270 始まりの盗賊
「っていうかお頭が生きているのか!? エルザリエルのお頭が!?」
信じられないという感じのリアクションを示したのが、元エルフ盗賊団の頭目だったエルロン。
いや、お頭はアナタでしょう?
「私は二代目頭目だ……! 『雷雨の石削り団』は、初代頭目でもある先代が結成し、旗揚げした」
へー。
てっきりエルロンが最初からトップだったものとばかり。
「先代の頃こそ、それはもう魔国人間国を股に掛けて盗みまくったものだが、ある日とうとう官憲に追い立てられてなあ」
そりゃ泥棒なんかしてたらね。
「その時先代エルザリエルのお頭が単身追っ手を食い止めて……。仲間は全員逃げ延びた。それと引き換えにお頭だけが捕まって……!」
エーシュマの話と繋がってくるなあ。
「お頭が死んだと聞いたから、致し方なく私があとを継いだのに……!! まさか、まさか生きておられたなんて……!!」
ここで彼女たちエルフチームが農場入りした経緯をおさらいしておこう。
エルロンらもお尋ね者の盗賊団として各地を逃げ回った挙句、この地の果てにある農場にたどり着き、盗みに入ろうとして捕まった。
以後、ウチの農場で働かされている。
……ウチにすっかり住み慣れてしまったのだが。
「先代が捕まってからは鳴かず飛ばずで……!!」
「思えばエルロンが頭目になってからまともな盗み働きは一回もなかったですもんね」
副頭目だったマエルガが言う。
そのまま我が農場生活編に突入してしまったわけか。
「あのッ、お頭は!? 先代は!? いや姉さんは一体どうなってしまうんです!?」
死んだものとばかり思っていたせいか、混乱して呼び方が定まってない。
「実を言うと、彼女への恩赦が既に決まっている」
「ええええええッ!?」
「そもそもエルザリエルへの死刑判決は、被害を受けた悪徳豪商やら貴族が、強硬に訴え出たので下された。それなりに影響力を持ってる連中だったから、魔王軍も聞き入れないわけにはいかなかった」
被害者側としては最大限の復讐を望んだのだろう。
「しかし所詮、悪徳なので……。ここ最近魔国で起こった政変で、軒並み粛清されまくっているのだよ。そうなると義賊である彼女らへの同情の方が強くなり、減刑する判決を新たに出すことができた」
状況の変化によって、死一等を減ずることができたってヤツか。
「エルザリエルは、国策であるエルフの森復活事業に協力することで、盗みの罪を帳消しにする手続きができている」
「ええッ!? ……あの、なら私たちも無罪にすることは……!?」
同じ盗賊団だったエルロン、あわよくばという下心がありありと。
「だからお前たちも植林事業に協力すれば晴れて綺麗な身になれるぞ?」
「断る!! 私たちは一生、この農場で日陰の暮らしを貫く!!」
そこまでして農場から離れたくないか?
……。
ん?
「でもちょっと待って? そこまで話がまとまってるなら、ウチに相談することなんてないんじゃない?」
もう気張って解決すべき問題なんか何一つ残ってないように見えるんだけど。
「はい、アスタレス様がおっしゃるには、きっと農場にいるエルフとエルザリエルは旧知の間柄だろうから再会させてやるべしと……」
さすが魔王妃、よい勘をしていらっしゃる。
エルロンたちも、死んだとばかり思っていた仲間と会えるのは嬉しいだろう。
なんとも粋な計らいではないか!
「じゃあ、そのエルザリエルさん? とやら、もう既に連れてきてあるの?」
「ええ今、元部下の盗賊仲間たちを一方的に攻撃していますね」
うん、そうね。
なんか弓から矢をシュババババッ、と撃ち出しているエルフがいる。
何あのマシンガン並の連射速度は?
「ひぎゃあああああああッ!?」
撃たれているのはエルロンとマエルガの元盗賊団、頭目&副頭目タッグ。
弓矢の弾幕に容赦なく追い立てられている。
「この軟弱者どもが! 呆れ果てたぞ!」
人間技とは思えない速射を披露するエルフ。
なるほど彼女のみ、俺にとっては見覚えのないエルフだった。
他のエルフと比べても体つきがガッシリしていてマッチョウーマンという感じ。
チョコレート色の濃い肌や、長く尖った耳などエルフ特有の特徴は網羅していたが、普通に凛々しい系美人顔にザックリ古傷が刻んであったりする。
歴戦の猛者感が主張しすぎる。
そんな新キャラエルフさんだった。
「エルフ盗賊団、初代頭目エルザリエル」
「彼女が……!」
たしかに佇まいからしてなんか凄そうな人。
彼女に比べたらエルロンなんぞザコっぽく見えてしまう。
「一同整列!」
「「ふぁいッ!!」」
そしてエルザリエルさんとやら、来るなり即刻ウチのエルフたちを掌握している。
まあ、元々彼女がリーダーだったらしいからあるべき姿か。
「エルロン……、私がいなくなったあとはお前が頭目を継いだようだな?」
「ははッ! 無事なお頭に会うことができて恐悦至極にございまっす!!」
エルロンが恐縮しまくっている。
新旧頭目の揃い踏みだというのに強弱関係が明確すぎる。
「そりゃあそうだろう……! エルザリエルの姉さんは、エルフが名に入れる『エル』の号を、二つも付けることを許されているんだぞ!!」
小声でエルロンが言う。
「盗賊団だって、あの人が一から築き上げたんだ! 私はそれを受け継いだだけ! あの方こそ猛者中の猛者と言う他ない!!」
エルロンはもう手放しで先代のことを称賛してくる。
……あの人が凄そうなのは、そりゃあ見た目だけでも即座に感じ取れるが。
顔つきといい眼光といい。
同性でカテゴライズしたらアスタレスさんかグラシャラさん? ぐらいの強者?
「あれがエルフの最強クラスかあ……!」
そして最強エルフは、なんで登場するなりブチ切れてるんです?
「私は悲しいぞ……! 私なきあとの『雷雨の石削り団』が、ここまで堕落していたとは……!?」
ああ。
「森の民の誇り、義賊の誇りはどこに行った!? エルフでありながら屋根の下で眠るなど見苦しいにもほどがある!!」
エルザリエルさん、もしかしてさっきの駄エルフの駄エルフっぷりを目撃されていましたか。
それならば頭を抱えるのも致し方なきこと。
「……私は本来、刑吏の刃にかかって死ぬはずだったエルフ。しかしそれを恩情によって生き永らえた」
らしいですね。
「必ず報いねばというところに、エルフの森を復活させるという提案。恩返しも兼ねて協力しようという時に、生き別れた仲間の所在までわかった……! 使命もって旅立つ前に是非一目、舎弟たちの元気な様子を見ておこうとしたら……!」
このザマですよ。
「エルロン、お前にあとを託したのは間違いだったようだ。かくなる上はお前ら全員引き連れて、植林作業を手伝う傍ら一から鍛え直してやる!」
「ええええええええッ!?」
「やだあああああああああああああッ!?」
ウチのエルフ、本気で抵抗。
「待ってください先代。話を聞いてください」
「うむ、お前は冷静なナンバー3、マエルガではないか。久しぶり」
「お久しぶりです。エルロンが頭目になってからは私が副頭目でしたがね。それすら過去の話」
沈着冷静で有名なマエルガなら、怒れる初代頭目を上手くかわすことができる?
「先代と別れてから、我々にも色々ありました。魔国人間国の両方から追われて転々とし、やっとたどり着いたのがここ」
「うむ?」
「ここは我々にとって安住の地なのです! 奪わないでください!」
冷静なエルフ、哀願しかしなかった。
知性の欠片もない直球レベルの哀願。
「先代もすぐにわかります。ここがどんなに住みよい場所か! ……聖者様!」
「はい?
「コイツにソーセージを食わせてやりたいんですがかまいませんね!?」
何ですかいきなり?
こないだ生産したばかりのソーセージなら燻製処理したヤツをたくさん保存してあるから過熱して食えばいいよ。
保存食だからねソーセージ。
マエルガ、許可を得て持ってきたソーセージを一本千切って、火で炙った。
「そういう加熱の仕方するんだ……!?」
「さあ先代! 食べてみてください!!」
たっぷり熱を通したソーセージが、エルザリエルの手に渡る。
「なんだこれは……? 匂いからして肉料理? しかし見たこともない……?」
姿形は奇天烈だが、匂いで美味いとわかるのか、エルザリエルさんは割と迷わずソーセージを口に運ぶ。
黒々とした焼き色に染まる肉棒が、歴戦エルフのワイルドな口の中に差し込まれて埋没していく。
そして中ほどから、パリッと。
「………………ッ!?」
漏れ出す肉汁が口の中に広がっていくのだろう。
それがよくわかる表情だった。
「先代、堕ちましたね……!?」
「この味を知ったらもう農場から出られない……!」
ウチのエルフどもがしてやったりな顔している。
「う、煩いな! たしかに美味しいがそれがなんだ!? お前ら食べ物程度にほだされたと言うんじゃあるまいな!?」
エルフたちの果てしない言い争いが始まった。






