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277 リテセウスとエリンギア

 はい、俺なのです。

 農場の主の俺なのです。


 今日は魔王さんが、人間国から若手さんたちを我が農場に留学させるために連れてきてくれることになっている。

 畑仕事などしながら待っていると……。


 ……来た。


 転移ポイントの方からゾロゾロと人の群れが。


「ようこそ、いらっしゃいましたー」


 とりあえず鍬をその辺に放り投げ、俺みずから歓待する。


「この農場の主です、ここで学んでいってくださいねー」


 できるだけフレンドリーに。

 しかし魔王さんに引き連れられた人族の若者たちは警戒感丸出しで俺のことを凝視していた。

 まさに借りてきた猫状態だった。


「ここの主。それはつまり……!?」

「アナタが聖者様なのですか!?」


 と人族の若者から聞かれた。


「うむ? よくご存じで?」

「そりゃ知っていますよ。旧人間国の間で聖者キダンは大きな噂になっているんですから!」


 え? なんで?


「アナタが大きな力を持っているから!」


 何でもあちらの一般的な層に、俺は全知全能の神か何かみたいに認識されているらしい。


 かつてヴィールが戦場に突っ込んできた騒動や、バッカスが触れ回ったせいで俺は案外知れ渡っていた。


「一部の者は、アナタが救いをもたらすことで旧人間国が復活できると思っています。アナタが魔王軍を撃退してくれると……!?」

「えー?」

「しかし今日、僕たちをアナタのところへ連れてきたのは魔族の長、魔王。一体どういうことなんです?」


 人族の若者たちの中で、一際利発そうな子が率先して聞いてくる。

 初対面なのになかなかグイグイ来るな。

 その行動力に免じて答えようではないか。


「だって俺たち友だちだもんねー」

「ねー」


 俺は魔王さんと肩を組んだ。

 ザワザワ言いだした。


「聖者と魔王が友だち……!?」

「何このフレンドリー?」

「オッサン同士でこのノリはちょっとイタい……!?」


 おい最後言ったの誰だ?

 ちょっと出てこい。


「では、もし旧人間国にいる魔王軍を撃退するように頼まれても……!?」

「撃退なんか、しないしない」


 魔王さんとの友情を裏切ることなんかできないし、第一面倒くさい。

 俺は生涯ずっとここで農作業していきたいのだ。


「「「「「よっしゃあッ!!」」」」」


 それを聞くと人族の若者たちガッツポーズしだした。

 何故?


「そりゃあ、今さら体制ひっくり返されたら困りますからよ!」

「もう王族や教団の滅茶苦茶な施政に戻りたくない!!」

「戻ること自体まずありえないんですけど、唯一の可能性が聖者キダン!」

「その聖者が魔王とお友だちで、敵対しない! これは朗報!」


 人間国を取り戻したいのか取り戻したくないのかどっちなんだ?


 取り戻したくないのか。


 彼らの主張をまとめ直すと……。


・人間国は魔国によって滅ぼされました。

・でも人間国は、無茶苦茶な支配体制してたので、むしろ滅んで嬉しい。

・それに比べて魔族の占領軍の方がいい統治をする。

・だから人間国復活しないで。


 ……とのこと。


 しかしどんなことにも少数派はいるわけで、いまだ人間国の復興を願う一部の勢力が、自力ではどうにもならないので最後に縋る希望。


 それがこの俺、聖者キダン。

 ということか。


 人族も色々あるんだなあ。


「それなら、変に希望持たせないようにスッパリ言っといた方がいいかなあ……?」


 たとえば、またヴィール辺りにドラゴン形態で飛んでもらって『聖者キダンは人間国に協力しないぞ!!』と叫び回ってもらう。

 そうしたら不確かな希望に縋ることもなくなるだろう。


「それはやめてください!」


 人族の若者の一人から言われた。

 さっきと同じ利発そうな子だ。


「なんで?」

「いまだに人間国の再興を望み、聖者様を探しているのは、かつての王族や教団の連中です」


 だろうね。

 かつて支配者の側にいた者たちが返り咲きたいんでしょう?


「昔の栄華を取り戻すためにヤツらは聖者様を探し求めていますが、それが無駄だとわかれば、どんな形で暴走するかわかりません」


 なるほど。

 諦めの悪いヤツが、俺に縋ることがダメだとわかれば他の手段を模索するは明らか。

 それがテロ行為とかだったりしたら、平和に暮らす一般の人族に被害が出かねない。


「ヤツらは聖者様を探し出すなんてできない。だから、ずっと探し続けて時間を無駄にしていた方が皆のためです。だから何も言わないでください……!」

「それ採用」


 こんな意見が言えるとは、見た目だけでなく実際利発な子ではないか。


「キミの名は?」

「リテセウスと言います」


 リテセウスか。

 覚えておこう。


「魔王さん、本当に才覚ありそうな子が入ってきたじゃないですか」

「我も大満足」


 さて。

 なんだか余談が過ぎてしまったが、そろそろいい加減本筋に戻ろう。


「キミらはこれから我が農場で学んでもらうわけですが……!」

「スゲェ、本当に聖者の農場で学ばせてもらえるんだ。でも何を学ぶの?」


 それはこちらも考え中。

 だからまずは順当に。


「学友たちを紹介しましょう」


    *    *    *


 移動した先は、先に農場留学していた若手魔族たちのいるところだった。

 今は畑で農作業に従事してもらっていた。


「おい、なんで魔族の我々が野良仕事などしなければならないんだ!?」

「食い扶持は自分で拵えましょうの巻」


 人数が増えたから、その分収穫も増やさないといけないからね。


 そもそも傲慢なのが問題になっていた若手魔族たちだが、ヴィールとかだけでなくオークボ、ゴブ吉なども強くて怖いとわかり、逆らわなかった。


 性根を叩きなおす訓練としてもちょうどいいだろう。


「皆さんに紹介したい」


 魔族人族、双方に向かって言う。


「今日からここにいる全員、農場に留学する仲間なので仲よくしましょう」

「ふざけるな!!」


 と言って噛みついてきたのは魔族側。


「まさか本当に人族まで呼び込むとは! 下等な敗北種族を!」


 歯に衣着せないどころか無礼千万。

 魔王軍の支配を受け入れている人族側も、さすがにこの問題発言に刺々しくなる。


「そこまでだエリンギア」


 見かねて魔王さんが留めた。


「そのような的外れな見識では、とても未来の魔王軍を任せることはできんな」

「しかし魔王様……!」

「これからの人族は、共に同じ国を支えていく仲間。将来は人族の中から新たに四天王を選び出してもいいと我は思っている」

「そんな!?」


 その発言にむしろ人族側がどよめく。

 大胆かつ公正な判断を下す魔王さんに尊敬が集まっている!?


「それだけは許せません……! 四天王の座は、未来永劫魔族のものです!」


 魔族の子はメラメラと怨念を燃え上がらせる。


「ならば実際示しましょう! 魔族と人族の、明確な種族としての性能差を!!」


 あー。

 なんかこのパターン……。


「勝負だ! そちらの人族の中で一番強いヤツを出せ! この魔族エリンギアが一息に捻り潰してやろう!!」


 行き詰ったら勝負する。

 この大味かつありがちなパターンに乗っかるのであった。

今年一年『異世界で農場を買って農場を作ろう』を愛読いただきありがとうございました。

来年も何卒よろしくお願いいたします。

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