232 最強硬度
ただいまー。
漁から帰ってきました。
俺です。
途中、海難に遭った帆船とかにも遭遇しちゃってドタバタしたけど、おおむね順調な航海だった。
魚も大量に獲れたしね。
しかし、船で釣った魚はそのまま船底に保管することなく、血抜き処理をしてから転移魔法で直接農場へ転送。
すぐさま冷凍保存という画期的なサイクルを完成させたため、ますます船内のスペースに余剰が出てしまう。
先生のおかげで船に山盛り石炭積み込まなくてもよくなったし。
……一回船内を抜本的に改装した方がよさそう。
まあ、それはあとの問題と据え置くとして……。
今考えるべきは、異世界でカツオの代用となりうる魚がいるかどうか?
釣果から色々吟味して選抜したところ、具合のよさそうなのが出てきた。
俺の知ってるカツオより二回りほど大きいんだけど、青魚で腹に縞のある外見はカツオっぽい。
「ああ、それカッツ・Oじゃない?」
我が妻プラティが何か知っているようだ。
「回遊魚型のモンスターよ!」
「これもモンスターなのか……」
「身が締まってて美味しいから、人魚国でも大量に出回ってるのよね! なんだ旦那様、カッツ・Oが欲しいなら実家に頼めばいくらでも送ってもらえるのに……」
俺たちの脳裏に浮かんだのは、苦労して造った、この世に二つとないマナメタル製の魔法蒸気船。
「…………ほ、ホラ、ウチは自給自足が原則だから」
「そ、そうよね……!」
さすがにアレを作った意味がないという結論には行きづらかった。
ためしにそのカッツ・Oとやらを切り分け、タタキにして食してみたが、まあ美味い。
そしてカツオの味そのもの。
これは合格! ということで本格的に鰹節にしてみる。
呼び方がややこしいのでカッツ・Oが原料でも鰹節に統一だ。
適当な大きさに切り分けて、煮て、燻製する。
厳密には試行錯誤を何度か繰り返したが、前の世界での聞きかじり知識を押し広げていくような感覚で、鰹節づくりを再現。
「よし、あとはカビ付けだ」
鰹節作りの他にはない重要な行程。
それはあえてカビを付着させることで本体の水気を吸い取り、堅く乾かしていくこと。
そのため俺は船造りの段階から、カビ用意を意識していた。
具体的には、その道のエキスパートというか大好事家、ガラ・ルファに一任しておいたのだ!
「聖者様、ご注文のカビ菌用意しておきましたよ!」
同族の人魚たちから『疫病の魔女』とも呼ばれ、ファンタジー異世界において誰からも認識されていない細菌の存在に傾倒するガラ・ルファ。
発酵に関しては彼女に任せておくのが一番ということで、人魚の薬学魔法でハイブリットした魔法カビを噴霧して、どう推移していくかを見守る。
「何種類かの魔法カビを試作してみたので、それぞれ分けて試行してみましょう」
結果、一番素早く鰹節の形になったものを採用。
ここに完成した。
異世界鰹節!!
* * *
「なんだこれ?」
完成した鰹節をお披露目して、感想の第一声がそれだった。
発言者はヴィール。
「何やら色々大騒ぎして、あんなデカい船まで拵えて作ったものがこれか? なんか地味だな?」
たしかにここまで来るのに色々あったよね。
マヨネーズ作ったり船造ったり。
副産物の多い企画だった……。
「これならあのマヨネーズの方が美味しいんじゃないか? まあ、寛大なおれは、実際に味をたしかめるまで不用意に結論は出さないがな」
そう言ってヴィール。
鰹節のサンプルを一つひょいと持つ。
「では早速味見……」
あっ。
ヴィールったら鰹節を丸々そのまま口に入れて、歯を立てて……。
ガキン、と。
「うぎゃあああああああッッ!? 歯が! 歯がああああああああああああッッ!?」
のたうち回るヴィール。
鰹節をそのまま食そうとか、まして歯を立てるとか何事か。
「ドラゴンのヴィールが噛み切れないなんて……!?」
その間抜けな光景を見守って、プラティが戦慄の声を上げる。
そしてヴィールの手から鰹節を取り上げ……。
「ねえエルロン、そこの薪一本貰っていい?」
「ん? ああいいぞ。どうせ窯焚きで燃やすものだし……」
プラティは、右手に鰹節、左手に薪を持って……。
どうする気だ?
凄まじい速度で右手に持つものと左手に持つものをぶつけ合った。
そして木っ端みじんに砕け散ったのは薪の方だった。
「わかったわ! これは武器よ!」
プラティが唐変木なことを言っている。
「魚を原料にするから食べ物だと先入観に囚われていた! この硬度、まさに理想的な鈍器じゃない!」
「違うわ!」
「えー? じゃあ何なのよ? 間違っても食べ物じゃないでしょこの硬さは?」
まあ、そう言われたら、こんなフォスフォフィライトも一撃粉砕できそうな硬度十の物質どう食すのかと頭を抱えそうだが。
そもそもこれ、俺の知っている元々の鰹節より硬い気がするんだけど……?
ガラ・ルファの作った特製カビの影響か? それともまた『至高の担い手』が知らないうちに発動したか?
これでは削って削り節にするとしても、生半可な刃物では到底歯が立たなそうだ。
と、すればどうしよう?
うん。
聖剣使うか。
* * *
さすが邪聖剣ドライシュバルツ。
並の鉄剣じゃ、逆に刃こぼれしそうなほど硬い異世界鰹節がみるみる削れていく。
向こう側が透けて見えるほど絶妙の薄さに削れた。
「さ、これなら大丈夫。味見してみ」
「え~、大丈夫か?」
さっき歯が折れかけて必要以上に慎重になっているヴィール、それに加えてプラティも削り節を一枚口に含む。
「まあ、塊よりは口に入れやすいけど……、ん? これは?」
「噛めば噛むほど味が出てくるぞ! なんだこの味は!?」
「甘味でも辛味でもなく、酸味でもないし……!?」
「苦味でも当然ない……!?」
そうこれは……。
「「うま味!!」」
うま味成分たっぷりの鰹節であった。
* * *
お披露目も済んだところで、さらにまた邪聖剣ドライシュバルツで鰹節を削り、削り節を作っていく。
それを鍋で煮て、エキスをしっかり取ってから醤油や昆布エキスと混ぜ合わせ、何度も味見しながら塩砂糖で調整する。
そして……。
「出来た。納豆のタレ」
どうだホルコスフォン?
このタレをかけて食う納豆の味を試してみてくれ。
「賞味させていただきます……!」
特製タレとたっぷり混ぜ合わせた納豆をみずから食すホルコスフォン。
隣に何故かゴブ吉もいて、一緒に試食していた。
「…………」
空になった碗と箸を重ねて置き、一言。
「究極です」
「同じく」
やったー!!
ホルコスフォンとゴブ吉、我が農場の二大納豆マニアのお墨付きが出たぞ!
ここまでの苦労が報われた!!
「マスター、本当にありがとうございます。私の望みのためにここまで骨を折ってくださり……」
んまー、ここまで本気モードで動くのはしばらく控えたいかな。
「マスターの優しさに報いるよう、さらなる納豆作りに邁進する所存です」
「ほどほどにな」
さ、これで一件落着だ。
色々と副産物も多く生まれた今回だが、成功裏にまとまって本当によかった。
「さて、では納豆のお代わりを……」
「?」
「次はマヨネーズをかけて食べてみましょう」
そして我が農場で密かに、着実に。
マヨネーズが侵食しつつあった。






