がいて、その神様に問題があった、ということなんだろう。


『だから今回実験的に、他の神々も召喚者にスキルを与えることにしたんだな。キミの担当はボクになりました。ヨロシク』

「よ、よろしくお願いします」


 相手の態度に誠意が窺えると、こっちも丁寧に対応せざるを得なかった。


『じゃ、じゃあ早速キミにスキルを与えるんだな。ひ、人にスキルを与えるのは初めてなので、少し頑張っちゃいました。ハイ』


 そうして神の手より光り輝く何かが現れた。

 その光は、俺へと向かって放たれる。


『ボ、ボクは造形を司る神なので、スキルを作り出すことにも手抜きはしなかったんだな。だからちょっと扱いづらいかもしれないけど、キミならきっと大丈夫なんだな』


 光が、俺の胸に吸い込まれて消えていく。

 内部で、自分と別の何かがかっちり組み合わさって、境目なく融合した感触を得た。


『ボクの作った「至高の担い手」を余すことなく活用してほしいんだな』


 それが、異世界にやってくる直前に見た、謎の体験だった。


              *    *    *


 そこから異世界召喚、王様との謁見を経てこの未開の土地にやってくるまでになると、あの体験が何だったのか理解できてきた。


 あれは、神様が俺にスキルを与えてくださったのだ。


 俺の他にいた十人ぐらいの召喚者も同じ体験をしたのかわからぬが、とにかく俺はスキルを貰った。

 それなのに神官から「スキルなし」と判定されたことは大いなる疑問だが、それは些細な疑問だろう。


 今こそ俺は、造形神ヘパイストスさんから与えられた力を試してみる。


「発動せよ『至高の担い手』……!」


 俺は、地面に広げた道具一式から鎌を拾い握った。

 周囲は、何百年と人の手が加えられず草がぼうぼうに伸び放題。


 その草むらに向けて、鎌を振り放った。


 ザン、と。


 一薙ぎで見渡す限りの草が一斉に斬られて散った。

 鎌の刃から真空波でも出たのだろうか? と思えるくらい、鎌の刃渡りで届く距離の数十倍の範囲が一気に狩り尽された。


 それだけではない。


 普通雑草というの生命力旺盛で、草を刈り取っても根が残っていれば明日にでも復活するものだ。

 それなのに、俺の鎌によって刈り取られた雑草の残りは、しおしおと萎れて根まで枯れ果ててしまった。


「まさに命を刈り取ったなあ……!」


 そう言いたくなる絶大な効力。


 次に俺は鍬をもった。


「再び『至高の担い手』よ。お願いします」


 鍬を使うからには土を耕すのだが、大体ここからあそこぐらいまでの範囲を耕そうかなあ?

 そう思って鍬を振り下ろす。

 そしたら衝撃波っぽいものが鍬より放たれ、地面を走り一直線に土を掘り返していく。

 その衝撃波は、あらかじめ俺が「あそこまで耕したいな」と思った範囲まで及んだ。


「……効果覿面」


 もはや疑いない。

 ヘパイストスさんから貰った『至高の担い手』の効力は実証された。

 俺の使う『至高の担い手』の力は、手にした道具の役割を最大限以上引き出すスキルなのだ!


 鎌を握れば鎌の名手に。

 鍬を握れば鍬の名手に。

『至高の担い手』は俺を変えてくれる。

 きっと他の道具を握れば、もっと多種多様な達人にしてくれることだろう、俺を。


「これさえあれば開拓作業だって楽々だな!」


 こんな便利スキルをくれたヘパイストスさんには、祭壇でも築いておにぎりを捧げたい。

 何故かよくわからないがあの神様はおにぎりが大好きだと思ったからだ。


 ところで。

 何故こんなとんでもないスキルを与えられた俺に対し、王国の神官たちは「スキルなし」だと判定したのだろうか?


 ヘパイストスさんは言っていた。

「本来異世界転生を管理する神が問題を起こしたので、自分が交代した」

 たしかそんな意味のことを。


 ヘパイストスさんが俺にスキルを与えたのはイレギュラーだったのだ。

 さらに彼は造形の神を名乗った。

 物作りを生業とする人は、何かを作るとなれば意識しなくてもついつい本気のクオリティを志してしまうものだ。

 その結果生まれた『至高の担い手』というスキルは、神の本気によって作成されて、もはやスキルの域を超えたシロモノとなってしまった。


 だから俺の持つ『至高の担い手』は、スキルであってスキルではない、スキルを超えた何かであるのだろう。


 あえて名付けるならば、そう。

 ギフトとでも呼ぼうか。


 神が贈ってくれた驚異の力。


 神が人に与える力がスキルとするならば。

 神が人に贈る力がギフト。


 それが俺の『至高の担い手』の分類になる。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 知的障害と吃音をお持ちの山下清さんについて世間やマスコミが求めていたキャラクター像をもう少し解像度あげてから新たにキャラクター設定して欲しい。少し調べればわかることだけど。 ダメなキャ…
[気になる点] 山〇清画伯をぶっ込んでくるからには、それなりの年齢とお見受けしますが、作文能力が残念でなりません…
[気になる点] スキルのない俺に備わった。  ギフト。  神からの贈り物を。  神から与えられたものでなく、神から贈られたものを。 与えられたものではなく、贈られたとか書きながら、その後の文では与え…
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