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229 鰹節への道

 鰹節を作ることにした。


 伝統的な保存食。


 カツオの身に何度もカビ付けすることによって水分を抜き、長期保存できるようにした上に独特の旨味を付加させたアレである。


 ホルコスフォンの要請が発端ではあるが、広い用途に役立ちそうなこの食材を全力で作っていくこととしよう!


「……で、鰹節を作るためには何が必要であろうか?」


 カツオ。


 答えが出てしまった。


 ちょっと泣きたくなるぐらい当たり前のこと。

 鰹節を作るのにカツオがいるのは当たり前のことである。


 しかしここは異世界。俺が前いた世界とは生態系も異なっていて、向こうの生き物がそのままこっちにもいるということはない。


 こっちの世界でカツオを釣れる可能性など皆無。


 しかし欲しい生き物はおらずとも、それに近い姿形をした近種は大抵いるものだ。


 俺の鰹節づくりの道のりは、まずその『カツオの代用となれる異世界魚探し』から始まる。


    *    *    *


「う~む?」


 俺はまず、農場冷蔵庫の魚が保存してあるエリアへやってきた。


 しかし今、倉庫内の彩はそんなに賑やかじゃない。

 前の冬、オークボたちが遠洋漁業でたくさん獲ってきた魚もとっくの昔に食べ尽してしまったし。

 その間定期的に船を出して漁業してきたものの、農作業の合間にしか行えないので近海での漁がせいぜいだったはずだ。


「冬にもなったことだし、またオークボたち船を出すのかな……?」


 彼らの自主的に起こした活動を当てにする日がこようとは。

 何やらむず痒い思いを覚えつつ、オークボたちに予定を聞いてみることにした。


    *    *    *


「船が壊れた?」


 聞いてみると意外な答えが返ってきた。

 オークボたちが前の冬に建造した漁船が、もうあちこちガタが来て使用不能らしい。


「何せ色々初めてで、試行錯誤で作ったものですから、作り込みの甘い部分もあって痛むのも早まり……!」


 なんとなんと。


「なので今回の冬は、どうしようかと皆で相談していたのです。今年も漁をするために新しい船を作るか? それとも別の試みをするか? と……」

「やっぱり最初の航海で、バケモノが船上で暴れたのが効きましたねー」


 オークたちはのほほんと話していたが、俺にとってはまずいことになった。


 今冷蔵庫に保存してある魚の種類では、カツオの代用になりそうな魚はなかった。

 なれば大きな船で遠洋に求めに行くしかゲットの可能性はない。


「……わかった」

「え? 何です我が君?」

「では新しい船は俺が作ろう!!」

「「「「「えええ~~~ッ!?」」」」」


 驚くオークども。


「ちょっと待っておくんなさい! 我らの催しごとに我が君の手を煩わせることなど……!」

「俺も遠洋の魚が欲しいと思っていたところなので問題ない! 俺がとびっきりの漁船を拵えてあげるので、皆気張って漁業してきて欲しい!!」


 鰹節作りが船造りから始まることになった!


 しかし、これから毎年こういうことが繰り返されるのかと思うと、一年ごとに漁船を作り直さなきゃならなくなるのは面倒だ。


「ここは一発気合いを込めて、百年乗っても大丈夫な頑強漁船を造り上げるとしよう!!」

「おお!」

「我が君!!」


 オークたちも盛り上がっている。


「我が君が全力を挙げて拵える船……! 一体どんな凄い船になるんだ……!?」

「きっと我々の想像もできない、凄いのになるに違いない」


 容赦なくハードルガン上げしてきなさる。


 お、おう……!

 そこまで言うなら、古今東西に類を見ない画期的な船を造り上げて見せようじゃないか……!


 ……うん。

 そうだな……?


「……鉄の船、なんてどうだろう?」


 オークボたちが去年作ったのは木造船だったはず。

 やはり金属と木材ならば、金属の方が強く丈夫な素材であることは疑いない。


 そこで総金属製の軍艦のような漁船を作り上げてはどうだろう!?


「…………!?」

「えー?」


 あれ?

 どうしたオークたち?


 俺の提案に対するその微妙なリアクションは?


「旦那様、頭おかしいんじゃないの?」


 ええッ!?

 だれだそんな辛辣な指摘をしてくるのは!?


 我が妻プラティではないか!?

 もう今日の分の感謝のラマーズ法千回終わらせたの!?


「いい旦那様、アタシが真理を教えてあげる……!」

「はい?」

「鉄はね……、水に沈むのよ!!」


 ババーン!

 そんな効果音が放たれそうなぐらい堂々とした宣言だった。


「水に沈む素材、鉄! その鉄で作った船も沈むに決まってるじゃない! そんなこともわからないのウチの旦那様は!?」

「いや……、あの浮力というものがあってね……!?」

「そんな唐変木なこと言われちゃあ、オークボちゃんたちだって微妙な表情をせざるをえないじゃない! この子たち基本アナタに口答えできないのよ! だからこそアナタはしっかりした言動で皆を導いていかないと!」


 俺、言われ放題!?


 しかし待ってくれ!

 鉄の船は作れる!

 俺の前いた世界では実際にあったというか、それが主流だったし……!


「あの……、我が君に対してこんな物言いはしたくないのですが……!」


 オークボまで!?

 我が農場一の忠臣オークボまで、そんな申し訳なさそうな表情に!?


「奥方様の言うことはもっともですし……。仮にですよ? 万が一、水に浮かぶ鉄の船が造れたとしましょう? でも、やっぱり相当な重さになりますよね?」

「それをオレたちの手で漕いで行くとか……!」

「まして帆で風を受けて進むとか……!?」


 他のオークたちまですっかり懐疑的に!?


 疑われている。

 文明の乖離によって、互いの理解が阻害されている!?


「いいだろう……! そこまで言われたら引き下がるわけにはいかない……!!」


 キミたちが絶対無理だとタカを括っている金属船を、この手で造り上げて見せようじゃないか!


 キミらが慕う農場主のこの俺が、どれだけ偉大な存在なのか改めて確認させてやろう!


 その時に俺を見直すがいい!!


「あの……! 納豆のタレは……?」


 そんな俺たちの様子を、ホルコスフォンがハラハラしながら見守っていた。


    *    *    *


「止めてくれるなホルコスフォン! 事態はもはや意地とプライドを懸けた戦いへと発展してしまったのだ!!」

「私は納豆のタレさえできれば、他はどうでもいいのですが……!?」

「農場主として尊敬の念を再び取り戻すためにも、俺は金属船を造り出す!」

「皆今でも充分にマスターを尊敬していると思うのですが……!?」


 でももっと尊敬されたい!

 欲張り屋さん!


 さて、金属船を作るとして、先んじてオークたちから貰った指摘はもっともなものだった。


『金属だと重過ぎて進まない』


 というものだ。


 金属の船体が浮かぶこと自体は浮力でどうとでもなるが、推進に関しては問題ありすぎ。

 人力や風力など、自然の力ではどうにもならない段階だろう。


 もっと確固たる推進機関がセットで必要なはずだ。


 そもそも造船の歴史で、金属製の船が現れたのは、先んじて機械による推進システムが確立されたから。


 蒸気機関だ。


 蒸気機関といえば、燃料は石炭。

 石炭といえば、最近お目にかかったばかりではないか。


「やっちゃう? 産業革命やっちゃう?」

「そんなこと私に聞かれましても……!?」


 独特なノリとなってしまった俺を、ホルコスフォンは完璧に持て余していた。


 まあ金属製の船を作るに、蒸気機関は必ずセットになるだろうし、造ってやるか!

 造り方がわかんないけど!!


「こんな時、どうすればいいだろう?」


 答えは決まっていた。

 モノ作りと言えばあの御人、もといあの神。


 俺は造形神ヘパイストスに泣きつくことにした。

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