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266 肉転生

 古人曰く……。

『どんなものでも粉にしたら食える』


 いや、本当に言ったかどうか知らんけど。


 たとえば麦。

 そのままでは硬くて食えたもんじゃないが、挽いて粉にし、水を加えて捏ね、焼いてパンにすれば美味しく食べられる。


 粉化こそすべての食に通じる道。


 で。


 俺たちの目の前にあるお土産イノシシ肉。

 贈呈主たるシャクスさんには悪いけど、ウチで獲れる肉の方が遥かに美味しい(オブラートに包んだ言い方)。


 不味い(直球)ものを好んで食べたくはないけれど、かつて命あったものを無為に破棄するのは忍びない。


 ならばすべきことは一つ。


 不味いを美味に加工するのだ。


 さすれば食材を無駄にせず、舌も幸せになれるであろう。

 その加工方法が、さっき言った『粉』。


 一度原形を留めないほどにまで粉々にして、まったくの別食品に作り替えてしまうのだ。


 肉の粉状と言えばミンチ。

 ミンチで作る肉料理と言えば。


「ハンバーグ……!」


 ハンバーグは本来牛肉だけど細かいことは気にしない。


 一応ハンバーグの材料は一通りあるので作ってみた。

 空気を抜くために、両手で超高速キャッチボールした。


 出来上がったら皆に好評だった。

 ヴィールや大地の精霊など、子ども組には特に好評。


「うめえええええええええええッッ!?」

「うめ―です! うめーです! どくとくのはごたえですうううううッッ!!」


 ……子ども組?

 なんか語弊がある表現だが……。


 意外にもハンバーグはまだ作ったことがなかったのだが、これからメインメニューとして登録されることだろう。


 しかし問題は解決しない。

 シャクスさんの贈ってくれた肉はまだまだ残っている。


 ウチの農場もそれなりに人数いるから、シャクスさんが気を利かせてたくさん用意してくれたんだろうなあ。

 でもさすがにこれを全部ハンバーグにはできまい。

 きっと飽きるし、あと挽肉を捏ね捏ねしすぎて手首が死ぬ。


「別のアプローチが必要かなあ……」


 他になんかあったっけ? ミンチでできる料理って……?

 ……ハッ!?


「ソーセージ……!」


 あれもたしかミンチを使った料理のはず。

 しかも保存食で日持ちがいいはずだ。


 質の悪い肉……、ゴホン、処理の困った肉にはピッタリの調理法ではないか!


 よし、シャクスさんから貰った肉で異世界ソーセージ作りに挑戦だ!


    *    *    *


 ソーセージと言えば、言い換えれば挽肉の腸詰。


 即ち腸が必要だ。


 材料の肉が目の前にあるんだから、そこから取ればいいじゃん。

 ……と思えたが、シャクスさん贈呈の肉はしっかりと解体処理がしてあって内臓も骨も抜き取られていた。


 ウチで狩猟したモンスターは、どんな部位でも無駄にせず利用したいので、モツも捨てずに保存してある。

 大抵はもつ鍋にして皆で楽しむのだが……。


 ……あった。


 食材庫を探していたら、フツーに角イノシシの腸が冷凍保存してあった。

 処理したのはオークたちかな?

 内側もしっかりきれいに洗ってある、良い仕事だ。


 挽肉を入れる腸はこちらを使用しよう。

 ギフト『至高の担い手』の出番だ。

 我が手に宿る力が勝手に最善を選択して、腸の処理をテキパキ進めていく。


 中に入れる挽肉の方も、ソーセージならではの添加物や混ぜものがあるのだろうが、そこも『至高の担い手』の手癖に任せる。


 周囲に適当な食材を並べておくと、その中から一番適したものを掴み取って挽肉に入れていくのだ。

 全自動。

『至高の担い手』本当に便利。


 挽肉を入れるための腸袋。

 腸袋に入れるための挽肉。


 双方が揃った。

 あとはこれを一つに合わせるだけだ。

 そうすればソーセージ完成!


 ……するが。


「どうやって詰めよう?」


 こういうのってたしかあれでしょう?

 腸の中に挽肉を詰め込む専用の機械があるんでしょう?

 それがなきゃダメなんでしょう?


 いや知らんけど。


 もしかしたら頑張って手で詰められるかもわからんけど、なんかそのやり方は美しくない気がする。


 これからも定期的にソーセージを作るとすれば……。

 欲しいな! ソーセージの挽肉入れ機!

 ……充填機?

 まあ、そう呼んでおこう。


 ではその充填機をどう用意するか?

 またヘパイストス神に頼るという手もあるが、何となく充填機の構造は簡単そうなので、ヘパイストスカウンターを消費するのが気が引けた。


 なら他にどんな方法があるか?


 そうだ、こうした工具作りに長けた知り合いが最近できたばかりじゃないか!


    *    *    *


「……そして、ワシか」


 ドワーフの親方エドワード・スミスさんを再び我が農場にご招待した。

 要件の趣旨をわかりやすくご説明するため、まずはハンバーグを召し上がっていただいている。

 あと、もちろん酒も。


「この腸を加工して作った袋にね、挽肉を隙間なくパンパンに詰め込みたいんですよ! そうするための道具を、ドワーフさんに作っていただけないかな、と!」


 もちろんお礼もたんまり用意させていただくつもりです!!


「聖者様のお頼みとあれば断るなんてしませんがね。……まあ、この挽肉の柔らかさから見て、圧力かけて押し出すのがいいんじゃないですかねえ?」

「おお!」


 さっそく有効なアイデアを!?

 さすがドワーフ!


「そういう仕組みはポンプを応用すれば簡単に作れるでしょう。地下の掘削作業にポンプは必需品ですから」

「それでは早速製作を! もちろん素材はこっちで用意します!!」


 マナメタルのインゴットをドン!


「またマナメタルうううううううッ!?」


 エドワードさんが、痙攣していらっしゃる!?


「そういや前にマナメタルの蒸気船見た時もショック死していたし、どうしたんですか!? マナメタル嫌いなんですか!?」

「い、いや……、好きとか嫌いとかいう問題ではなく。……できれば、至近にいきなりガンて出すのは……、刺激が強いんで……!」


 刺激ですか……!?


 とにかくエドワードさんの、ドワーフの工作技術とノウハウを頼りにしたい。


「一緒に、ソーセージ充填機の作成をしていきましょう! このマナメタルで!」

「やっぱりマナメタルが材料なのかあああああッ!?」


 えッ? ダメですか?

 マナメタルだと、食材に金属の臭いが移ったりしないので大変助かるんですが!?


「ダメとは……! ダメとは言わないけれど……! 地上最高の金属が……! 伝説の名剣じゃなく調理器具に……!?」


 何やら身を斬られるような表情だけど……?


 まあいいや。

 まずはマナメタルを必要な分だけ斬り分けるところから始めよう。


 こんな時こそ出番だ邪聖剣ドライシュバルツ!


「聖剣んんんんんんんんんんッッ!?」


 おおうッ!?

 なんだ!?

 またエドワードさんが奇声を発した!?


「魔族の王だけが所持するという! 神が作った伝説の聖剣が!? ワシの目の前に!? ゲンブツがあああああッ!?」


 そんなに興奮するものですかね!?


 いや、言うほど大したものじゃないですよ?

 世界の危機と戦うでもない俺ですから、どんなに強力な武器があっても無用の長物ですし。

 精々こうやって、材質を切り分ける程度の用途しかね?

 シュパーン、と。


「聖剣でマナメタルを切り分けてるううううううッ!? 地上最強の聖剣を工具代わりいいいいいいいッッ!?」


 エドワードさん。

 落ち着いて。

 あまり興奮しすぎると、以前のようなことにもなりますし……。


「ダメだ……! この土地は、ワシの理解を超越している……! ワシの、ワシの半生懸けて築き上げてきたドワーフ職人の価値観が、崩壊……ッ!?」

「?」

「……………………」

「また死んでるッ!?」


 再び急性ショック死したエドワードさんを復活させるために、俺は大急ぎで先生を呼びに行かなければならなかった。

 彼との会話はスリル満点だ。

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