240 祭りは続く
はー、風雲オークボ城、無事終了。
成功と考えていいだろう。
俺です。
戦いを終えた領主さんと、その奥さんと一緒に城を降りる。
え? 奥さんじゃない?
まあそれはいいとして。
向かう先は、麓にある村。
思えばここが騒動の始まりだった。
村は、脱落した兵士さんたちの強制転移先になっていて、そこでは参加賞の豚汁が振る舞われていた。
「うんめえええええええッッ!?」
「何だこのスープ!? コクがあって味が深い! 中の具もゴロゴロとボリューム凄い!」
「あ! 領主様ー! 全員無事ですよ!! ブタジルなるもの超美味いですよー!」
「え? トンジル!?」
レクレーションで体を動かしたあとは豚汁を食するものと相場が決まっているからな。
最近開発したばかりの鰹節が早速大活躍して、豚汁に上品で深いコクをもたらしてやがるぜ。
「うわー、思ったより皆元気そうー……」
「私たちの本気の奮闘は何だったのか……」
領主夫妻が煤けておられた。
「聖者様、聖者様」
バティに突っつかれる。
「あの二人夫婦じゃないですよ」
「え? そうなの? こちとらてっきり?」
「まあ、あの雰囲気じゃ誤解してもしょうがないでしょうけど。まあ実際秒読み段階でしょうけどね」
二百人以上からなる兵士たちがいきなり押しかけて、辺境の小村は一気にお祭り騒ぎ。
村人たちも豚汁をすすって、満面の表情だった。
「我が領地が一部なりとも賑やかなのはいいことだ」
はい、領主様。
「しかし、それでは有耶無耶にできない問題がある」
はい、……領主様。
俺とオークボは並んで、彼の前に正座した。
「我が領内に無許可で築城したことは、看過しがたい軍事行為であり、危険な行いだ。城とは戦争のために建てるもの、その事実はゆるぎない」
「はい……」
「私一人が納得したとしても、周囲がどのような反応をするか未知数だ。特に今、旧人間国が魔国の占領下にある今、反乱ととられるような動きは何としても慎まねばならん」
軍備増強とか「お前戦争する気だろう?」って言われても仕方ないですよね。
城を築くなんてそのものな行為。
「……で、ではウチのオークボたちが建てた城は……!?」
「心苦しいが、破却、ということで」
「待ってえええええッッ!!」
俺とオークボの二人で、領主様に縋りつく。
「それだけは! それだけは待ってください! ウチのオークたちがいっしょーけんめー拵えた城なんですうううううううッッ!!」
「大抵の言うことは聞きますから、あの城を残してあげてください! 生まれたばかりの可愛い子なんですうううう!」
俺はともかくオークボに縋りつかれたら、そのまま圧殺されかねない。
クマかライオンにじゃれつかれるようなものだからだ。
「そうは言われても……! 別に意地悪で言っているわけではなくだな! 私は、領地の内外を気にして、領地の不利益を避けたいと……」
「ならば」
そこへ女魔族のヴァーリーナさんが現れる。
可憐なドレス姿だった。
「賞品のドレスもう着てんの……!?」
「サイズ調整の仮縫いの途中だったんですが……!」
若い男性の領主さん、彼女のドレス姿に完全に目を奪われていた。
「利益に変えればいいのです。この城の存在を、私たちの領地にとって」
「はい?」
「今回私たちが体験したことを、今度は旧人間国全土……、いえ、魔国にまで範囲を広げて行えばいいのです!!」
どういうことだってばよ?
「領主ダルキッシュ様を主催とし、私たちの領土に空前絶後のアトラクション施設が出来上がったと喧伝するのです。そして世界中から挑戦者を募集するのです!」
「あー、なるほど、そうすれば世界中からオークボ城が危険な施設ではないと知らしめられる!」
また話が盛大な方向へ逸れていっている気がするけど。
「ヴァーリーナ殿……! そんな勝手に進められても……! 第一、今の旧人間国での施政は何をするにも占領府の許可を……!?」
「許可ぐらい私がとってみせます! これは、私たちの領が豊かになるチャンスなのです!」
あの……!
さっきからあの魔族のお姉さんが度々口走ってる『私たちの領』というフレーズから、むせ返るほどの家庭の香りが……!
「世界中から集まってくる挑戦者から参加費を徴収すれば、それだけで財政は大幅黒字! さらに領が有名になっていけば、高名な学者や武芸者が身を寄せてくれやすくなる!」
「あの……! はい……!!」
「私たちの領の発展のために、逃してはならないチャンスなんです!! 私とアナタの未来のために!!」
「はいッ!!」
領主のお兄さんが、完全に魔族のお姉さんの人生設計に組み込まれていた。
「そちらの方……」
「はいッ!?」
俺のことですね。
「もちろん、よきように取り計らってくれますよね? 嫌と言うなら即、あの城は取り壊させていただきます」
「前向きに進めさせていただきます!!」
ヴァーリーナさん、交渉の仕方がストロングスタイル。
こうして俺たちは、再び風雲オークボ城を企画進行することになった。
今度は領主さんのお墨付きをもらって。
まあ、勝手にヒトの領地に城を築いたお詫びとしてもやったほうがいいし、何より皆楽しいことは続行したい。
領主さんたちが大いに奮戦した第一回オークボ城の反省を踏まえ、よりきわどいゲームバランスで、挑戦者たちが高揚と絶望を目まぐるしく味わうことのできるアトラクションに改造して行こう!
領主さんサイドでも、許可を取ったり、挑戦者を集めるための宣伝、募集期間に三ヶ月はかかるということなので、その辺りを目途に。
企画会議も精力的に行われた。
「やっぱりさ、第一関門で落とし過ぎたんじゃない?」
「二百五十人から一気に八十人ですもんね。最初で落とし過ぎると後々見栄えが寂しくなりますし」
「どの段階で何人ずつ減らしていくか。ってことをコントロールしなきゃですね」
「各企画によって適正人数がありますから、それを踏まえて関門の順番を考え直した方がいいでしょう」
「じゃあ、ついでにおれが道を阻む試練を復活させて……」
「「「「それはない」」」」
だからヴィールが出てくると無理ゲーになるからダメって言っただろ!!
* * *
こうして、風雲オークボ城の開催準備やら新作料理の開発やらで瞬く間に時間が過ぎていく冬。
その冬のある日、俺を凄まじいビックニュースが襲った。
ついに。
ついに。
ついに。
ついに……。
プラティ懐妊!!
間違いなく俺の子だ!!
海母神アンフィトルテから伝授されたラマーズ法を駆使し、与えられた祝福を最大限引き出して、ついに異世界人の子種ですら宿してしまったのだ!
さすがプラティ!
王女で魔女! そして人魚!
「いやー、アタシもついに母親かー。アタシなんかに務まるかなー?」
プラティはお腹が大きくなる前から、まんざらでもない表情だった。
「大丈夫だろう? お前何やかんや言って、ちゃんとここ仕切ってるし、自分の子どもぐらい躾けきれるだろう?」
「ご懐妊中の母子共々、わたくしが全力でお守りさせていただきます」
アロワナ王子の旅に同行中のパッファがたまたま帰還していた。
ランプアイも喜悦。
やはり同族からの祝福が一番熱烈だ。
プラティの妊娠は、海母神アンフィトルテ直々に受胎告知してきたのでお墨付き。
妊娠三ヶ月とのことで、つーことはプラティが妊娠のための修行を始めた直後に受精してたってこと!?
修行効果ありすぎじゃないか、っていうかじゃあ長く継続してた修行は何だったのか、という話になるが。
「いやー、これでなんとか一息つけた。面目を保てたわねー」
何を言っているのか。
今まさに妊娠出産までの長いスタートラインに立ったところだろう?
それに面目を保つってどういうこと?
「だって、最近人魚どもが立て続けにカップル成立してるでしょう? ヤツらだってお盛んだから、いつ懐妊してもおかしくない状態……!」
俺の目線が横を向いた。
パッファとランプアイが露骨に口笛吹いていた。
「ここの人魚の中で一番最初に結婚したのはアタシ! なのに子作りで先を越されたら面目丸潰れじゃない!!」
「「「それが子ども欲しがってた本当の理由なの!?」」」
俺だけでなく、ランプアイやパッファも大いに驚く。
しかし、生み出す側の思惑など何の関係もなしに、生まれる側はただひたすら誕生までの期間を突き進み続ける。






