241 慶事の対応・陸遊記その六
「プラティが妊娠した!?」
オークのハッカイです。
アロワナ王子の修行のため地上行脚の我が一行。
本日は、パッファ様から特別重大な知らせを受けて皆で驚き合っております。
「ついにやったか妹よ! でかした! でかしたぞ!!」
膝を叩いてアロワナ王子が興奮するのも無理からぬこと。
ご懐妊したプラティ様は、アロワナ王子の実妹なのですから。
親族の祝い事は素直に、心から喜ぶ御方なのです。
ましてプラティ様の夫に当たる聖者様は、アロワナ王子の義弟に当たるだけでなく無二の親友。
我がことのようにお喜びです。
「プラティのヤツがそこまで赤ちゃんに拘った理由もアホ臭いけどね。まったく、アホ臭すぎて呆れるしかないよ」
「どんな理由なのだ?」
「それは……、アホ臭すぎて言う気にもならないんだよ!」
パッファ様が、赤面しつつそっぽを向きました。
そこで居合わせた全員が様々察しました。
パッファ様は、アロワナ王子同様人魚族で、しかも『凍寒の魔女』などとあだ名される高位の魔法薬師。
その力で、旅する王子と農場の間を瞬間移動で行き来して、王子の旅の助けと農場の仕事を両立してこなしているという強者です。
何故そんなややこしいことをしているのかと言うと……。
「ねーねー、姐さーん」
天使のソンゴクフォンちゃんが、能天気に尋ねます。
「姐さんとアロワナのアニキは赤ちゃん作らねーんすかー?」
「ふがんぐッ!?」
そういうことです。
しかしソンゴクフォンちゃんは空気も読まずひたすら前進していく破壊天使。
「ばばばばば、バカヤロウ! 軽はずみなことを言うんじゃないよ! アタイがそんな王子と……、結納! 挙式! ハネムーン! 築かれる家庭! 妊娠! 出産! 妊娠! 出産! 妊娠! 出産! 妊娠! 出産! 妊娠! 出産……ッ!?」
パッファ様、妊娠出産繰り返し過ぎです何人生むおつもりなんですか?
「そうだぞソンゴクちゃん。人間関係はデリケートなのだ、人生の節目となる重大行事を軽々しく語ってはならない」
対してアロワナ王子は冷静でした。
「たしかにパッファのような才女が、王妃の座についてくれたら人魚国は安泰で、これほど喜ばしいことはない。しかしな、婚姻で一番重要なのは当人の気持ちなのだ。それを聞かずに勝手に話を進めることなどしてはならん」
「じゃあ聞けよ」
じゃあ聞けよ。
私もソンゴクフォンの肉声に重ねて心の中で叫んでしまいました。
聞きなさいよパッファ様の気持ちを。
OKくれることに全財産賭けますよ。あとオークボリーダーの魂も。
「………………ッ!」
特定の場合のみヘタレになるパッファ様をこれ以上見ていてもいたたまれないので、このハッカイめが助け舟を出すことにしましょう。
「まあ、プラティ様のご懐妊はめでたいということで、どうでしょう? 一度農場に戻ってみませんか?」
「うぬ?」
唐突な提案だったのか、皆さんキョトンとしておられます。
「どうせ、農場との行き来は転移魔法で簡単にできるのですし、アロワナ王子が兄として、じかに祝福の言葉をプラティ様にかけてあげてはいかがです?」
「そうだよねえ! ソンゴクちゃんも実際この前農場に行ってきたし、一日ちょっと顔見せに行くぐらいいいんじゃない!?」
パッファ様も意外に乗ってきました。
幸せなカップルを間近に見ることで、自分たちも同じように……、という流れができるのを狙っているのでしょうか回りくどい。
「アードヘッグ様はどう思われます?」
「ん?」
ここで私たちの新しい旅の仲間を紹介しましょう。
グリンツドラゴンのアードヘッグ様です。
ドラゴンです。
こないだ旅の途中で唐突に襲われて死闘を演じました。
ちょうどパッファ様がソンゴクフォンを農場に連れて行ったタイミングで、私とアロワナ王子だけで対応して正直死ぬかと思いました。
アードヘッグ様は、竜の王ガイザードラゴンから、後継者になるための試練を与えられていて、それをクリアするために世界中を飛び回っていたそうなのです。
その試練とは……。
『英雄にあるまじき王』もしくは『王にあるまじき英雄』。
……のどちらかを連れてこいとのこと。
なんだその謎かけみたいなお題は? と首を傾げます。
アードヘッグ様は、我らのアロワナ王子こそ出題にある『英雄にあるまじき王』か『王にあるまじき英雄』のどちらかではないか? と期待をかけたのだそうです。
一度戦ってみてアロワナ王子への期待を一層高めたアードヘッグ様は、完全な見極めをつけるため我らの旅に同行してきたということなのでした。
現在はヴィール様のように人間形態となって皆と一緒にゴハンを食べております。
「……おれから言うことは何もない。英雄もしくは王たるアロワナ殿の行動を見守るのみだ」
そうですか。
「そして行動を逐一吟味し、英雄であるか王であるかを見極めるのみだ」
そうですか。
めんどくさい人が仲間になったなあ。
いや人じゃなくて竜か。
「またあののーじょーに乗り込むっすかぁー?」
「ソンゴクちゃんも、またお仲間のホルコスフォンに会いたいよねー?」
「おぁー、今度こそ完全破壊して決着つけたるっすょー!!」
なんでそんなに怨恨に満ち溢れているんですか?
まあ私もできるなら久々にオークの仲間たちに会って近況を報告しあいたい。
どうですかアロワナ王子?
「……ダメだ」
ダメでした。
なんで?
「この旅の趣旨を忘れてはいかん。私は、この身を次代の人魚王として鍛え上げるために旅をしている。修行の旅なのだ。修行を一時中断するなどできるはずもない」
真面目だなあ。
「プラティへの懐妊の祝辞は、パッファから充分に伝えておいてくれ。ヘンドラーに伝えて本国への一報、及び祝い品の手配も滞りないように」
「わ、わかったけどいいの? 少しぐらい融通を利かせても……!?」
「いかぬ。人魚王へ至るための修行は、生半可なものではいかんのだ。自分を極限まで追い込み、今まで見えなかった細かなものまで見抜けるようになってこそ、強く優しい王になることができるのだ」
なんと真面目なコメントでしょう。
それを凝視するドラゴンのアードヘッグ様、何やら彼の脳内からドラムロールみたいな音が流れてきて……。
「王ポイント、+2!」
これからずっとそのポイント計算やってくつもりなんですか?
面倒くさそうだなあ。
「と言うわけだからパッファよ。プラティへの祝辞はお前の方から重ねて述べておいてくれ」
「わかったよ。いちいち念押さなくたっていいからさ」
「妹に直接祝いを述べるのも、聖者殿に再び相対するのも、修行を終えて人魚王としての資質を養い終えてからだ」
「はいはい」
「パッファへのプロポーズも、修行を完了させてからとなろう」
「はいはい。……えッ!?」
パッファ様の表情が一瞬にして劇的に変わりました。
というか今も変わり続けています。
ハトが豆鉄砲食らった顔というか、恋する乙女の顔というか、そういう顔が交互に入れ替わって目がチカチカします。
「だ、だんなさま? 今何と……!?」
「さあ、そろそろ寝るとしよう。明日もたくさん歩かないといけないからな」
「ちょっと待って! 今なんつったのかっつってんのよ!? プロポーズ!? プロポーズと言いましたか!? 誰が!? 誰に!? ねえもう一回言って!?」
「くどいぞパッファ。すべては修行の旅が終わってからだと言っただろう。一つの事柄を終えなければ、次を始めることなどできないのだ」
「だったら今すぐ旅を終わらせええええッ! 話を! 話の続きをおおおおッッ!!」
アロワナ王子って、鈍感なのか朴念仁なのか、凄まじいちゃぶ台返しの手腕をお持ちだなあ。
空気を読まないことについてはソンゴクフォンが随一と思っていたが、さらに遥か上を行っていた。
「…………」
その様子を見て旅の新メンバー、アードヘッグ様は……。
「英雄ポイント、+3!!」
そのポイント付け、ずっと続けていくんですか?
面倒そうだなあ。






