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237 風雲オークボ城・開幕

「私はオークボ、この城の主オークボ……!」


 我が軍の正面に現れた、覇者然としたオークが言った。

 厳かに。


 いやあれはオークなのか?

 オークでいいのか?


 オークなのに煌びやかな全身鎧をまとい、身震いするほど恐ろしげな巨馬に跨っている。

 右手には巨大な戦斧。

 あれを振り下ろせばドラゴンの首すら容易く斬り落とせそうだ。


 戦闘開始を前にして綺麗な隊列を築いていた我が領兵も、オークが発する気迫に圧倒され鳥肌を浮かべている。


 今戦いになれば、当方あのオーク一体に全滅させられるのではないか。


 こちらを存分に怯えさせてから、オークは言う。


「わかっているぞ。お前たちは、私を倒すためにやってきた兵だな? 私に挑戦すると言うのだな? いいだろう」


 何がいいと言うのか?


「この城は、お前たちのような挑戦者を待ち受けるために建てたものだ。この私と戦いたければ登ってくるがいい。城もそれを望んでいる。多くの挑戦者が群がり、踏み込むのを」


 覇気に溢れた希少なるオークは、小高い丘と一体になった城を背に言った。


「腕に覚えのある者は、我が城に挑戦するがいい。見事天守にまで到達し、攻略達成できれば至高の褒美を与えよう。今ここに開戦を宣言する。攻城戦だ。お前たちが城を攻め、我々が城に篭って防ぐ戦いだ」

「何をぬけぬけと……」


 そこまで言うとオークは、一瞬にして私たちの眼前から消え去った。


「あれは転移魔法!?」


 隣でヴァーリーナ殿が目を剥いた。


「魔族の魔法ですか?」

「ええ……、ごく一部の上位魔導師しか使えない魔法です。間違ってもオークなんかが使える魔法じゃない……!」


 それもまた理外ということか……。


「全軍前進! 目前の城を制圧する!」

「待ってください領主様! まさか攻めるというのですか!? あの城を!?」


 監察官ヴァーリーナが、私の腕を掴む。


「危険です! あのオークはあまりに規格外です! ここは一旦引き、もっと準備を整えるべきです!」

「準備を整える?」

「応援を求めるのです! 他の領地から募ってもいいし、魔族の占領軍も兵を割いてくれるでしょう! アナタは領主! 上に立つ者が危険を冒すべきでは……!」

「それは違う」


 彼女の手を振り払い、兵たちへの命令を示すための指揮棒を振り上げる。


「私は領主だ。そしてここは私の領地だ。ここで起きたあらゆる問題に私は責任を負う」


 私の領内で得体の知れない何者かが暗躍し、何事かを成そうとするなら、私はそれを突き止めなければならない。

 我が領地に住む領民たちを守ることこそが領主の使命なのだから!


「あのオークの狙いを探り取るために、あえて城を攻める。私にできることはそれしかない! 改めて命じる! 全軍前進!」


 私と志を同じくする兵士たちにも、迷いはない。


「ヴァーリーナ殿、アナタは部外者だ。無理に危険に付き合うことはない。残るがいい」

「私の使命は、アナタの監視です。それを怠ることは魔王軍への忠誠に反します」


 フン、律儀なことだ。


「それに相手は魔術魔法を使いました。魔族の使う魔法を。あの城に仕掛けられる罠にもそれが利用されているとしたら、私の知恵や経験が役に立つかもしれません」

「好きにするがいい」


 我々は毅然と兵を進めた。

 これより我ら人族とオークの、プライドを賭けた攻城戦が始まる……!


    *    *    *


「全軍停止!!」


 兵を止めたのは、これ以上進むのが簡単には不可能だったからだ。


 堀が横たわっていた。

 兵の侵入を防ぐために掘られた溝のことで、城の防護施設としては極々オーソドックスなもの。


「第一関門と言ったところだな」

「しかし奇妙ですね? 橋が渡してあります」


 ヴァーリーナの指摘通り、堀には向こう岸を繋ぐ、橋のようなものがあった。


 あくまで『橋のようなもの』であって橋ではない。


 どういうことかというと、滅茶苦茶細いのだ。


 精々片足が乗る程度の幅しかない。両足揃えるのはとても無理。

 そんな細い、もはや棒状と言っていいものが、堀のあちら側とこちら側を繋げている。


「……どういう意図だろう?」

「わけがわかりませんね。侵入者を防ぐのが目的の堀なのに、その堀を容易に渡る手段を設置しているなんて……」


 言うほど容易とも思えんぞ?

 あんな細い橋、余程の平衡感覚がなければ渡り切れんだろう。

 途中でバランスを崩して堀の底へ真っ逆さま、ということも充分あり得そうだ。


「他に通れそうな場所もありませんし、あれを渡っていくしか……!?」

「そうだな、充分に注意して進もう……!」


 とりあえず兵士が一人、細橋の上に乗って進む。

 両腕をピンと左右に広げ、素晴らしいバランス感覚で先を進む。


「おお……! あれなら余裕で渡り切るんじゃないか……!?」


 幸先がいい。

 思ったほどでもない。ヌルそうじゃないか城攻略。

 そう思った瞬間だった、この城の悪魔の翼が開くのは。


「領主様! 見てください!」

「ん!?」

「堀の向こう側から何か現れました!?」


 何故気づかなかったのか? 今まで隠してあったのか?

 堀の向こう側に出てきた何か。

 その複雑な構造をもった、木製の工作物は……。


「と、投石器……!?」


 まさかあれでこちら側を攻撃する気か!?

 いや違う。機器の向きからして、狙っているのは明らかに……。


 今まさに、橋を渡っている真っ最中の兵士!?


 バゴンッ!

 見事命中した!?


「うわあああああーーーーーッ!?」


 投石器が放ったのは石ではなく、布製の何か柔らかいものであることが遠目でもわかる。

 しかしそれでも、細い足場の上で不安定に立つ者を吹っ飛ばすには充分な威力で、兵士はあえなく橋から墜落!?


「ぶ、無事かああああッ!?」


 落ちた兵士の安否を確認するために堀の底を覗きこむ。

 兵士は、そこに到達した途端光となって消えた。


「ええッ!? どういうことだ!? まさか……!?」

「慌てないで、アレも転移魔法です」


 ヴァーリーナが助言する。


「恐らく堀の底一面に魔法のトラップが仕掛けられています。触れたら自動的に転移魔法でどこかに飛ばされるよう。どこへ送られるかわかりませんが……!」

「つまり落ちれば敗北、脱落というわけだな……!?」


 何と言う悪魔的な罠!?


「そういうことだ人間たち」

「な、何者だ!?」


 気づくと堀の向こう岸にゴブリンが立っているではないか!?

 ヤツもまたただのゴブリンではない。ビンビン覇気が伝わってくる!?


「我が名はゴブ吉、この第一関門『イライラ平均台』を預かる責任者」

「いらいらへいきんだい!?」


 なんだそのイラッと来るネーミングは!?


「趣旨はもう理解していただけただろう? 我らゴブリン兵が操作するカタパルトが放つのは、麻布袋にたっぷりと綿を詰め込んだクッション弾」


 よくわからないが当たっても死んだり怪我したりしないってことか!?


「クッション弾を避けながら平均台を駆け抜け、こちらまで到達できればクリアだ! それが第一関門『イライラ平均台』!!」

「落ちた兵士はどうした!?」

「安心しろ、別の区域で無事でいる。もちろん自由に動き回れぬよう拘束させてもらっているが……!」


 く……ッ!

 今は向こうの言い分を信じるしかないか。


「我が同胞オークボが築きし風雲オークボ城には、このような関門がいくつも用意されている。それらすべてをクリアし、天守閣にいるオークボの下までたどり着けるかな?」

「おのれ……!? 我々をおちょくっているのか!?」

「当然、全関門を制覇すれば捕えた兵士はすべて解放しよう。しかし、お前たち程度ではこの第一関門すら突破できそうにないな」

「なにいッ!?」

「なのでハンデを与えよう」


 ゴブリンがパチンと指を鳴らす。

 それに呼応して堀の向こう岸から何本もの細橋……、いや平均台が伸びてくる!?

 そして、こちらの岸と向こう岸を繋げた!?


「平均台を一本から十本に増やしたぞ。これで一斉に渡れば、一機しかない投石器では当然すべてを狙いきれない。成功率が上がるかもな」

「おのれ我々を舐めおって……!」


 そういうことならば退くわけにはいかない。

 利点を最大限に活かすのみ!


「全軍突撃! 十本の平均台を最大限活用し、投石器の狙撃を掻い潜れ!」

「待ってください領主様! あからさまな挑発です! もしや罠かも……!?」

「煩いぞヴァーリーナ殿! 落ちるのが怖いならアナタはここに残るがいい!」

「そうは言ってないでしょう!! それなら女魔族の軽やかな身のこなしを見せてあげますよ!!」


 こうして我ら領主軍は一丸となって平均台に挑み……。

 半壊した。

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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[気になる点] ふざけんじゃねえぞバカヤロー! [一言] たけし城が元ネタですか?
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