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227 子宝を求めて

 俺です。


 我が農場も、二度目の冬を迎える直前になって、さらなる朗報が滑り込んできた。


 魔王ゼダンさんの第二子誕生。


 生んだのは第二魔王妃のグラシャラさん。


 第一魔王妃のアスタレスさんが、魔王子ゴティアくんを出産したのより数ヵ月遅れてのことである。


 今度は女の子。


 立て続けの世継ぎ誕生に魔国全土は沸き返る。

 我が農場にも生まれたばかりの魔王女を見せに来てくれて、全員で赤ちゃんにメロメロとなる。


 新たなる命の誕生は、いかなる場合においても至善であり、皆が喜ぶべきことなのだ!


 グラシャラさんが生んだ魔王女はマリネと名付けられ、魔族の淑女として英才教育を受けて育つらしい。


 皆でマリネちゃんにメロメロとなっていると、急に俺の服の裾が引っ張られた。

 何かと思ったらプラティが引っ張っていた。


「おう? どうした?」


 しかしプラティは返事もなく、俺の裾を引っ張ったままどこぞへと進むのみ。

 俺も引きずられて移動し、移動して……。


 人気のない倉庫裏へと連れてこられた。


 当然のように周囲には誰もいない。皆、赤ちゃんに注目しているので。

 こんなところで二人きりで何用だ?

 プラティ?


 彼女は、しばらくモジモジして言うか言わぬか戸惑っている様子だったが、やがて意を決したように言った。


「アタシも赤ちゃん欲しい」


 うぬ?


「アスタレスさんやグラシャラさんみたいに、アタシも赤ちゃん生みたいの! もちろん旦那様の!」


 お、おう……!


 それはもちろん、俺とプラティは既に夫婦関係だからして。

 夫婦が子宝を授かるのは自然のこと。


 されど俺たちが華燭の典を挙げてより、今や一年以上。

 普通であれば受胎告知の一回ぐらいあってもいい期間だが、しかしコウノトリはまだ来てない。


 けして、そうなるまでの段階を疎かにしているわけではない。


 俺たちだって夫婦であるからには、妊娠出産の前段階になっているあの行為を週に一~七回のペースでやるにはやっている。


 しかしコウノトリは音沙汰なし。


 一体何をやってるんだコウノトリは!?


「旦那様と農場で楽しく暮らせていけば、それだけでいいかなー、と思ってたんだけど。余所様の赤ちゃん見てたら羨ましくなっちゃって……!」

「うん、そうだね……!」

「旦那様は欲しくない? アタシの生んだアナタの赤ちゃん?」


 そんな上目遣いに聞いてきたら、たとえ嫌でも嫌とは言えないだろうが!!


「欲しいよ! もちろん欲しいよ!!」


 そして心底では当然望んでいるので、口に出して肯定。


「よし! じゃあ今日から子作り強化月間にしましょう! 毎朝毎晩励むわよ!!」

「月間!? 毎朝!?」


 せめて週間で毎晩のみになりませんか?


 しかしプラティの瞳は、『赤ちゃん欲しい』意欲にギラつきを放って止められそうにない。


 俺はそれから数日、ヨロヨロになりながら畑仕事することになりましたとさ。


    *    *    *


「我が君、最近やつれてはいませんか?」

「そうかい?」

「少しお休みになっては?」

「休んでるよ? 一日の布団の中にいる割合が増えてるし……」


 ふふふふふ……。

 今日もできるだけスタミナのつくもの食べて早めに寝ないとね。

 布団に入る瞬間=就寝時間スタートじゃないんだから……!


『聖者様、おられますか?』


 と黄昏ていたらノーライフキングの先生が訪ねてきてくださった。


『うおッ? どうなさったのです? ワシより乾涸びておるではないですか?』


 うふふふ、先生ったらジョークがお上手になられて。

 先生より乾涸びてしまったら俺、即身仏じゃないですか?


「して今日はどんな御用で?」

『いや、厳密にワシの用件で来たわけではないのですが……。まず奥方を呼んでいただけますかな?』


 プラティですか?

 先生がプラティ名指しというのも珍しい。


 呼ばれて出てきたプラティは、俺と反比例するように肌が艶々になっていた。

 心なしか気分も弾んでいるよう。


「ごきげんよう先生。アタシにご用って何です?」

『いや、ワシが用というわけではないのだが……』


 また先生同じこと言ってるな。

 なんだろ?


『おぬしたちに用があるのは、この御方なのじゃ。……おーうぇい』


 先生がテキトーに呪文を唱えると、時空が歪んで扉が開き、異界より偉大なるものが召喚される。

 先生!

 また神召喚いたしましたか!?


 そして現れる女神。

 夕日に煌めく海面を思わせる濃色の金髪。豊満で瑞々しく、水の豊潤さを宿した美女。


「あ、この神見覚えがある」


 海神ポセイドスの妻神アンフィトルテ。

 神々の宴で会った。


『やほー、久しぶりね我が眷族たち♡♡』

「アンフィトルテ神!? アナタが何故!?」


 人魚族であるプラティにとって、海神の妻アンフィトルテはまさに崇拝対象ど真ん中。


『アナタたちのしていることが気になってね、不死の王にお願いして召喚してもらうことにしたのよ』


 便利使いされてるなあ先生。

 不死の王を便利使いする神。神を軽々召喚する不死の王。

 どっちも常識外れすぎて脳みそ蕩ける。


「アタシたちの……、していること……?」

『ほらプラティちゃん覚えてない? 前にご馳走してもらったお礼に、アナタに祝福を与えたじゃない?』

「あッ?」


 そんなことあったなあ。

 冥神ハデスと海神ポセイドスとのいざこざがいつの間にやら神々のどんちゃん騒ぎに発展して。

 何故かその会場に抜擢された我が農場は危うく食料の備蓄が尽きかけるところだった。


 そして神々はそのお礼にと、我が農場の住人たちに誰彼かまわず加護や祝福を与えて行ったのだ。


 その中でプラティも祝福を貰っていた。


 今目の前にいる海の女神アンフィトルテから。


『アタシの与えた「海母神の祝福」を通じて伝わってくるのよ。アナタたちが毎朝毎晩励んでいるのが♡♡』

「~~~~~~~~~ッッ!?!?!?」


 海の女神から指摘されてプラティ耳まで真っ赤になる。

 たしかに、夫婦として当たり前の営みなれど、開けっ広げに言われては精神的ノーダメージではいられない。


 先生も必死で聞こえないふりしていてくださっている。


「な、なんですか!? そんなこと言うためにワザワザ地上に来たんですか!? ゴシップ好きすぎません!?」

『もちろんアタシが告げたいのは、もっと別のことよ。無駄なことはすべきじゃないって』

「無駄なこと?」

『普通の方法でどれだけ頑張っても、アナタは、聖者の赤ちゃんを孕むことはできないわ』


 その一言で、周囲の空気が一挙に変わった。

 薄氷がひび割れるピキリとした幻聴がした。


『アナタの愛する人は異世界からの来訪者。それだけ言えば賢いアナタにはわかるでしょう?』

「…………ッ!?」

『外見はよく似ていても、彼はこの世界とは違う生き物。違う世界の存在同士交わって生命を生み殖やすことは不可能』


 そう聞いた途端、プラティの瞳から輝きが失われた。

 まるで深海の底のように真っ暗な瞳と化した。


 見ているだけで胸がズキズキ痛みそうな。


『可哀相なプラティ。愛する人との子を成しえないことはそんなにもアナタの心を引き裂くのね。……でも安心して』

「!?」

『アナタに告げに来たのはそれだけじゃないわ!』


 声のトーン軽いなあ海の女神。


『忘れたの? アナタに与えられた祝福は「海母神の祝福」! 海の母の祝福よ! 万象母神ガイアから万能を分け与えられた三界母神の一神であるアタシの祝福を受けた者が、愛する人との子すら生めないなんてありえないでしょう!!』

「で、では……」

『今はまだ、アナタはアタシからの祝福を万全に使いこなせていないだけよ! でも訓練を経て使いこなせるようになれば! ナマコの子だって生めるようになるわ!!』


 そこまで節操ないのもどうかと……。


「海母神様!!」


 プラティの目の色が変わった。

 真珠の輝きを放つ瞳になった。


「どうかアタシを鍛えてください! アナタからの祝福を140%使いこなせるように! そうすれば旦那様の子を授かれるんでしょう!?」

『もちろん、そのためにアタシは降臨したんだから! アタシがアナタを鍛えましょう。海神百億年(誇張)の歴史が伝える一子相伝の繁栄術! その名も……!』

「その名も……!?」

『ラマーズ法!!』


 テキトー言ってるだろう、お前。


 いや、ホント頼みますよ神。

 俺たちのベイビーを授かるためにアナタだけが頼りだとするならば!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
― 新着の感想 ―
[良い点] 不妊解消を原因でない片方が受ける不条理にファンタジーを感じました。しかもそれが生命の母たる海の民、太古の昔から薬学をつなぐ人魚の魔女で、ナマコの子でさえ育めるようなフラスコベビー! うっか…
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