274 農場次世代育成計画
【お知らせ】本日12/25書籍版『異世界で土地を買って農場を作ろう』第2巻の発売日となっております。
オリジナル書き下ろしや村上ゆいち先生によるイラストなど、書籍版のみの追加要素もたくさん入っておりますので、よろしくお願いします!
はい、俺です。
今日は魔族の若者たちをお呼びして研修会を開いております。
まずはヴィールとホルコスフォンの模擬戦を見て、世界最強クラスを実感してもらったあと……。
魔族にとっては魔王以上の存在、魔族の神ハデスさんから直接注意してもらう。
これならどんな魔族だって考えを改めるだろう。
「酷い畳みかけを見た……!!」
傍から見ていたプラティ(そろそろお腹が目立ち始める)に戦慄しながら言われた。
「プラティ、それよりもおもてなしの準備を」
「はいはい」
さすがに神様をただ呼びつけるだけでは済まされない。
「ご足労ありがとうございます。たけのこごはんをお召し上がりください」
『うむ』
この神様を満足させるには混ぜごはん系を食わせておけばよい。
農場生活の知恵である。
「納豆もおかけください」
『やめろ天使!?』
さすがに混ぜごはんに納豆をさらに混ぜ込むのは冒険的すぎたので、分けて食べる神だった。
研修に来ていた若手魔族は、もはや全員ショックで失神してしまった。
なのでアットホームな雰囲気の神を見届けること叶わなかった。
「いや重ね重ね、手間を掛けさせてしまって申し訳ない」
魔王さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「これだけやれば、このバカ者たちも驕った考えを改めるだろう。やはり聖者殿にお願いすればどんな問題でも解決するな」
「でもちょっと気になることがあったんですけど……?」
この失神して転がっている若い魔族たち十人ほどを見る。
「彼ら、全員が全員傲慢になってる感じじゃなかったですよね?」
少ない割合ではあったが、態度のデカい同僚に冷めた視線を送っている者たちがいた。
その子らも一緒くたに神やら天使やらドラゴンやら不死の王やらの威圧にやられて気を失っておるが。
……。
軽いイジメじゃないかな、これ?
「さすが聖者殿、よく気づかれた」
「じゃあ、皆が皆傲慢じゃないわけか……」
「聖者殿の農場に来られるということは、果てしなく素晴らしいことなのだ」
何ですいきなり?
「ただ世界最強のレベルを実感できるだけではない。様々な価値ある多くのことを学べる。農場を一日体験できただけでもそうでない者に大きな差をつけることができるのだ」
そんな大袈裟な。
褒めても何も出ませんよ。
あ、魔王さんにもたけのこごはん出してあげて。
「そんな農場に、問題児ばかりを連れていくのも障りがあるように思えてな」
「それで問題のない子も連れてきたと……」
「農場で学べることは多い。むしろ将来期待の持てる若手ほど連れてきたくなってな。傲慢になっている方も、何十人といる中から才気煥発なヤツを選び出したのだ」
趣旨がズレてしまったがな、と魔王さん自嘲する。
「驕りを正すための研修だと言ったのに、いつの間にかエリート育成の場になってしまった……!」
「いいんじゃないですかそれで」
ここに来たこの子たちが立派な人格に育って出世すれば、その彼らが下を押さえて『驕る魔族久しからず』みたいな事態を回避してくれるでしょう。
研修は、あと何週間か続ける予定なのだ。
その時間を使って、我が農場の全力を注いで彼らを人格者エリートに育て上げ、世界を正しくリードしてもらおう!
我が農場も、そうして世界に貢献しないとね!
『それならば……』
とハデス神が言い出した。
この神まだいたんだ。
そして俺らの会話を聞いていた?
『足りないものがあるのではないか?』
「足りないもの?」
一体何だろう?
神様の深遠なお考えは人である俺には見通しづらい。
『魔王よ、かつて言ったな? 己が下した敵も、同じ地上の住人として共に治めていきたい、と』
「はッ!?」
そんなこと言ったっけ?
思い出し中……。
……ああ。
魔王さんが人間国を倒して、それを神様に報告した時のことか?
敵だった人族を根絶やしにすることなく、自族と共に治める民とみなしたのは魔王さんさすがの度量と感服したものだ。
『それなのに、おぬしはここに魔族しか集めなかった。未来のエリート候補を。種族分け隔てなく治めると高説をブチながら……』
結局重要なポストはすべて自族に占めさせる気か?
被支配者となった人族は、ずっとその立場から動けないのか?
さすが神、そこに気づくとは。
『ふふふ、神は目の付け所が違うのだ。……たけのこごはんおかわり』
「はい、どうぞ」
『違うよ納豆じゃねえよ!?』
いい気になった神に掣肘を加えるホルコスフォン強い。
ハデス神は文句言いつつも、おかわりの納豆をぢゃくぢゃく混ぜて掻き込む。
一方、魔王さんは頭を抱えて身悶えした。
「神の言う通りだーッ!?」
苦悶する仕草を魔王さんがやるとバロック彫刻みたいになる。
「我は……! 人間国も治めて人族をも臣民としたのに……! 責任ある地位に据える者は魔族だと無意識に限定していた……!? 『傲慢になるな』と訓戒しながら、我自身驕っていたのか!?」
ほいほい。
「我がこのような歪んだ心持ちだから、それが下々にも伝わり問題になるのだ! この問題の元凶は我なのだぁーーッ!?」
『いや、そんな深刻にならんでも……!? 余はちょっと軽い気持ちで……!?』
魔王さんの苦悶ぶりに、神がドン引きしておられる。
『気を落とすな? 大丈夫か? たけのこごはん食べるか?』
「いえ、ここは是非納豆を」
ここは俺が助け舟を出すしかあるまい。
「じゃあ人族も呼べばいいでしょう」
パンがなければお菓子を食べればいいじゃない的なノリで言う。
「人族の中からも将来有望な子を見繕って、ここで勉強させてあげれば? つまり留学!」
まだ失神から目覚めない若手魔族たちに目をやる。
「そこにいる子たちと一緒に学ばせてやりましょうよ。一緒に勉強すれば友情も芽生えて、人族魔族の交流になるでしょう? 融和も図れて一石二鳥じゃないですか」
「しかし、これ以上聖者殿に負担を掛けるわけには……!?」
魔王さんが納豆を食べながら言う。
「大丈夫ですよ。世界そのものに貢献するわけだから」
俺も納豆を食べながら言う。
既に我が農場には人魚分校なるものもできて、多くの女子人魚が学んでいる。
最初に人魚、次に魔族も来て、人族だけ呼ばないとなれば仲間外れだろう。
「ここを、三種族すべてが分け隔てなく学べる場所にしようではありませんか!」
農場へ留学。
農場ってそういう場所だっけ? とも思ったが細かいことはどうでもいい。
ここから人族、魔族、人魚族の三つが交流し、絆を深め合ってくれれば世界平和で戦争も起きない。
異世界農場、三種族留学企画のスタートだ!!
「わかった! では早急に旧人間国の占領府に通達して、未来の幹部候補を募ろう! そして農場に!」
魔王さんが納豆を食べながら言った。
『ほほほほ……! 種族の融和が加速するの。それでこそ余の守護する地上が益々繁栄するというわけじゃ』
ハデス神も納豆を食べながら言った。
「世界平和が一番大事ですもんね!」
俺も納豆を食いながら言った。
皆で納豆を食べながら、世界をよりよくしていこう!
……。
…………。
なんで皆納豆なんだよッ!?
おいこらホルコスフォン!!
サブリミナルに納豆を浸透させるな!
いい加減にしろ!!