210 仕事のできる女
我が農場に、一時的に滞在することとなった新四天王のエーシュマとレヴィアーサ。
エーシュマのことは散々語ってきたので一時置くことにして。
もう一方レヴィアーサのことについて語っていこう。
彼女の有能ぶりを物語るエピソードが早速一つ発生した。
* * *
その日。
農場に遊びに来たグラシャラさんがエルフたちから詰め寄られていた。
『一体どういう組み合わせだ?』と最初よくわからなかったが、押し問答を聞いているうちにだんだんと話が見えてきた。
「魔王妃様!」
「いつになったら私たちの作品を売り出してくれるんだ!?」
とエルフたちは第二魔王妃であるグラシャラさんに抗議の嵐だった。
その先頭に立っているのは陶器班の班長エルロン。そして木工班の班長ミエラル。
工芸品作りを仕事とするエルフたちは、そのように細かく班分けしている。
この二人が恐れ多くも魔王妃に食って掛かる理由とは?
もうだいぶ前の話になるが、エルフたちが「自分たちの作品を外の世界に売り出したい!」と言い出した。
同じ頃、バティの作った服が魔都でバカ売れしたので、触発されたのだろう。
実際にマエルガ班の作った革製品やポーエル班のガラス細工はアスタレスさんから商人シャクスさんを経由して売り出され、今や順調な売り上げを記録しているという。
なのに。
同じエルフチームでありながらエルロン班の陶器やミエラル班の木工品はまったく売り出されていないのだ。
何故か?
アスタレスさんと同じ魔王妃であるグラシャラさんが横やりを入れてきたのだ。
『アスタレスばかり仲介をやってズルい! アタシもやる!』と。
農場の良品をアスタレスさんの名の下に流通させることで、魔族全体からのアスタレスさんの評価もセットで上がる。
同じ魔王妃として、差をつけられることを危惧したグラシャラさんが口を挟んだ。
色々話し合いした結果、エルフたちが作り出す四種類の商品のうち仲良く二種類ずつ、半分に分けて市場に開放していくことが決められた。
アスタレスさんの担当になったのがマエルガ班の革製品と、ポーエル班のガラス製品。
グラシャラさんの担当になったのがエルロン班の陶器と、ミエラル班の木工製品。
ここまで話せば話の大枠は見えてきたことだろう。
エルフたちにとっての明暗が、ここでしっかり分れた。
「マエルガやポーエルのところの作品はしっかり売り出されてるのに! なんで私たちの作品はまだまだ売り出されないんですか!?」
「グラシャラさんのとこで止められてるんだろ!? 何で売り出さないの!? 売り出して! 早く!!」
つまりそういうことだ。
ミエラルもエルロンも、魔王妃相手だというのに実に遠慮がない。さすがは元、反権力の義賊。
「……まあ、落ち着いて聞いてくれ」
第二魔王妃となったグラシャラさんも、四天王だった頃に比べて落ち着きも出てきたらしい。
それ相応の威厳をもって口を開く。
「たしかに、お前たちが怒る気もちもわかる。同僚の作品はアスタレスを通してバカ売れしてるのに、お前たちがアタシに託した作品は一向に出回らない。その原因はアタシにある」
「そこまでハッキリ言われると……! グラシャラさん一人だけの責任とは……!」
「実際アタシが何もしてないから何も進んでいないんだがな」
「お前のせいだああああああッッ!!」
盛り上がってるなあ、賑やかだなあ。
「もう少し聞いてくれ。何故進んでいないのか? 理由を話せばお前たちもわかってくれるはずだ!」
「よっしゃあ! 聞いたろうじゃねえか!!」
エルフたちがもはやヤケ気味。
「この作品仲介。アタシとアスタレスとの勝負という側面があることも事実。魔王妃としての格を競う勝負だ」
「ま、まあ……」
「より多く売った方が、いい魔王妃だ! そんな評価を世間も下すだろう。アタシはアスタレスに絶対負けるわけにはいかない! 四天王時代からの因縁の相手だ!」
アスタレスさんにグラシャラさんが勝つためには、アスタレスさんと同じ方法は取れない。
つまり魔王家の御用商人であるシャクスさんを仲介に置くこと。
後追いをしたら、既に実績のあるアスタレスさんの方が印象に残るのは当然だ。
グラシャラさんが逆転勝利を収めるには別のルートを使ってアスタレスさん側以上の大ムーブメントを起こすしかない。
「……で、色々と新ルートを模索してみたが、見つからなかった」
「もういい! 私たちもアスタレスさんの方から売り出してもらう! アンタに預けた作品全部返せえええええ!!」
「バカ言うな! そんなことしたらアタシの惨敗になっちまうじゃねえか! アタシの意地にかけて、アスタレスに負けられるかあああああ!!」
ついに取っ組み合いのケンカになった。
グラシャラさんも意地張らないで普通に売りだせばいいのに。
そんな風に、俺も傍から見ていて溜め息を吐いていると。
「相変わらずダメダメダメっ子ですねグラシャラ様は」
そこに現れたのは新四天王のレヴィアーサ。
四天王へ就任する前はグラシャラさんの副官だった。
「グラシャラ様、もしよろしければエルフたちの工芸品販売ルート、私が探しましょうか?」
「お前がやってくれるのか!?」
「実際現物を見てからでないと確たることは言えませんが。まあよほどのことがない限り大丈夫でしょう。エルフの工芸品は高級品ですから」
「よし! そういうことなら全部お前に任そうレヴィアーサ!」
躊躇なく部下にすべてを丸投げにするグラシャラさん。
「もうグラシャラさんじゃなければ誰でもいいわ!」
「お願いします! 私たちの作品をよろしくお願いします!!」
エルフたちも即座に賛同して、話は一気にレヴィアーサ預かりになった。
* * *
「グラシャラ様は、ほぼ実戦での戦功だけで四天王まで登り詰めた人ですから」
レヴィアーサが冷静な口調で言う。
「元々怨聖剣の継承家系でも分家筋で位も低いんです。それでも歩兵から戦い抜いて、勇者を何人も倒して出世し、ついに四天王にまで抜擢されたというのは恐ろしい経歴です」
冷静な口調に、どこか自慢げな熱がこもっていた。
何やかやと言いつつ、上司のグラシャラを敬愛しているのだろう。
「その分、戦場の外での実務処理は苦手な方で。そこをサポートするのが副官としての私の職務でした」
つまりこういう交渉事は大得意であると。
エルロンやミエラルもいい加減進展がないと可哀相だし、早急に進めてあげてくださいませんかね。
「モノは……、食器と木像?」
エルロン班とミエラル班。
それぞれの作品が放り込んである倉庫へ。
「グラシャラさんに渡したサンプルも、大体こんな感じのものと思っていいよ」
「私には、こういうものの良し悪しがわかりませんが、そんな私ですら圧倒される雰囲気がありますね……!」
とレヴィアーサは、ミエラル作の木像を眺めて言う。
「これは、冥神ハデス様の像でしょう?」
「うん、そう」
「やっぱり、何故か説明されずともわかりました!」
…………まあ。
そりゃそうだろうなあ、と言えなくもない。
だってその木像。
いつぞや召喚された本物の冥神ハデスをモデルにして彫られたものなんだから!
そりゃ本物の生き写しみたくなるでしょうよ!
「この像から発せられる玄妙な空気。本物の冥神ハデス様が降臨されれば、きっとこのような姿になると思わせるでしょうね」
「そうだね。……ハハ」
苦笑するしかなかった。
「わかりました。こういうのを高く買ってくれそうなアテを知っています。明日にでも訪ねてみましょう」
「直接売りに行くの!?」
「仲介者は少ないに越したことはありませんから」
なんか滅多やたらと有能感を出すレヴィアーサさんですが。
とにかく彼女は交渉のために一度魔都へと戻っていった。
* * *
翌日。
「売れました。在庫全部。目標設定価格以上の値で」
「早すぎる!?」
レヴィアーサは本当に有能だった。






