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280 旧き勇者

 そもそも先生は、ヒトに教えることがとても好きらしい。


 以前俺や魔王さんに授業することもあったが、その時も嬉々としていたし。


 そんな先生にとって、今の状況は実に喜ばしい。

 教え甲斐のある才能豊かな若者がたくさん教えを乞いに来ているのだから。


 天国であるに違いない。

 アンデッドにとって天国が望ましい場所かは別として。


『何も考えずに、感じたことにのみ反応しなさい。目を閉じて、耳や鼻など他の感覚を研ぎ澄ますことがあるだろう? あれと同じように、すべての感覚を一旦切って、別の感覚を意識するのだ。肉体に備わらない、精神の感覚を……!』


 先生のアドバイスに従うだけで、魔法な苦手な子が簡単に魔法を修得できたりした。

 先生マジよい先生。


『人族の法術魔法は、教団に属する神官しか使えない。皆そう思っているだろうが、実はそうではない。教団が使用法を隠匿しているだけだ。独占したいがために。ワシが使い方を教えてやろう』


 本当に……。


『法術魔法は自然マナを枯渇させる邪法と見られておるが、要は使いようだ。いかなる力も使い方によって正にも邪にもなる。正しい見識によって振るえば、天神の魔法も理不尽を砕く護法になりえる』


 ……上手く教えすぎじゃないですかね?

 これ先生の教えを受けた子が、それだけで世界トップクラスになったりしない?


『教えるのが楽しくてついついやりすぎてしまいます』

「やりすぎないで、くれぐれも」


 授業が一段落した先生、こっち来て話す。


『こんなに生き生きとしたのは何百年ぶりか……。聖者様が来られてから本当に日々に彩が出ましたなあ』


 俺がここで農場を作る以前、先生は暗いダンジョンの奥底でずっと一人で過ごしてきた。

 それこそ何百年も。

 魂を蝕むほどの孤独に耐えるのは、アンデッドといえども容易なことではない。


『今思い返せば、なんと色褪せた日々だったのでしょうな。毎日が目まぐるしく変わっていく今とは比べ物になりませぬ』


 先生が楽しそうで何よりです。


 まあ本来メインは先生でなくて、先生が教えている若手なのですがね。

 未来を担う人材になってくれたらいいと始めてみた留学企画だが、先生が張り切りすぎて想定以上の英傑が育ちつつある。


 でも、一際異彩を放っているのが……。


「見てください先生! 新しい魔法マスターしました!」


 リテセウスくん。

 今の、先生から教えてもらったばかりの法術魔法をもうマスターしてやがる。


「……才能溢れすぎてやしませんかね彼?」

『そうですな』


 リテセウスくんは、ここに来るまでは領主の家で侍従をやっていたそうだが、そうとは思えないぐらい才覚豊かだ。


 やって来たその日にエリンギアとの試合に勝利したことといい、やることいちいち機転が利くことといい『お前が主人公か?』と思うぐらい。


 ただ当人は何の変哲もない田舎村の生まれで、これといった血統のよさはないらしい。

 正真正銘の突然変異的天才か? と思っていたら。


『……彼は恐らく勇者ですのう』


 と先生。


「勇者?」


 勇者ってたしか、この世界では異世界から召喚された人のことを言うんでは?

 そういう意味では俺だって勇者だ。


 ……。


 もしや!


「あのリテセウスくんも、赤ん坊の頃とかに異世界召喚されて記憶がないまま成長したとか!? そんなドラマティックな裏事情が!?」

『いや、そうではありません』


 違うのかよ!?


『どこから話すべきか……。この世界には、千年以上前、もっと別の種類の勇者が存在していたのです』

「別の種類?」


 異世界召喚された者とは別の?


『かつて神々は、好きなように下界に降り立ち、人類の異性と愛し合いました。そうして生まれた子どもは、人類と神のハーフとなりました』


 何ですいきなり?

 でもその話は前に聞いたことがあるような?


『そうした存在は半神と呼ばれ、当然ながら人知を超える力を持ちました。いずれも英雄であったそうです。神々の浮気は留まることを知らず、半神は巷に溢れかえるほどに数を増やしていったそうです』


 神って本当クズだわ。


『ついには世界のバランスを崩しかねないと言うことで、半神は皆、各自の親神が属する神界へ迎え入れられました。以降、神は取り決めにより、気軽に下界に降りて、人類と交わることができなくなったそうです』

「何故今そんな話を?」

『まあ今少し。……神の子とて成長し、大人になれば結婚して子を成します。神の子は神界へと去りましたが、その神の子から生まれた神の孫、曾孫というべき存在は神の血も薄まったがゆえに神界へ迎えられる資格を得られることなく、地上に残りました』


 ほうほう?


『しかし神の血統が僅かでも交じっていれば、常人より遥かに強い力を持ちます。そうした存在は才能を開花し、戦場でも功著しい英雄となったそうです。そういう者を指して、……勇者と』


 呼ばれたんだそうな。


「じゃあ、昔と今では勇者の定義が違うってことですか?」

『そうらしいですな。世代が下るごとに血は薄まるもの。神の血統を受け継ぐ者も、代を経るごとに薄れ弱まっていったそうです。そしてついには消滅した』


 その代わりに求められたのが、召喚する異世界勇者ってことか。


『異世界から呼び出される勇者は、神の血統を受け継ぐ勇者の代用として始まった。それゆえ同じ勇者の名が冠されておるのでしょう。両者を区別するために、最初の神の血統による勇者を、旧勇者とでも呼びますかの』


 旧勇者……。


『そしてリテセウスは旧勇者です』

「は!?」


 ここで、そう話が繋がってくるの!?

 でもちょっと待っておくんなさい。先生の話をまとめると、今の時代に旧勇者は存在しないはずでしょう!?


 勇者の原因となる神の血は、長い時間の流れで薄まりまくって無意味になっているはずでしょう!?


『先祖返りで血が濃くなることもあります。リテセウスは、そういう経緯で類まれなる才能を持って生まれたのでしょう』

「根拠は?」

『聖者様も、覚えがありませんかな? 彼から発せられる神々しさの色合いを……』


 ん?

 そういえばリテセウスくんから放たれる気のようなもの。

 ここで修業すればするほど濃く明確になっていくが、そうなるほどに俺の記憶をざわめかせる。

 どこかで感じたことがあるような……。

 ……既視感?


「聖者よ、また新しい酒の開発したいんだけど。スピリタスっていう……」


 そこに現れた半神バッカス。


 コイツだ。

 どこかで覚えがあったのは、コイツの放つ神気と似ていたからだ。


 そういえば半神云々の話を聞いたのもコイツが登場した時。


『半神バッカスと似通った気を放つことこそリテセウスが先祖返りした旧勇者である証でしょう』

「んー?」


 途中参加で話のわかっていなさそうなバッカスが、リテセウスくんにテクテク歩み寄って……。


「親戚?」

「なんです!?」


 そりゃリテセウスくんビックリするわな。

 伝説に片足突っ込む存在から親戚呼ばわりされれば。


『我が生徒の中では、やはりリテセウスがとりわけ有望ですのう。大切に育てていかねば……』


 既に世界の命運を左右しそうな逸材で怖いもんね。

 リテセウス。

 彼が新たな時代の旗手たり得るのか?


「認めません!!」


 うおおッ!?

 ビックリした!?


 何かと思ったら、背後に膨らみかけの蕾的魔族娘!?

 エリンギア!?

 今の話聞かれていたか!?


「ヤツが……! ヤツがそんな大層な存在だったなんて……! 我ら魔族の優位性が崩される……、どころじゃない! ヘタをしたら反乱の種火に!?」


 ただでさえ魔族優越意識を捨てようとしない彼女。

 その彼女から見てリテセウスくんの存在は許しがたいもの。


「ヤツだけは亡き者にしておかねば! 魔族の未来がない!! 私がこの手で魔族の栄光を切り開く!!」


 絶対めんどくさいことになりそうだった。

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