285 きのこたけのこ戦争
俺たちは山ダンジョンへ向かうことになった。
巨大キノコことマタンGOには、雌雄を決すべき宿敵がいた。
その宿敵の下へ向かうと言う。決着をつけに。
俺が同行するのはただの興味本位だ。
マタンGOは、巨大キノコの外見でありながら、底の部分から二本の足を生やして歩行することができた。
『着きました、ここです』
と言って到着したのは、山ダンジョン春エリア。
そこにはさらに細かく、竹林の小区画があった。
ここからは、様々な道具に加工できる竹や、美味しいたけのこを掘り出すことができる。
ここに至ったわけとは……?
『出てこい! タケノッコーン!』
マタンGOが叫ぶ。
『このキノコが勝負をつけに来たぞ! 尋常に立ち会え!』
すると、彼(?)の呼びかけに呼応するように地面からズモモモモ……、と何かが生え出してきた。
土や落ち葉を掻き分けて、地中から生え出す者の正体は……。
紛れもなくたけのこだった!
「土の上まで延びちゃったらもう食べられないなー」
と俺は密かに思った。
『みずから倒されに来たかキノコ風情よ。たけのこ魔人タケノッコーンに!』
たけのこが喋り出した。
既にキノコが喋る前例があるので、ことさら驚きはしない。
出てきたたけのこは、マタンGOと同様に巨大。普通のたけのこより数十倍の体積があった。
「それもう竹じゃね?」と思われるかもしれないが、先は尖っているし、皮に包まれているしで、やっぱり巨大たけのこと言った方がしっくりくる。
たけの『子』なのに巨大だと、何かもう大人の年齢なのに大人になりきれない子どもみたいな印象を受けるが……。
『バブー、バブー』
そんな俺からの視線を感じ取ったのか、露骨な赤ちゃんアピールをし始めた!?
『して、今日は何の用だ?』
すぐやめた!?
マタンGOは勇んで応える。
『知れたこと、長きにわたる我々の因縁に決着をつけるのだ!! キノコとたけのこの因縁にな!』
『笑止! 決着なら既についているではないか! 我らたけのこの方がキノコより優れていると!!』
……。
あのー。
一体何の話なんです?
付いて来ていながら何ですが、現状がまったく飲み込めない。
『我々は、古くから争ってきたのです』
巨大キノコ、マタンGOが言う。
『この山の頂点に立つのがどちらかを決めるために!』
「いや、この山の主はおれだぞ?」
同じく興味本位で同行していたヴィールが言った。
暇なんだろう。
この山ダンジョンの主はたしかにドラゴンであるヴィールだが。
『ふはははははは! 愚かなりマタンGO! キノコがたけのこに勝てる道理などない! 私こそが山の主なのだ!』
『キノコより優れたたけのこなどいない! 今日こそお前を駆逐して山の支配権を盤石にする!!』
「いやだから、山ダンジョンの主はおれ……!?」
ヴィール訴えるのも聞いてくれない。
「ご主人様ぁ、コイツら一息に焼き払っていいか?」
「もう少し様子を見てみよう」
第一、お前が農場に入り浸って管理を疎かにするから、土着のモンスターで群雄割拠が始まっちゃったんじゃないの?
キノコモンスター、マタンGO。
たけのこ魔神タケノッコーン。
まさに頂上決戦、……なのか!?
巨大たけのこ、不敵にフフフと笑う。
『愚かなりキノコ。既に我らたけのこ勢が優位であることは確定済みなのだ。……そうでしょう聖者様?』
え? 俺?
『聖者様はよく我が竹林へとたけのこ掘りにやって来てくださる。これこそ、聖者様が我らたけのこを重んじてくださる証!』
ああ。
たしかに俺、たけのこ掘りのためによく山ダンジョンに入るよ?
たけのこごはんとか、たけのこの天ぷらとか農場の皆に好評だから。
そろそろメンマも作ってみたい。
『この山の全能支配者、聖者様に認められたたけのここそ頂点的作物に相応しい! お前たちキノコはその下でしかないのだ!!』
そして俺はマタンGOを見る。
「もしや、お前が必死に俺から認めてもらおうとしていたのは……!?」
『そうです。あのタケノッコーンに対抗するため。この山の作物にとって、絶対的万能者である聖者様に「美味しい」と認めてもらうことこそ、みずからの価値を証明すること……!』
これまで食物として顧みられることのなかったキノコは、長くたけのことの戦いに劣勢を強いられてきた。
『しかし今日やっと我らキノコも、聖者様から美味しいと認められたのです! 今こそ反撃の時! 驕るたけのこに鉄槌を!』
興奮するキノコ。
胞子が舞い散りそうなので暴れないでほしい。
「俺としてはどっちも美味しいから仲よくしてほしいんだけど?」
『『ダメです!!』』
こんな時だけ息ピッタリ。
『我々は雌雄を決しなければならないのです。キノコとたけのこは、同じ天を仰ぐことはできないのです!』
んなこたーない。
『だが、聖者様に認められたからと言って、お前たちキノコが我らたけのこと対等になったわけではない』
『なにいッ!?』
『知らぬか! 我らたけのこを称賛するのは聖者様だけではない。神をもたけのこの美味しさを認めているのだ!』
『神も!?』
『そうだ! その決定的差がある限り、たけのこより優れたキノコなどないのだああああ!!』
そういやそんなことあったなあ。
召喚した冥神ハデスにたけのこごはんを供したら神の食物認定された。
よし。
俺は一旦農場の自宅に帰ることにした。
* * *
用意するもの。
キノコ各種、お米、調味料各種、だし汁。
あとノーライフキングの先生。
釜に、用意した食材を諸共ぶち込み炊きます。
炊き上がる頃に……。
「先生お願いいたします」
『かしこまり』
先生に冥神ハデスを召喚してもらいます。
『お? 今回は何用じゃ?』
「キノコごはんでございます」
召喚されたハデスに完成したキノコの混ぜごはんを提供します。
神が食べます。
『……キノコごはんを神の食べ物と認定する』
『ほえええええええええッッ!?』
絶叫するたけのこ魔神タケノッコーン。
これでキノコとたけのこは対等になった。
要するに、これでもっと仲よくしろと言うことだ。






