239 風雲オークボ城・決着編
私こと領主ダルキッシュの戦いはまだ続く。
結局のところ、第三関門を乗り越えるのに十人を失ってしまった。
あの人魚が創造した奇怪なバケモノは、攻撃すればするだけ分裂して増える特性のせいで、まともなぶつかり合いでは対処不能。
上手くかわして逃げるしかないわけだが、ヤツらは音に反応して追跡してくる特性らしく、バタバタ足音を立てて駆け抜けようとすると即座に捕まって穴に押し込まれてしまう。
そのことに気づくまでに払った犠牲が十人。
私たちは、またも関門突破のために犠牲を払ってしまった。
そしてここからはダイジェストでお伝えしていこう。
* * *
第四関門は、ヴァーリーナと同じ魔族の女性が番人をしていた。
試練の名は『頭も使おう! ベレナの人間立体パズル』。
これがクッソややこしくて難しく、一気に三十名が脱落。
ヴァーリーナが知恵を絞ってくれなかったら全滅していただろう。
そのヴァーリーナが、番人の女魔族を見て……。
「なんか知人に滅茶苦茶似てる気がするんですけど、気のせいでしょうか?」
「気のせいでしょう」
先を急ぐので軽く流しておいた。
* * *
第五関門は、背中から翼の生えた奇妙な美女による『納豆試食会』。
ネバネバが絡みついて腐った豆を出されて「食え」と言われた時には、ただの罰ゲームかと思ったが、意を決して食べてみると美味い。
特に、黒いような茶色いような特殊な液体をかけると美味い。他の兵士やヴァーリーナの間ではマヨネーズなる調味料も好評だった。
ただし僅かに二名が「どうしても無理!」と言ってリタイヤ。
食わず嫌いはよくないなあと思った。
あと……。
「番人の翼人間と一緒にいる高貴そうな女性……。あれは我が国の王女レタスレート様では?」
「気のせいでしょう」
軽く流された。
* * *
さらなる第六試練では、本当に死ぬかと思った。
ドラゴンが待ち受けていたからだ。
『ガッハッハッハ、よくぞここまでたどり着いたな下等生物ども! 次の試練はおれだ! おれを倒して次へと進んでみるがいい!!』
「こらー! ヴィール!!」
我々が立ったまま気絶しかけているところへ、さらに別の女性が現れてドラゴンを叱った。
「アンタが出てくると無理ゲーすぎるから却下って決まったでしょうが!! 大人しく戻りなさい!」
『えー? 他のヤツらばっかり無双しててつまらんぞー?』
「いいから!」
ドラゴンは自分から消え去って、我々は関門クリア。
それでもドラゴンと直接相対しただけで三名が泡噴いて失神。脱落を余儀なくされた。
* * *
第七試練は、扉が二つあって、そのどちらか一方に飛び込む。
間違った扉に入ると泥だらけになるというアレだった。
どっちの扉が正解かはノーヒント。
「ここまで来て運頼みだとッ!?」
* * *
そしてついに、我々攻め手側の人員は、私とヴァーリーナの二人だけとなってしまった。
「しかし、ついに辿り着いたぞ天守閣……!」
つまり最終関門だ。
今目の前にある扉、その向こうにあの最強オークがいる。
入れば戦いとなるだろう。
だが、城前で対峙したあのオークの覇気。あの時いた兵員全員でかかっても倒せまいと確信させる凄味があった。
あれと同じ相手に、今や二人だけとなった私たちで勝てるのだろうか?
まともな勝負ができるかすら……。
「大丈夫です……」
ん?
手が締め付けられる感触がしたので何事かと思ったら、ヴァーリーナが私の手を握っていたのだ。
何故!?
「アナタならきっと勝って、この領地を守り通すことができます。だってアナタは領主なのですから……!」
「ヴァーリーナ殿……?」
「私は、やはり今まで偏見をもってアナタたちを見ていたのかもしれない。違う種族だからわかりあえないのだと。だから私情を廃して、監察官に徹して……」
「それは私の方とて同じだ」
まして我ら人族は敗者の側。
意固地になる気持ちは彼女よりあったのかもしれない。
「でも、ここまでの困難が蟠りを払ってくれました。一丸になって立ち向かい、自分の土地を守ろうとする心に、種族の違いなどありません」
「アナタもまた仲間の一人だ」
握られた手を握り返す。
「ここから我々は一つ、困難がある時も安らかなる時も、我らは一つだ!!」
「死が二人を分かつまで一緒です」
強く鍛えられた絆をたしかめ合って、我ら二人は扉を開ける。
その向こうにいる、強きオークに挑むため……。
* * *
「天守閣到達おめでとう!」
バスーン! バスーン! と大きな音が襲ってきたので大層驚いた。
それだけで心臓止まるかと思った。
「我が君、このクラッカーというの、音が大きすぎませんか?」
「うーん、必要に迫られて突貫で開発したから火薬の量を間違えたかな?」
最終地点には、例のオークだけでなく第一関門で出てきたゴブリン、さらにエルフと人魚、女魔族に翼の生えた女性に、あのレタスレート王女によく似ている気がする令嬢と、勢揃いしていた。
なんだ!?
まさかオークだけでなく、この全員で袋叩きにしようというのか!?
絶対に勝てるわけないだろこの人でなし!!
「よくぞ天守閣まで到達することができました! アナタは風雲オークボ城を制覇することができました! コングラッチュレーション!!」
「コングラッチュレーション!!」
「コングラッチュレーション!!」
え?
「ここまでたどり着けた方には一人一人賞品を用意しております! まずは女性の方!」
「はい!?」
呼ばれてヴァーリーナがビビる。
「アナタにはウチのバティが縫いました金剛絹製のドレスを進呈! 百年着られるオーソドックスデザインですぞ!」
「今や金剛絹は、魔都市場でご禁制になったからレアものよ。まだ仮縫い段階なんで、あとで試着してサイズ計らせてね」
よく見たら、これまでの試練で現れなかった人員も複数いる。
「バティによく似た何者かまでいる!?」
「よう、かつて同僚。占領先で男漁るなんて斬新な婚活ね」
ヴァーリーナが、混乱の極みにある今、その混乱は私にも容赦なく襲ってきた。
「男性の方には、こちら! 俺手製のマナメタルの盾をお贈りいたします!!」
「マナメタル!?」
「世の中戦争は終わったというんで、剣とか直接攻撃するものより盾がいいと思って。実際装備して戦うもよし! 居間に飾ってもよし!」
なんなんだ!? この展開は!?
まさかこの最終地点に達した段階でオールクリア!? さらにクリア記念の賞品まで貰える!?
一体何なんだここまでの流れは!? 私たちは一体何をやらされてきたんだ!?
「えー? どうだったでしょうか? この城の出来栄えは?」
何やら、この場を仕切っているような雰囲気の男が、やけに媚びた表情で尋ねてきた。
顔形といい肌の色といい、人族か?
「ちゃんと楽しめましたか? こちらとしてはそのつもりで建てたものなんですが……!?」
「楽しむ!?」
* * *
男からの説明を聞いて納得がいった。
この城は、どこかを攻めたり、この地に蟠踞するのが目的で建てたものではなく。純粋に楽しみのために建てたという。
造った者が楽しめるなら、訪れる者もまた楽しめる造りにしたい。
そういう制作意図があったのか。
なるほどたしかに言われてみれば、ここまで登ってくるのにぶち当たった関門は困難であったが、それだけに白熱して興奮できた。
また挑戦したいと思えた。
それらを実際に体感したあとだからこそ、彼らの「楽しむために造った」という主張をすんなり受け入れることができる。
言葉だけの説明では警戒して、とても受け入れられなかっただろう。
そこまで考えて我々を挑発し、招き入れたということか。
なんと遠謀なることよ。
……ただ。
それでもなお言わなければいけないことが一つある。
「ヒトの領地で勝手にアトラクションを作るな」
「仰る通りです」
男性とオークは揃って私に土下座してきた。






