267 美味なる肉棒
そんなこんなでエドワードさんと協力して、作り上げました。
ソーセージ充填機。
「圧力で、挽肉を腸袋に押し込む仕組みですな。魔力を使わぬ手動方式だから誰でも操作可能です」
ありがとうございます!
さすが鍛冶工芸に秀でたドワーフ!!
その知識技術は大変助けになりました!
これで安直な死に癖さえなければ!
俺は早速、完成したばかりの充填機でソーセージを作成してみた。
「えーと、この穴に腸袋をセットして……、挽肉を押し込む……!?」
おお。
入る入る。
挽肉は、すんなりと腸袋に詰められて、俺のよく知るソーセージの形になっていった。
適当なところで捻り、糸で縛って区切りをつけたらもうソーセージ以外には見えなくなる。
ここから保存性を高めるために燻製にするパターンもあるのだが、今回はパス。
面倒くさいから。
どうせこのまま即座に食すつもりだし。
そのまま「えいやッ」って鍋に投げ込んで、茹でた。
「完成!」
ドワーフの協力による異世界ソーセージ!
「よし」
「早く食べさせなさい」
既にプラティとヴィールがスタンバイしている!?
目敏いヤツらめ。
まあ、試食係は欲しいので、躊躇わず茹でたてソーセージを差し出す。
事前にケチャップとマスタードも用意したので、好きな方を付けてみれ。
「「いただきまーす」」
今回、ソーセージの材料に使った角イノシシの腸は太く大きく、俺が前の世界で見たウィンナーソーセージより大きめになってしまった。
フランクフルト級?
混乱しないために呼び方はソーセージで統一しよう。
そんな太くて大きな棒状の肉が、プラティヴィールの口内に入る。
女の子のぷっくり艶やかな唇を滑りつつ肉棒が侵入していき、中ほどでパリッと音を立てて折れた。
「「うまあああああああいッ!!」」
いつもながらリアクションがいいなあ。
「これ、これもスクエアボアのお肉なの!? そのまま焼くのとも、ハンバーグにするのとも違うわ! ちょうどその中間みたいな歯応え!?」
「プリップリで歯を押し返すようだぞ! パリって! 口の中でパリって!!」
異世界ソーセージは大成功のようだ。
いつものように、プラティヴィールの歓喜に誘われ他の住人たちも集まってきた。
彼らのために、急ピッチで腸に肉を詰める。
「シャクスさんから貰った肉、全部使い切るぞー!」
元々そのためのソーセージ作りでしたからね。
余ったら燻製にして保存したればいいんだし、脇目もふらず充填機で肉詰めまくるぞ!
腸内空っぽの方が、肉詰め込めるともいいますしね!
ゴブ吉! ソーセージを茹でたり焼いたりするのはお前たちに任せるぞ!
俺はひたすら肉詰めまくる!
「あ、そうだ。エドワードさんもソーセージ食べてってくださいねー!」
アナタのおかげで成功したようなものですから!
……と思ったらエドワードさんは、既にソーセージを肴に一杯やっていた。
飲まれているのはビール。
さすが酒好きドワーフはセンスが鋭い。
ビールとソーセージのジャーマンコンボを、誰に言われるでもなく完成させるとは。
「おぉい、バッカスや……! 酒をもう一杯くれ……!」
「さすがの酒の神でも止める頃合い。お前、ここに来てからずっと飲み続けてばっかっす!」
「仕方ないじゃろうが! 常に酔ってないと! この場所にシラフでいたら、またいつショックで心臓止まるかわからんわ!!」
…………。
俺は、エドワードさんに思ったより負担を強いていたのだろうか?
だとしたら無意識に悪いことをしていた。
たくさんソーセージを茹でて労ってあげなくては。焼いてもいいかな。
鍛冶が専門の人だから、アスタレスさんの聖剣を復活させたときの話でもしたら喜ぶかな?
「聖者様、聖者様」
何ぞや?
次のソーセージならまだ出来上がってないぞ?
「来客ですよ。パンデモニウム商会のシャクス様です」
え?
あの人また来たの?
ちょっと今手が離せないから、ここにお通しして。
「聖者様。こたびまた珍しいものが手に入りましたので……。はう?」
シャクスさん。
俺の行っている珍妙な作業にすぐさま気づく。
聞かれて答えるのも面倒なので、先んじて説明する。
「これはですねえ、ここをこうして……!」
「はいはい?」
「焼くか茹でるかして……」
「ほほう~?」
「で、食べる料理なんですよ」
ソーセージの概要を説明し終わると、シャクスさんは明快な驚きの声を上げる……かと思いきや。
逆に深く沈んで考え込む表情をしてしまった。
「……あの? 食べます?」
「是非とも」
茹でた方と焼いた方のソーセージを両方渡す。
ケチャップとマスタード好きな方を付けてお召し上がりください。
シャクスさんは、既にご年配の域でダンディなお髭を蓄えた紳士だ。
その渋さ溢れる口元に、極太肉棒を運び、躊躇いなく口内に入れる。
黙々と食べ……、というか吟味している。
なんだこの、食事シーンにあるまじき真剣さは?
「す、凄いでしょう? この料理、シャクスさんから貰った肉を材料に……!」
「聖者様!」
シャクスさんが食い気味に俺に迫る。
「この装置、量産は可能でございましょうか?」
「え?」
シャクスさんが指さすのは、今を時めくソーセージ充填機。
「量産? どうだろう? 総マナメタル製だしなあ」
「だからなんで総マナメタル製なんですか!?」
そこを除けばけっこう簡単に作れるんじゃないの。
詳しくは共同制作したエドワードさんに聞いてほしい。
「エドワード……? おおッ! もしやドワーフ王エドワード・スミス様ではございませんか!?」
「誰じゃ!?」
「吾輩ですよ! パンデモニウム商会の会長で、以前ご挨拶に伺った!!」
さすが偉い人同士、既に面識があったらしい。
何やら二人で話を進めている。
「このソーセージ充填機なら設計は頭に入っとるし、原料さえもっと安価なものに替えれば、我がドワーフ地下帝国で量産は可能じゃぞ?」
「マジですか!? やった!!」
『やった』って……?
「しかし元々の発案者は聖者様なのだから、あちらに許可を取らん限りはやっちゃダメじゃろ? ウチもそれがない限りはビクとも動かんぞ?」
「聖者様!」
シャクスさんが、今度は俺に迫ってきた!?
「お願いでございます! このソーセージ充填機を、量産して売り出す許可を!!」
「え!? 売るんですか!? アレを!?」
「こんな斬新な肉加工品、大ヒット間違いなしです! 当然聖者様にもアイデア使用料を払わせていただきますので! 許可を!!」
いや、金なんていらんし。
美味しいものを独り占めするなんて気もないから、広めてくれるなら広めていただけるとありがたい。
「ただ食中毒なんてあると嫌だから、作り方はちゃんと覚えていってくださいね。保存用の加工法もありますから」
「はい! 当然でございます……!」
* * *
こうして、商機を見出したシャクスさんはソーセージ充填機を売り出すのであった。
さすが大商人。機を見て敏とはいうが、その実践ぶりが半端ではない。
エドワードさんを巻き込んで、ドワーフ地下帝国に大量発注。
ドワーフ印のソーセージ充填機が売れまくって、魔国中を席巻する。
さらに魔族に制圧された旧人間国にも広がって……。
世界中にソーセージ旋風が吹き荒れることになろうとは、この時の俺は予想だにしてなかったのであった。
 






