286 調停者
キノコとたけのこの争いは続く。
戦いこそが人の歴史だと言わんばかりに。
いやコイツら人じゃないけど。
一方は菌糸類だけど。
『ふははははは! 私も神の食物認定を得たぞおおお! これでキノコがたけのこより優れていると証明されたあああああッ!!』
『バカ言ってんじゃねえ! やっと対等条件になっただけじゃないかああああ!! まだまだたけのこの方が優勢だああああッ!!』
醜く争い合う。
どうしてキノコとたけのこは、こうまで争い合う定めなのか。
『お前を倒して!』
『貴様を倒して!』
『『私こそが、この山の主となる!!』』
「うひぃん、山ダンジョンの主はおれなのにぃ~」
そして脇でヴィールがいじけていた。
さすがに可哀相になってきたので、あとで美味しい物でも食わせて励ましてやろう。
「これはさすがに問題だなあ……」
俺は傍から見ていて思った。
何が問題って、農場に争いの種が存在し続けることだ。
一応ヴィールの山ダンジョンに設営されたダンジョン果樹園も農場の分所みたいなものだし。
そこに争いがあって農場全体がギスギスすることは避けたい。
「どうしたものか……?」
キノコもたけのこも美味しいのに困ったものだ。
「いっそ両方とも焼き尽くすか? そしたら争いごとすべてなくなるぞ?」
ヴィールよ。
拗ねたからって、すべてを灰塵に還そうとするな。
「そもそもコイツらを灰にしたらキノコもたけのこも食べられなくなるぞ?」
「それは嫌だ。じゃあどうしたらいいんだ?」
俺とヴィールと揃って腕組みして悩んでいた時である。
天空から光が降り注いできた。
「うわッ? 何事だ!?」
明らかな異変。
俺だけでなく、いがみ合っていたキノコたけのこも光に釣られて空を見上げる。
『おおおおおおおッ!?』
『この光はッ!?』
そして大いに狼狽する。
『まさか、ヤツが降臨したのか……!?』
何か知ってるような物言いだ。
『やめるのです……、争いをやめるのです……』
そして天空からも、なんか悟ったような声がしてきた。
『争いは、山の平穏を乱します。この山に住む善良なる者として、これ以上見過ごすことはできません……』
乱入者の正体は!? 果たして!?
『マタンGOがキノコの化身、タケノッコーンがたけのこの化身だとしたら……』
『ヤツはカカオの化身……!?』
『『カカオの精カカ王!』』
カカオだった。
カカオと言えばアレ。
チョコの原料となるヤツじゃなかったっけ?
「そもそもお前ら何なん?」
いよいよ疑問を我慢しきれなくなって聞いた。
一体目のキノコはまだわかる。
以前にも登場したモンスターだから。
しかし二体目のたけのこ、さらに三体目となるカカオまで出てきたらもうわからない。
お前ら何なのだ?
やっぱり植物系のモンスターなのか!?
『私たちは樹霊……』
「樹霊?」
一番冷静そうなカカオのヤツが答える。
『樹木に憑依する精霊の一種です。依り代となった木の性質を反映しながら、自在に活動できる……。聖者様が植えてくれた木は、今までにない珍しいものたちばかりでした。私たちにとってはとても刺激的で、新たな可能性を感じさせるものでした……』
俺が『ダンジョン果樹園』と称して、前の世界の樹木を植えまくったから……。
やっぱり自然に手を加えると、想定外の影響が出るものだな。
同じ樹霊がたけのこに憑依して生まれたのがたけのこ魔神タケノッコーン。
そしてカカオの木に憑依したのがカカ王……?
マタンGOはそもそもキノコのモンスターか。
アイツだけ樹木じゃないしな。
それでもタケノッコーンと争うのは、それこそキノコたけのこの宿命なのか?
『マタンGOよ、タケノッコーンよ。山の平和を乱すのはやめるのです。聖者様に迷惑を掛けてはいけません……』
カカオの精が良識者然と呼びかけるのに対し……。
『煩い! 部外者は下がっておれ!』
『キノコとたけのこの宿命の戦い、何人たりとも口出しできぬと心得よ!!』
お前ら人じゃねーけどさ。
良識的に呼びかけたというのに、厳しくはねつけられたカカオの精は、どう対応するかというと……。
『カカオバターウエイブ!!』
『『ぎゃああああああッ!?』』
なんか必殺技で、両者を押し流した。
『争いはいけません……、争いはいけません……』
お前が一番、力ずくですべてを解決しているんだが。
『わかりました。すみません』
『仲よくします。だからもうカカオバターの脂肪分塗れにしないでください……』
両者は暴力の前に屈した。
キノコとたけのこの争いに終止符を打ったのは、チョコレートの使者であった。
『これで一件落着……』
「マジで?」
『聖者様』
「はいッ!?」
今度は俺に話が振られてきた!?
大丈夫!? いきなりカカオバターウエイブしてこない!?
『私たち樹霊は、樹木を依り代にして現界する霊的存在です。木と一体になったあとは、意思ある樹木として、その個体と共に一生を過ごします』
なんかとんでもないシロモノが、ウチのダンジョン果樹園で繁栄していやがった。
『既にこの山には、多くの樹霊が楽しく暮らしています。どうか聖者様に、我々の存在をお認めいただきたいのです』
「え? それってまさか、キミやそっちの竹の他にも喋る木が!?」
『はい、リンゴの樹霊。ミカンの樹霊、ビワの樹霊など様々おります』
マジか。
『我々にお任せ下されれば、聖者様の求める果実の育成や収穫をお手伝いできますし、きっといいことがありますよ?』
「ん~?」
『それとも、やはり喋る木などは気持ち悪いと伐採してしまいますか?』
なるほど。
樹霊たちが何やら執拗に俺の承認を求めているのは、そういうわけか。
自分たちが駆除されるのを恐れているのだ。
『せ、聖者様がいつでも美味しいたけのこを収穫できるのも! 私のお陰だぞ!!』
たけのこ魔神タケノッコーンが訴える。
『私の力で、一番美味しい状態のたけのこをキープしているのだ! そのお陰で一年のうちどんな季節、一日のうちどんな時間帯でもたけのこが収穫できるんだぞ!!』
なんと。
たしかに、どんな時間に来てもちょうどいい鮮度のたけのこが掘れるんで、嬉しいけどおかしいなあと思っていたのだ。
たけのこ魔人のおかげだったのか。
『共存共栄! 共存共栄で行きたいと思います!』
『私も美味しいキノコをたくさん生やしますぞおおおおおお!!』
キノコの方まで必死にアピールしてきやがる。
「わかったわかった。認めてやるから、それぞれの果物の管理をお願いしますよ」
『『『やったー!!』』』
キノコたけのこも一緒に喜びを分かち合った。
「あと、できれば、こっちのヴィールにも敬意を払ってやって」
「おれがこのダンジョンの主なんだぞおおおおおおッ!!」
ヴィールが憤慨していた。
そんな彼女に対してキノコ、たけのこ、カカオが一斉にこうべを垂れた。
『『『よろしくお願いいたします。ダンジョンの主様』』』
「うむ!」
これでヴィールが自己満足してくれたらよいことだ。
こうしてダンジョン果樹園は、それぞれの果樹に憑依した樹霊が育成を管理してより便利になった。
……と言えるのか?






