222 冬支度
そろそろ冬がやってくる。
この世界にやってきて二度目の冬だ。
一年目の冬にはまったく準備ができてないままやってきてエライ目に遭ったが、その教訓を生かして今年は準備万端!
エルフたちには去年の冬明けから木炭をせっせと作って蓄積してもらっているし、バティには毛皮の厚着を縫ってもらっている。
ポチたちも夏毛から冬毛に換毛中。
そして俺だって何もしないわけにはいかないぜ!
俺もこの農場の主として、俺独自の冬の備えを拵えることにした。
ストーブだ!!
代表的暖房器具!
しかしこの世界に石油はないので、代わりの燃料をあてこまなければならない。
そこで思い当たったのが……。
薪!
薪を燃やし、その熱で部屋を暖める!
薪ストーブの力で今年は暖かい冬を過ごすのだ!
* * *
で。
薪ストーブを作ります。
素材はもちろん金属です。
内部で常に火を燃やし続けなければいけないし、その熱をしっかり外に伝えなければストーブとしての機能を果たせない。
やっぱり用意する金属はマナメタル。
このマナメタル。不思議なことに加工したい時には大したこともない温度で軟化するのに、一度完成して固まれと念じたら鋼鉄を遥かに超える融点となってけっして燃えも溶けもしない。
熱伝導率も理想的でストーブの素材としてはもってこいだ。
本当に便利で何にでも使えるマナメタル!!
「いや、どうかなー?」
「ん? どうしたバッカスじゃないか?」
「この光景を見たらドワーフが号泣するんじゃないかなー、と。しかし本当に、ここには貴重なマナメタルばっかっす!」
意味深な言葉を言い残してバッカスは通り過ぎていった。
「あ、ウチの酒蔵でも寒さを吹き飛ばすように度数の高い蒸留酒をバンバン制作中だぞ!」
「おう頼んます」
焼酎だけじゃなくウイスキーやブランデーもそのうち飲めそうだな。
それは置いておいて。
今はストーブ作りに集中しよう。
まず考えるべきは、煙突作りだ。
薪を燃やして出る煙を外へ出す通り道。煙突は絶対必要。
しかもただ煙突を作ればいいわけじゃない。
薪を燃やして出た煙もしっかり熱を帯びていて……。というか火で熱せられた空気も煙突を通っていくので、煙突自体もそれ相応の熱を帯びる。
熱くなった煙突を各部屋に通しておけばその熱で全部屋が暖められる仕組みになる。
もっとも全部屋を通過するぐらい長い煙突を作ると、それ全体を暖めるためにストーブ本体の熱量を上げなきゃいけないとか。
当然ストーブ本体に近い方が熱くなって暖房が均一にならないとか問題もあるけど、それはおいおい研究していこう。
「薪ストーブの内部をよく燃やすためには、空気の取入れが重要だから中に空気が入りやすい構造にしないと……!」
途中からエルフたちも混ざってストーブ作りが賑やかになる。
「薪が減ったらすぐ足せるように、隣に積んでおくのもいいな……!」
「薪置き用の籠も作ろうぜ!」
「ストーブの上でお湯を沸かしたり料理できるようにしたら楽しくない!?」
「触ったら滅茶苦茶熱いもんなー。子どもたちが間違って触れないように柵で囲っとこう」
次々いいアイデアが提案されてくる。
「中の火をじっくり見られる方がよくない?」
「ポーエル。ストーブ用のガラスの蓋作れる?」
「お任せください! マグマにも溶けない超耐熱ガラスを拵えてみせます!!」
やる気のガラス細工班班長ポーエル。
色々と試行錯誤を重ねて、実際作製に取り掛かってみる。
「でも毎回思うんですが、鋼鉄より遥かに硬いマナメタルを簡単に加工する聖者様凄すぎくないですか?」
「俺が凄いんじゃないよ。凄いのはこの聖剣」
ドラゴンの牙すら通さない金剛絹。
その金剛絹を簡単に貫いて縫い合わせてしまうのは、マナメタル製の針を使うからだ。
そのマナメタルを簡単に斬り裂いて加工してしまう、邪聖剣ドライシュバルツ。
「なるほどー!」
「マナメタルを斬り裂けるなんてさすが聖剣!」
「冥神が与えし究極の剣!」
「その凄さを、まさに目の当たりにして実感しております!!」
この農場生活、聖剣に何度助けられてきたことか!
初期に聖剣と出会えたことがどれほどの幸運だったか!
「ありがとう聖剣!!」
* * *
と、ゴチャゴチャやってるうちに、ついに完成!
総マナメタル製薪ストーブ!!
煙突を屋敷内のいくつかの部屋に行き渡らせたことで、ストーブ本体のある部屋だけでなく、それ以外の各部屋も暖房効果が付く。
ストーブ上部は平面にしたので鍋やフライパンを置くこともできる。
湯を沸かしたり調理することも可能だ。
餅を焼くことだってできる。
「これで我が農場、冬への備えは完璧だ! いつでも来い冬将軍!!」
「待ってくれ! 聖者様!!」
そこへ逼迫した声をかけてくるエルフのエルロン。
どうした? そんな差し迫った感じで。
「このストーブには、決定的なものが欠けている!」
「な、なんだと!?」
どういうことだ!?
俺が精魂込めて作り上げ、完璧に仕上げたはずのストーブに欠けているものがある!?
「それは、薪だ!」
「そうかー!?」
これは薪ストーブ!
薪を燃やして暖めるストーブ!
どんな機械も燃料なくして動きはしないように。
薪のない薪ストーブなんて魔力のない魔法使いみたいなものじゃないか。
「で……、では今からでも森に入って薪集めに……!」
しかし今から集めて冬到来に間に合うか?
薪っていうのは、割ってからある程度乾燥させる期間が必要なんだろう?
「聖者様のうっかり者め……! 大丈夫、大丈夫だ!!」
「何だと!?」
「何故なら既に薪は、私たちエルフで集めているからだーッ!!」
なにいいーッ!!
屋敷の裏に、見上げるほどうず高く積まれた大量の薪が!?
これが全部エルフたちで集めたものだというのかーッ!
「楢、樫、欅! 様々な種類の木を用意したぞ! 焚き火はな、色んな木材で色んな種類の炎を楽しむのも醍醐味の一つなのだ!!」
「おお……!?」
さすが森の民エルフ……!
言うことが奥深い……!?
「これだけあれば一冬充分に越せるだろう! 聖者様! 存分に使ってくれ!」
「エルロン、お前ってヤツは……!」
本当に出来たエルフだぜ!
感動と連帯感によって、俺とエルロンはガッシリ固く抱き合った。
「頭目って陶器の窯焼きのために常に薪確保してあるでしょう? 積んでる薪だってその……!」
「シッ、黙って!」
ストーブ作りを通じて、俺とエルフたちの絆が深まっていくのを実感するのだった。
* * *
「はー、ただいまー」
俺とエルフたちの絆値が急上昇していく傍ら。
プラティが帰ってきた。
「どこから?」
しかもプラティのあとからオークボ、ゴブ吉たちもガヤガヤと。
急に騒がしくなった。
皆で出掛けてたの?
どこ行ってたの?
「旦那様こそどうしたのよエルロンと抱き合って? 今度はエルロンを側室にするの?」
しないよ!
っていうかエルロン以外にも側室がいるような言い方やめて!
「プラティこそオークボたち引き連れてどこ行ってたの?」
思えば、ストーブ作りという建築仕事にオークたちが絡んでこないわけがない。
それなのに存在感がなかったのは、出かけて留守にしていたからか。
「そりゃ決まってるじゃない。冬支度よ」
「えー?」
「去年は不意打ちでエライ目に遭ったから、今年こそ準備万端しとかないとね」
さすが我が妻、考えることは同じだったか。
ならばこれを見てさぞや驚くことだろう!
見るがいい完成した薪ストーブを!!
「だからたくさん掘って集めてきたわ」
「ん?」
「石炭」
石炭!?
オークボたちが荷車に乗せて運んできているのは、真っ黒い石。
それこそがまさか石炭!?
よく燃えて、汽車や汽船の動力となる石炭!?
「そ……、そんなもの何処から……!?」
「先生が洞窟ダンジョンを改造して、石炭を採掘できるようにしてくれたのよ! それで今日オークボちゃんたち皆でお邪魔して、掘りまくってきたの!」
石炭を乗せた荷車は、次から次へと到着して一冬越せそうな量は優にありそうだった。
それを見るほどに俺とエルロンの表情が煤けていく。
……。
……やっぱり、薪や木炭よりも石炭の方が熱効率いいよね?
そうじゃなきゃ産業革命成立しないし。
「ちゃんとオークボちゃんたちが石炭ストーブも作ってくれたのよ! これでもう冬凍えることはないわね!!」
今年の冬は暖かに過ごすことができそうだった。
俺とエルフたちを寂寞とした秋風が容赦なく吹き抜けていった。
* * *
余談。
薪ストーブに使われたマナメタルは頑丈で、薪より遥かな高熱を発する石炭でも問題なく使えて助かった。
薪はどうしようもなく無駄になると思ったが、従来通りエルロンたちの焼き物窯で豪勢に燃やし尽されている。






