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213 ひょうげの食卓

【お話の前に】

本作の書籍版が、本日発売となりました! これも皆様のご愛読のお陰です、ありがとうございます!

 オイラはベベギットという。

 魔族の陶工職人だ。


 今日も魔都郊外に開いた窯で、皿を焼くことを欠かさねえ。

 練って焼いて、練って焼いて、練って焼いて、練って焼いて。


 陶工生活四十年。


 これからもガンガン皿を焼いて焼きまくるぜ!!


「いえ、本日は会食の予定が入っていますんで。現場仕事は我々に任せて出かけてください」


 なんでい弟子?

 そう言われても、オイラぁ日に一回は窯の熱を浴びなきゃ調子悪くなっちまうぜ!


「そうは言っても会食のお相手は大魔王様ですよ。失礼かましてウチの窯場潰されるの嫌ですから、遅刻しないよう早めに出てください」


 大魔王バアルか。

 あの隠居ジジイ、今さらオイラを呼び出して何の用だ?

 現役魔王の頃からオイラの作る皿にケチつけまくってよ。煙たいったらありゃしねえ。


 まあいいや。

 今やアイツも引退した身。

 分不相応な無茶振りしてくるようなら啖呵切って叩きのめしてやるぜ!

 そして現魔王のゼダン様に泣きつく!


 よし行ってくらあ!

 職人の心意気を見せつけてやるぜ!!


     *    *    *


 久々に大魔王様の隠居屋敷にやって来たが、相変わらず奇抜なもので溢れかえってやがるなあ……?


 何だこの木像の群れは?

 なんで一部屋にこんなにたくさん並べてやがる?


「早速この像群に目を引かれておるとは、さすがにお目が高い」


 そう言って現れたのは、この隠居屋敷の主、大魔王バアルのジジイじゃねえか。

 魔王の職責はすべて息子のゼダン様に譲り、今や呑気な隠居生活。

 気楽なものだぜ?


「かねてからお前には、陶工を名乗るに相応しい美的感覚が備わっているのか不安に思うことがあったが。この神像に感じ入るようであれば、一応は合格といえるであろう」

「ケッ、相変わらず偉そうに御託並べやがって……!」


 このジジイは、昔から妙なところで口煩いんだ。

 オイラの作る皿にいちいちケチつけやがってよ。

 しかしさすがに魔国の長には逆らえねえし、引退してやっと静かになるかと思いきや大魔王になってまで嘴つっこんできやがるのか!?


「この神像は、ある筋から買い取っての。いずれの像も、本物の神を写したような出来であろう? これからの魔国は、こういったものに大金を出さねばならん」

「そんなこと自慢するために呼び寄せたのかよ? さすがは暇人大魔王よなあ!」


 まあ、たしかにこの像の出来は凄くいいが……!

 この大魔王の野郎を喜ばすのも業腹だから、手放しに褒めるわけにいかねえ。


「ベベギットよ。このワシが目を掛けている職人のくせにちっとも成長がないのう。お前が、お前の作品の中に『美』を盛り込むことができれば世界はもっと華やかなものになるだろうに」

「ヘソで茶が沸くようなこと言っちゃいけねえよ。ウチが作ってんのは皿や杯。日常使いの道具だぜ。そんなものが浮ついてちゃあ、毎日が喧しくって仕方ねえよ」

「その喧しさが必要だと言っているのだ。お前は何年経っても学ぼうとせぬ」


 こうやって顔を合わせるたびに煩く言いやがるから、このじいさん嫌いなんだよ。


 これでもオイラの作る皿は、多くの人々から評価を得ているのに、このジジイだけがわけのわからない指摘でオイラの作品をこき下ろしやがる。


 美しい?

 喧しい?


 それが食器に必要だって言うのか?

 そんなことないだろう?

 食器は食い物を載せて零さない。

 その機能さえ果たしていればあとはどうでもいいんだよ!


「小言も煩わしかろう。そもそも今日の用件は、お前と食事することじゃった。遠慮せずたくさん食っていくがいい」

「ただ飯なら遠慮なくいただいていくがよ……?」


 しかしなんでこのタイミングで会食なんだ?


 飯食うだけで終わりということはまさかあるまい。

 しかしこの時期、大魔王から直々に賜るお話なんてまるで心当たりがない。


 一体、大魔王ジジイは何が目的でオイラをここまで呼び寄せたんだ?


    *    *    *


 会食が始まってすぐさま、大魔王の目的が判明した。


 食卓に出てきた料理を見て……、いや、その料理を載せた皿を見て、オイラは度肝を抜かれたのだ!


「なな、なんだこの皿はぁーーーーッ!?」


 ウチの窯で作っている皿とはまったく違う!


 なんだこの色、この形!?

 これが食器と言えるのか!?


「早速気づいたか? そうでなくては陶工職人を名乗るのはおこがましいの?」


 思惑通りと言いたいのか?

 大魔王のジジイはニヤニヤ笑っている。


「まず基本として、お前のところで作っている皿は、全部真っ白で円形。皆同じ形同じ色。まったく面白みがないのう」

「それが一番効率的なんだから、そうなるに決まっているだろう! 他に何がいるって言うんだよ!?」

「この食器にあるような遊び心よ」


 くッ。

 大魔王が出しやがった皿は、色だけでも緑や青、黒に土気色と様々に色とりどりで、しかも細かな模様まで入ってやがる!


 しかも形自体も丸型だけでなく、あえて四角にかたどってあったり、楕円だったり、何とも言えず歪んでいたり……!


 しかし何故だ……!?

 この歪な形態。まったく非効率でふざけた様相が……。


 何とも洒落たものに見えやがる……!?


「これがワシの求めていた食器だ」

「大魔王!?」

「ただ食物を摂取する。それだけのためなら飾りなど必要あるまい。もっとも効率的な形を遵守すればいい。しかしこれらの皿は、その効率の枠からあえて踏み出した!」


 賑やかな色。

 目を引く形。


 こんなガヤガヤした食器に、さらに鮮やかな食材の色も重なって。

 食卓が、華やかになる。


「これからの魔族は、ただ食べて、ただ生きるだけではいかんのだ。人族との戦争が終わったからこそ、魔族はこれから心も豊かになっていかねばならん」

「そのための……、こんな奇抜な食器たちだと?」

「ワシは、この考えを示すために、この食器をレヴィアーサから買った。広く知らしめるために大金を払ってな」

「大金……!? 一体いくら!?」


 具体的な値段を聞いて驚いた。


 ウチで売り出している皿の、数百倍の値段じゃねーか!?

 このビビッドな感じの皿一枚に、屋敷一軒建つような金が!?


「どうだ魔族一の陶工よ? その称号にかけて、これに劣らぬ皿を作ってはみぬか?」

「!?」


 そうか……!

 それが目的で、今日オイラを呼びやがったんだな……!?


 この名品を見せて、オイラの職人魂に火をつけようと……!


 いいだろう。


 これより一段といい作品をこの手で生み出してやらあ!!

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書籍版19巻、8/25発売予定!

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↑コミカライズ版こちらから読めます!
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