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248 それぞれの冬の過ごし方(二)

 引き続き、我が農場での冬の過ごし方について振り返っていく。

 次に思い出すのは、こんな珍事件だった。


    *    *    *


 一面の銀世界に駆け出す全裸の女性。


「ん?」


 俺はとっさに目を瞑ったが、それでもチラリと見えたものは見えた。

 見ないと対応できないし。


「一体何の異変だ……!?」


 両手で目蓋を抑えて見えないようにしていると、それでも耳に入ってくる黄色い声。


「やーだー、冷たいー!!」

「全身冷える……! 凍る……!?」

「酒ッ! 酒……!」

「全身をあっためて……!?」


 …………。

 何が行われているのだろう?

 視界を封じられている俺には、推測することでしか状況把握が不可能だった。


「これは訓練だ」


 ん?

 その声は酒の神バッカス?


 ウチの農場にいつの間にか居着いて精力的に酒の開発製造してるヤツ!


「あの……、俺の目の前で全裸の女性が駆け巡ってる気がするんだけど、気のせいかな」

「いや、駆け回っとるぞウチの巫女たち十五名が全裸ばっかっす!」


 うおおおおおおッ!?

 あぶねえ!? 油断して目を開けるところだった!


「なんで!? なんで全裸で駆け回ってるの!?」

「言ったであろう。これは訓練なのだ。我がバッカス教団の巫女としての」


 訓練!?

 さっきも言ってたけど寒い中全裸で走り回って何の訓練になるというのだ?

 あ、寒中マラソン!?


「いいか、雪積もる厳寒の中、裸で雪の中に飛び込むと冷たいだろう?」

「想像するまでもなくて背筋が凍る」

「そうして冷えた体に酒を流し込むと、ポカポカ温まる。その状態でまた雪に飛び込み体を冷やす。酒を飲んで温まる。これを繰り返すことで……」

「ことで?」

「日頃から摂取できる酒量が増える!」


 何の訓練なんだよ!?

 いくら酒飲み教団だからといってもさらに飲めるようになるためにそんな厳しい訓練積まなきゃいけないの!?

 厳しいなバッカスの巫女って!?


「冬の間しかできない、季節限定行事だな」

「知らんけど、せめて全裸はやめろよ。風紀が乱れる……!?」


 まだ自分の手で目を覆っている俺です。


「着衣のまま雪に飛び込んだら服が濡れるではないか?」

「なんでそこだけ常識的なんだよ!?」


 大体、正気の沙汰とは思えないこの訓練の指導者、バッカスは全裸の女性を見て何も催さないのかと邪推したくもなるが、相手は半分だけとはいえ神。

 千年単位の寿命を持っていて、もはや性欲など枯れ尽くしている。


 あるのはただ酒を飲むこと作ることへの情熱のみ。


「こうして訓練を重ね精鋭を育て上げ、来春の新たな計画に弾みをつけるのだ」

「新たな計画?」

「この農場で作った酒を、外へ売り歩く」


 なんでそんなことするんですか?

 別にダメってわけじゃないけど。


「美味しい酒は皆で分け合うべきだろう?」


 こういうところが酒の神だった。

 ただこの全裸酒量増強訓練は思わぬ影響をもたらし、この訓練模様を見て影響を受けた他の女性たちが、温泉であったまった体をそのまま雪に投げ出し、冷えた体をまた温泉で温めるという繰り返しの快感に目覚めてしまったのだ。


 おかげで全裸のまま女湯から飛び出す女性続出。


 農場の風紀を守るためにより一層の取り締まりを迫られるのであった。


    *    *    *


 そして人間族の王女レタスレートちゃん。


 冬の間はソラマメも育てられずに暇してるだろうと思ったが、彼女なりに冬を満喫していた。


「よいしょ、よいしょ、よいしょ……!」


 何をしているのかと気になって見てみたら、雪玉を転がして他の雪を巻き込み大きくしようとしている。


「雪だるま作りか」


 以前俺が教えたものだが、今年も大流行りして農場中に雪だるまが五百羅漢ばりに並んでいる。


「そうよ! 王女の作品に相応しい、他の凡百雪だるまとは一線を画する高級品を作り上げるわよ!」


 相変わらず変なところで王女様のプライドを振りかざす子だ。


「まあ雪だるまを作るならもう一つ雪玉がいるけれど、どうするの? 俺が手伝おうか?」


 胴の部分と頭の部分の二つ。

 俺も冬で、油断するとすぐ運動不足になるから、率先して体を動かさなきゃ。


「心配無用よ! もう一つの雪玉は、既に頼もしい助っ人が制作中なのだから!」


 ああ、もう手伝いいたの?


 じゃあ仕方ない。俺は俺で独自に雪だるま作成を始めるかな。


「ホルちゃん! そっちの雪玉はどう?」

「順調ですレタスレート」


 えッ?

 レタスレートの雪だるま作りを手伝って、雪玉転がしてるのホルコスフォンなの?


 天使のホルコスフォン?


 我が農場最強の一角に数えられ、腕力だって相応にあるホルコスフォンが雪玉なぞ作ったら……!


「頭部用の雪玉制作、完了いたしました」

「「でけえええええええええッッ!?」」


 俺とレタスレートちゃん。

 聳え立つ雪玉を見上げて心底驚く。


 もはや雪玉と呼べるレベルの代物ではない。

 球状の雪山だった。

 球の直径が、俺の家の屋根の高さを余裕で超える。


 天使ホルコスフォンが本気で雪玉作ったら、この大きさにまでなるのか。

 怖い。


「こらー! ホルちゃん大きい! 大き過ぎよ! こんなん私の作った雪玉と全然バランスが取れないじゃない!」


 ホルコスフォンの作った雪玉と、レタスレートちゃんの作った雪玉を大きさ比較すると……。

 地球と月。

 誇張なしにそうなんじゃないかと思えてしまう。


「レタスレート、頭部は完成しました。胴体用の雪玉をお願いいたします」

「こっちだってもう完成よー!!」


 しかもホルコスフォンの雪玉の方が頭部用だった。

 これ明らかに胴体が頭に潰されるだろう。


「では乗せます。せーの」


 そして容赦なく乗せた。

 案の定レタスレートちゃんの雪玉、ホルコスフォンの雪玉に潰された。


「ぎゃあああああああああああッッ!? 私の力作があああああああッ!?」


 以後、二人の合作雪だるまは農場最大の晒し首雪ダルマとして、周囲からの注目を集めることになった。


『特別な雪だるまを作る』という彼女の目標は達せられたのだ。


    *    *    *


 最後に語るのは、サテュロスのパヌたち。


 乳製品生産が仕事の彼女たちだが。

 降り積もる雪の冷たさを利用して、アイスクリームを量産したという。


 寒い時期の環境を利用して、冷たいものを作らんとする気持ちはわかる。


 しかし人間、寒い時ならバランスをとって温かいものを摂取し、体温を一定に保とうとするのが本能。


 結論から言うと農場の者たちはホットミルクやチーズホンデュの方が大人気で。

 寒い時こそアイスクリームという猛者はなかなかにいなかった。


 仕方ないので自分たちでアイスを消費しようとするパヌたち。

 しかし調子に乗って作りすぎたそうで、彼女たちだけで食べきれる量ではとてもなくなっていた。


「聖者様……! よろしければどうぞ一杯……!」


 青い唇で迫られるので俺もご相伴するしかなかった。


「頭にキーンとくる……! あとどれくらい残ってるの?」

「今日作った分を含めて、一三八カップ……!」

「なんでまた新たに生産するの!?」


 結局、温泉の風呂上がりコーナーに並べることで何とか消費を上げて切り抜けることができましたとさ。


    *    *    *


 我が農場の住人の冬の過ごし方は大体こんな感じだ。

 オークやエルフたちはオークボ城のアトラクション作成で忙しかったし、ゴブリンたちは、その間農場の留守を預かってこれまた忙しかった。


 全体的に充実した冬だったと思う。


 そうして、寒さに篭る時期を過ぎ、次回からは本格的な春の物語を進めていくとしよう。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
冷凍倉庫作ってあるんだから、なんで寒い冬にアイスを消費しようとするの? バカなの??w
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