230 禁断物質と鋼船完成
用意するもの。
卵――、ウチで飼っているニワトリ型モンスター、ヨッシャモの生みたて健康卵。
お酢――、酒蔵でバッカスが創造した調味料が早速大活躍。
油――、今回はオリーブオイルを用意してみました。
レモン――、ダンジョン果樹園で育てています。
塩――、ダイレクトな海の恵み。
ウチの農場も、望めば何でも揃うようになってきたなあ、と感嘆する。
しかし今は感慨に浸っている時ではない。
進まねば。
上に挙げた材料を、ぶっ込んで混ぜ合わせ、出来ました。
マヨネーズ!
さらにそれを、海神ポセイドスお気に入りの明太子と和えて……。
明太マヨネーズ!
それをおにぎりの具にしてヘパイストス神の神棚に捧げた。
「ヘパイストスの神様、新たなる具材のおにぎりを捧げます。これと引き換えにどうか金属船……、いえ蒸気船の設計図をお与えください」
こういうことだった。
おにぎり大好きヘパイストス神に、新しい具材のおにぎりを捧げるごとに、新しい機械類の設計図が貰えるシステムになっているのだ。
これで以前ミシンの設計図を手に入れた。
等価交換なので『神は人に対してさらなるものを与えてはならない』という決まりに抵触しないらしい。
「この前の明太子おにぎりに捻り加えただけじゃね? と思われるかもしれません。……しかし! 梅干しはこないだ漬け始めたばかりですし、他におにぎりの具材になりそうなものは見当たらなかったのです!」
色んなもの作ってる割りに……。
「しかし蒸気船が完成し、広い範囲へ漁に出た暁には、昆布やツナなど新たなおにぎりの具材が手に入る予定です。 何より! 今回の主目標である鰹節が完成したなれば……! 作れます!!」
おかかおにぎり!!
「それらを考慮し、なにとぞ俺に蒸気船の設計図を!!」
神棚からまばゆい光が放たれ、俺の前に数枚の紙片が降ってきた。
その紙片に描かれている図面は……、船!?
「やったー! 通じた!」
これで蒸気船を造ることができるぞ!!
ありがとうヘパイストス神! 大好き! これからもたくさんおにぎりを捧げます。
「……ん?」
気づいたら、なんか神棚のところに豆電球みたいなものが数個並べてあった。
明かりは灯ってない。
いつの間にあんな出来たんだ? 俺は置いた覚えないぞ?
……え?
ヘパイストスゲージだって?
ほう、おにぎりの新作を捧げるごとに一つ点灯して、欲しい設計図と交換される仕組み?
だからもったいぶらずに新作おにぎりをジャンジャン捧げたまえ、ということですか。
わかりましたけどヘパイストス神。
直接俺の脳内に語りかけてくるな。
* * *
さて、こうして無事、蒸気船の設計図をゲットできたわけですが。
その引き換えとしてとんでもないものを生み出してしまった。
マヨネーズ。
果たして俺は、異世界にマヨネーズを持ち込むべきだったのだろうか?
バッカスのところでお酢が作られて以降、マヨネーズも作れるだろうというのは大方察していた。
しかし作り出す踏ん切りがつかなかった。
何故かって?
マヨネーズと言えば恐ろしい調味料!
多大なカロリーと、重度の中毒性をもった、もはや薬物。
マヨネーズに依存してしまった者は、もはやどんな食物にもマヨネーズを掛けなければ気が済まなくなる!!
ご飯にマヨネーズをかけて食う! マヨネーズにマヨネーズをかけて食う!
宴会芸の十八番がマヨネーズ一気飲み、みたいなマヨラーを我が農場から輩出してはならぬ!
というわけで残ったマヨネーズは厳重に保管して、存在を知らさぬようにしておこう。
「これがご主人様の新作だな」
「鉄の船造るとか言い出しながら、何作ってるの?」
きゃああああああああああああッッ!?
もう嗅ぎつけられた!?
プラティとヴィールが即刻マヨネーズを発見しやがった!?
もはや俺の新作料理に反応するセンスがエスパー並みになってやがるコイツら!!
「生クリームみたいだが味が全然違うなあ」
「試しにキュウリに付けて食べてみましょう。美味しい! っていうか大抵の野菜には合うんじゃないの?」
やめろおおおおッ!?
それ以上マヨネーズの万能性に気づくと戻ってこられなくなるぞ!
何処までも続くマヨラー道から!
「マスター、私は発見しました」
「ホルコスフォンまでいつの間に!?」
「このマヨネーズを納豆にかけたら、たいへん良く合うのではないでしょうか?」
そういう食べ方もあるらしいけどね!
しかし早まるな!
キミには鰹節で作った正統派のタレを作ってあげるから!
* * *
「そんなわけで、蒸気船造りを急ぐとしよう」
造った。
作成期間一ヶ月。
理外。
「早すぎる!?」
「いつも思うけど旦那様の作成能力凄すぎでしょう!? 普通なら何十年と掛けて試行錯誤の末に完成させるものを何でポンポン造り出してんのよ!?」
ヘパイストス神から貰ったギフト『至高の担い手』のお陰だね。
あとホルコスフォンが、搭載された装備でちゃっちゃと金属加工してくれたり、鋼船とはいえ多少は必要な木材をオークボたちが山から伐り出してくれたりしたんで、グッと作業時間を短縮できたのさ!
完成した船は既に進水して、我が農場近辺の海の沖合に浮かんでいた。
「本当に金属製なのに浮かんでいる……!?」
「金属だぞ? 叩くとカンカンって言うぞ?」
オークボ、キミのナックルであまりマジになって叩かないでね?
オーク最強進化形のキミの腕力をもってすれば、いかにマナメタル製と言えども船体に穴が空きかねないから。
「またマナメタル製!?」
「どうして、そんな簡単にマナメタルを惜しげもなく使っちゃうの!? え!? この船の外面マナメタルなの!? 全部!? これだけの量、剣に打ったら何百振り造れるんだよ!?」
造船計画のこと話したら先生が乗り気になってくれて。
ダンジョンの滞留マナを凝縮して、たくさんマナメタルを生産してくれた。
先生レベルになると作ろうと思って作れるんだねマナメタル。
「これドワーフの王が直視したら、魂が鼻から漏れ出すんじゃないかな……?」
バッカスも見学にやってきた。
酒にしか興味がないはずのコイツまで興味を示してくれるとは、制作者として嬉しいぜ。
「結構大きめになったのは、漁船として網漁もできるようにしたいのと、やっぱり蒸気機関を積み込むためにある程度のスペースは確保しないといけなかったなどの理由がね……」
「船体が大きくなった分、大量のマナメタルを使用している点の方が無視し難いんだけど」
そして肝心の蒸気機関なんだけど!
…………。
……制作中に先生がやってきましてね?
『なるほど、ここで熱した蒸気の勢いで動力を得るわけですな? しかし石炭だと燃やすのが大変ですし、煙で汚れるでしょう』
……と言って炉の中に赤い石みたいなのを投げ込みましてね?
『火炎魔法の結晶を置いておきました。魔力を流し込むと反応して高熱を発生させます。煙も煤も出ませんので石炭よりは扱いやすいでしょう』
……ってね。
気付いたら蒸気船がただの魔法動力船になっていた……!
「それの何がいけないの……!?」
「ノーライフキング手製の魔法結晶なんて、一流冒険者が一生かけて探し求めるレアアイテムですよ。外装はマナメタル製で。そもそも魔法動力船なんて魔国にも一つか二つしかない超軍事高級品なのに……!?」
でもまあ、これで晴れて遠洋漁業できるわけだ。
準備はいいか?
オーク軍団よ船に乗り込め。
今回は俺も船に乗って漁を指揮する。そして異世界カツオに相当する魚を一本釣りしてくるのだ。
「わー、楽しみよねー」
「プラティ!? キミまで船に乗るの!?」
「そりゃ海のことと言ったらアタシの独壇場! それに……」
「?」
「妊活の真っ最中に旦那様と離れ離れになるわけにはいかないでしょう? 継続は力なり、っていうじゃない?」
え?
もしやプラティさん? 船上でも?
いやあの、この船そこまでプライバシー性を重視して作ったわけでもないんで、オークたちの迷惑になるかもとか……、騒音がね!
これは……!?
早めに漁を済ませて、早めに帰ってこよう!






