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217 濁りの美味

 気づいたら酒蔵が増えてた。


 元々はたった一棟だったはず。

 なのにいつの間にやら三棟に増えていやがった。


 どういうことだ!?


 幻覚か!?


「我が君、報告を受けておりませんで?」


 通りかかったオークボが教えてくれた。


「バッカス殿の依頼で増築したのです。一棟だけでは足りないと言って……」

「で、キミらで建てたと……?」

「またここしばらく普請作業がなかったので……。皆も久々に奮起しました……!」


 オークたちがいつの間にか建築ジャンキーと化していた。


 そんなオークたちの建築欲に付けこんで自分の望みを通そうなんて……!?


「どういうつもりじゃおらー!?」


 俺は迷わず三つあるうちの酒蔵の一つに殴り込んだ。

 そこにバッカスはいなかった。


「バッカス様なら、今はワイン蔵の方におられますよ?」

「あ、ハイ、すみません……!」


 バッカスを信奉する巫女さんに教えられて隣の蔵へ。


「おらー! バッカスいるかー!?」

「つい今しがたニホンシュ蔵へ移られましたが」

「失礼しました!」


 またバッカスの巫女さんに平謝り。


「ここかー!? 今度こそここだなー!?」

「バッカス様ならビール蔵に用事があるのを思い出したと言って戻られました」

「ちっくしょう!?」


 バッカスあちこち行き来しすぎだろ!?

 結局、方針変更して一つの蔵で待ち伏せていたら、バッカスすぐさま現れた。


「おや聖者? こんなところでどうした?」

「お前を待ってたんだよ!」


 俺に無断で酒蔵増築したことを問い詰めたら、バッカスは悪びれもせずに……。


「よい酒を一定量以上作るにはどうしても必要だったのだ。美味い酒を飲むためなら、やらなければいけないことばっかっす!」


 この半神に『美味い酒』以上に優先される事柄はなかった。


 ……まあ、仕方ない。


「次からはちゃんと俺にも話を通すように」

「ははー」


 それでこの話は手打ちに。


「それよりも、早速試作品が出来上がったのだ! 農場の主であるお前にも是非試飲してもらいたい!!」


 そして話の切り替えが凄まじい。


「試作品って……!?」


 お前まだ農場に来て二、三ヶ月しか経っていないというのに……?

 普通お酒なんて何年スパンで作り上げる飲み物で、試作品すらまだ出来上がるわけがないだろう?


 いやでも、異世界なら製造期間短縮の手段もあるってことか。

 俺たちの方にも多分に覚えがあるからな。


「で、何ができたんだい?」

「ワイン! ニホンシュ! ビール!! 飲んでほしいものばっかっす!!」


 畳みかけてくるな。


              *    *    *


 せっかくなので俺一人だけでなく、皆で試飲してみることにした。


 まずはワイン。


 ダンジョン果樹園でワインに使う用のブドウも育てていたのだが、それがついに役立った。


 ビールとはまったく逆の豊潤たる甘味とフルーティさが売りだ。


 半神バッカスは元来酒神として酒を広めるために放浪していたが、その酒というのがワインを代表した果実酒らしい。


 なのでこのワインの製造は慣れたもので、俺との相談もなくパパッと作り上げてしまった。


「あら、これは美味しいお酒ねえ」

「甘くて飲みやすいわ。私はビールよりもこちらの方が好みだわ」

「原料のせいでしょうか? 故郷で飲んだ葡萄酒より美味しい気がするんですけど……?」

「そりゃあ、聖者様の育てた葡萄製ですものー!!」


 やはりというべきか、ワインは女性たちに人気だった。


 プラティやエルフたち、サテュロスなどからワインは大好評。


 ポーエル班に緊急増産してもらったワイングラスで赤ワインを喉へと流し込む。そんな女性たちの姿には独特の色気があった。


              *    *    *


 そして次なるお酒の試飲へと移る。


「ニホンシュ!!」


 バッカスが何やら興奮気味。


 この日本酒は、俺の提案の下にバッカスが再現を試みてくれたお酒だ。


 日本酒の原料は米。


 我が農場で初めてガラ・ルファに酒造りを指示した時、米はまだできていなかった。

 本職バッカスが住みついたことで挑戦してもらったが、見事完成に漕ぎつけたか。


「今回最大の力作だ! 聖者から発想を貰って、今までまったく試したことのないやり方で酒造りしたんだからな!」


 酒の神としてはテンション上がるのも致し方ないか。


 バッカスの作った日本酒試作品は、真っ白に濁った濁酒だった。


 日本酒を作るとなれば、最初に出会うのがこれだろう。


 米を粥状になるまで煮込み、そこからアルコール発酵させて出来るのが濁酒。

 発酵した米が酒に残っているから白く濁っている。


 その濁り分を濾しとるなどして分離し、透明な酒部分だけに純化したのが、俺のよく知る清酒だ。


 という聞きかじりの知識。


 俺自身濁酒とはあまり縁がなく飲むのは初めてだったが、美味かった。


 先入観的に甘酒と同じものかと思ったが、違った。

 ちゃんとお酒している。


 口に入れると、白い濁りの実体的な食感と共に、日本酒特有のまろやかな酒の味が広がってきた。


「これは見事に日本酒だなあ」

「よっしゃッッ!!」


 俺から合格点をもらってバッカス喝采。

 酒の神は酒造りに心魂を懸けております。


「ここからさらに濁り分を分離して清酒にしてもいいな」


 濁酒より清酒の方が美味いと言うつもりはないが、分離した濁り部分は酒粕にして色んな料理に活用できる。


「あと蒸留して焼酎を作ることもできるしな。夢が広がるなあ……!!」

「ほうほう!?」


 日本酒を蒸留すると焼酎ができる。超乱暴に言うと。

 蒸留というのはアレだ。

 水を熱して沸騰させて蒸気にし、水分と不純物を分けるという理科で習ったアレだ。


 酒に対しても同じ操作で、水分とアルコールを分離してよりアルコール度数を高めたのが蒸留酒。


「こんなに色々飲めると蒸留酒も飲みたくなってくるなあ。まあ専用の蒸留器がないと無理なんだけど……」

「………………」


 のちの課題として置いておこう。


 それよりも、ワインが女性陣に好評だったように、濁酒が好評だった層もいる。


 その層はオークとゴブリンたち。


「これは美味いな」

「人生の苦みを和らげる甘味がする」

「しみじみ飲んで、思い出が浸透してきそうだ」

「それ、もう一杯」

「貰いましょう」


 …………!?


 オークとゴブリンたちの漢度が上がってる。

 日本酒で漢度が上がっている……!


    *    *    *


 そして最後にビール。


 ビールは元から農場で作られていたが、ガラ・ルファ開発→オークとゴブリンたちで製造→正式にバッカスたちの手に移った。


 そうして彼らの手で作られた初めてのビールだが。


「「「ハーッハッハッハ!!」」」


 ビールの注がれたジョッキをぶつけ合う。


「「「美味しいッ!!」」」


 やっぱりビールも美味しいね!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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― 新着の感想 ―
お酒の種類が増えて何より。 気になるのは、酒の神なのにワインくらいしか広めてないし、知らなそうだったこと。 糖度がそこそこある果物なら、大抵酒に出来る。 一番わかりやすい中世風異世界で蜂蜜酒のミードが…
「今月は新酒で酒が飲めるぞ♪」
[良い点] 酔い酒、酔いですよね。 [気になる点] 清酒作りだけど、今の澄酒にするなら、米を蒸して「蒸米+麹(酵母)」「蒸米」「清水」を使った作り方にしなかったのですね。米のでんぷんを糖に変質させて…
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