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287 愛の食べ物

 こうしてダンジョン果樹園で色々あって、樹霊たちとお知り合いになった。

 キノコとたけのこの争いも調停されて、一応一件落着と言ってよかろう。


 そこで俺は新たなチャレンジをすることにした。

 早速ながら。

 キノコたけのこ騒動でヤツらだけでなくカカオの樹霊、カカ王と顔見知りになったのである。


 せっかくだからここでカカオを原料に作られるもの。


 チョコレート作りに挑戦してみようではないか。


『早速聖者様のお役に立てて、光栄です』


 カカ王は、農場の俺の屋敷まで来ていた。

 樹木の霊だから一ヶ所に固定されるのかと思いきや、意外と何処にでも移動可能。


『カカオの実というのはですね、カカオポッドとも呼ばれているんですよ』


 さすが本人(?)だけあってカカオのことに詳しい。


『ヤシの実のような硬い殻の中にカカオの種がたくさん詰まっているのです』


 そしてカカオの樹霊カカ王は、そのカカオポッドに目鼻がついているような外見だった。

 そしてフヨフヨ浮遊している。

 何でも実に魂を宿すことで、本体である樹木と分離して遠隔行動が可能らしい。


 そしてカカ王そのものであるカカオポッドがひとりでにパカッと開いて、中からカカオ豆がダバダバ出てきた。


『これでチョコレートをお作りください』

「お、おう……?」


 手間がかからないのはいいことだが……?


『カカオ豆からチョコレートを作るには、まず豆を焙煎しなければいけません』

「はあ……!」

『次に、粉状になるまで細かく砕き……』

「はい……!」

『砂糖を加えながら、温めながら混ぜていき……!』

「おぬ……!」

『適当に溶けたら、型に入れて冷やし直して完成!』


 指示がテキパキ過ぎる!?


 なんなのカカ王!

 そこまで至れり尽くせりなケアしてくれるの!?


 いつもだったら新しい料理を作るのに試行錯誤があるところだけど今回まったくなかったよ!

 今までにないくらいスムーズ!?


 やっぱり一番美味しい料理法は素材本人(?)に聞くのが一番いいと言うことですか!?


「いっただっきまーす」


 そしてプラティがもういた!?

 出来上がったチョコレートを断りなく口に放り込む!!


「ビター!! また今までにない感じのお菓子ね!!」


 お口に合ったようで何よりです。

 でも量は控えてね、妊娠中はカフェインいかんらしいから。


「系統的にケーキやアイスクリームに近いものっぽいけど、苦味が交じってて大人の味ね! ……あれ? そういえばヴィールが来てないわね? こんな美味しそうなものの気配ががあればすぐ来るのに?」

「アイツは今、山ダンジョンに残っているから……!」


 山に住む誰からも主扱いされなかったことにショックを受けたらしい。

 これまで農場に入り浸っていた分を取り戻すように、山ダンジョンの支配を重点的にやり直すそうだ。

 現在、山ではブレイクハートなドラゴンによる粛清の嵐が吹き荒れていることだろう。


「ま、アイツの分は冷蔵庫に入れておけばいいか」


 保存が利くのが、チョコレートが他の洋菓子より優れたるところだ。


『聖者様、こんどはカカオバターとココアパウダーの分離をやってみましょう!』

「お、おう……!?」


 カカ王がいるおかげで、何でもテキパキと進んでいく。


 カカオ豆を砕いた粉――、をカカオマスというらしいんだが、そのカカオマスに含まれている脂肪分を分離させることで、分離された脂肪分がカカオバター、残りカスがココアパウダーに分れるらしい。


「これがココアパウダー……!?」


 つまりココアの元?

 チョコとココアは同じ食材から出来るのか!?


 そうなれば、早速ココアを飲んでみたい!

 パヌのところからミルクを貰って来て温める。


 そしてホットになってきたところで適量のココアパウダーをぶち込む!!


「ココア完成!?」


 試飲。

 落ち着く味。


 お茶やコーヒーとはまた違う落ち着きある飲み物が完成だ!


「残ったココアバターはどうしよう?」

『新たなカカオ豆でチョコを作る際にぶち込めば、よりクリーミーで滑らかな味のチョコレートになりますよ』


 本当カカ王が横にいると万事テキパキと進む。


 こうして我が農場にチョコレートとココアがお目見えした。


 益々楽園度が上がりそうだ。


「あの……」

「うおッ!?」「ひぃッ!?」


 背後からいきなり声を掛けられて、俺もプラティもビックリ。


 振り向いたらそこにエリンギアがいた。

 若手魔族の一人で、ただ今我が農場に留学中の女の子、エリンギアだ。


「いきなり声を掛けないでくれよ。ビックリして心臓が飛び出るかと思った!?」

「アタシもビックリしてお腹の赤ちゃんが飛び出るかと思った!」


 とプラティ。

 それはやめて。衝撃で出産しないで。


「すみません、でも、そこにあるものが気になって……!」


 とエリンギアが指さすのは、他でもないチョコレート。


「……」


 ああ。

 そうだな、エリンギアも女の子だもんな。

 甘味センサーが反応するのは仕方のないことだ。


「夕食後にでもまとめて皆に配るから、それまで我慢しててなー?」

「いえ、そういうことではないんです!」


 違うの?

 じゃあ何?


「あの……、折り入ってお願いしたいことがあります! その食べ物を……! 食べ物を……!」


    *    *    *


「え? 僕にプレゼント?」


 エリンギアはチョコをどうしたかというと、リテセウスに上げた。

 恋人のリテセウスに。


「かか、か、勘違いするなよ! たまたま聖者様に料理を習って、多く作りすぎたから、お前に分けてやるだけだ!」


 と、テンプレめいたツンデレ口調と共に贈り物を差し出すエリンギア。


 ……。

 ……俺は今、恐ろしい光景を目の当たりにしている。


 率直に見ればただのプレゼント受け渡し。


 しかし贈る側=女性。

 贈られる側=男性。

 贈る品物=チョコレート。


 この図式から導き出される結論は……!


「バレンタイン……!」


 いや待て。

 ここは異世界。


 前の世界では常識であったものが、ここでも常識であるとは限らない。

 特に毎年二月十四日に恋人同士でチョコレートを贈るという菓子会社の陰謀風習が、時空を跨いでこっちの世界に根付いてるわけがない。


 と言うことは何か?


 エリンギアは、何の予備知識もなく直感か何かで『チョコレートは女が愛する男へ贈るもの』ということを見抜いたというのか?


「恐ろしいヤツ……ッ!?」


 この瞬間、初めてエリンギアのことを恐ろしい逸材だと感じた。


「べ、別に嫌なら貰わなくてもいいんだからな! 人には好き嫌いあるんだし、苦手な食べ物を無理して食べても私は嬉しくなんかないんだからな!!」

「エリンギアさんがくれたものなら何だって美味しいよ! ありがとう!」

「あーん、私も大好きー!!」


 ツンデレの化けの皮がすぐ剥がれる。


「へー、エリンギアさん手作りの食べ物なの? 楽しみだなー、一体何だろう? ……な、何だろう?」


 リテセウス、贈り物の包みを開けて、まず困惑。


 そりゃそうだな。

 生まれて初めてチョコレート見て、これが食べ物だと確信もって言える人は稀だろう。


「ど、どうした? やっぱり不味そうかな?」

「そんなことありません! いただきまーす!!」


 しかし愛の力が勇者リテセウスを突き動かす。

 得体の知れない黒い食べ物を目を瞑って食った!!


 パリッ!(噛み砕く音)。


「美味しい!!」


 そして心の底から晴れやかな表情。


「本当!?」


 つられてエリンギアも晴れやかに。


「うん! 全体黒なのにビックリするぐらい甘いね! 栄養満点って感じ! 疲れ果ててもこれを一口齧ったらさらに一日中動けそう!」

「そうだろう! そうだろう!」

「こんなすごいものを手作りしたなんて! さすがエリンギアさんだね」


 ……。

 手作りか……。


『さすがにエリンギアさんは、カカオ豆から作っていませんよ?』


 俺と並んで覗き見するカカ王が言う。


『さすがにそれだと大変で、聖者様ぐらいの巧者でないと失敗しますから』

「じゃあ、手作りというのは?」

『一度聖者様が完成させたチョコを、湯煎で溶かして型に流し込んだのを手作りと言っているのです』


 マジでバレンタインのチョコ作りじゃねーか。


 しかしエリンギア。新たに注ぎ固めた型にハート型をチョイスしたのだから、半端ないセンスだ。

 そう、彼女がリテセウスに送ったチョコの形はハート型だったのだ!!


「じゃあ、残りも遠慮なく食べさせてもら……」

「あ、待って」

「何?」

「これで食べて」


 そういってエリンギア、まだ残っているチョコレートの端を自分の口で咥えてリテセウスに差し出した。

 口移し!?


「攻めすぎる!?」

『シッ! 聖者様静かに! 覗いているのがバレます!!』


 あれが若さというものか……!?


「しょ、しょうがないなあ……!?」


 リテセウスも、照れを浮かべつつチョコのもう一方の端から齧っていく。


「あれが若さというものかあ……ッ!!」

『聖者様! これ以上は見ちゃダメです!! 撤退しますよ!!』


 カカ王に促されて、俺は熱く燃え上がる二人を残してその場から去るのだった。


 これが若さというものかあ……!?

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] カカ王様が超有能なだけでなく見守り覗きが一定をこえない配慮まである人(樹?)格者とは素晴らしい
[気になる点] カカオの発酵を抜きにしてチョコレートは作れないので その描写がないところが気になりました。
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