206 新四天王の選抜
アスタレスさんがゴティアくんを生んでめでたいこと限りなしだが、息つく間もなく新たに出産を迎えんとする人がもう一人いる。
第二魔王妃であるグラシャラさんだ。
第一魔王妃アスタレスさんに遅れること三ヶ月で妊娠発覚したグラシャラさん。
出産もそれぐらいのズレとなるだろう。
だから既にお産を終えたアスタレスさんに対して、グラシャラさんのお腹は今まさにはち切れんばかり。
第二子誕生は目の前で、魔国はますます安泰のことだろう。
安泰のことだろうとは思ったが、そんなアスタレスさんとグラシャラさんから揃って相談を受けた。
* * *
「魔国はもうダメかもしれません……!」
「なんでッ!?」
首尾よく跡取りも生まれて順風満帆じゃなかったのか!?
何が起こった!?
平和な世界に差し込む不穏の影!?
「新しい敵でも出てきたの!? 新展開か!?」
「いえ、そういうことではなく……! 何と言いますか……! 有能だと思っていた部下が、思った以上に無能だったというか……!」
「……?」
断片的な情報から、俺は視線を横にズラした。
そこにはアスタレスさんの元部下、バティとベレナがいた。
「私たちじゃないですよ!」
「もっとアスタレス様のお話を聞いてあげてください! そして解決してあげてください!!」
と言いおる。
まあ、既に魔王さんご一家とは深い付き合いだし、俺にできることであれば助けてあげたいところだが。
「事の発端は、新しく選出された四天王です」
「四天王?」
魔王さん直属の部下で、魔王軍の将軍クラスだとおぼろげながら聞いている。
今目の前にいるアスタレスさんやグラシャラさんも元々は魔王四天王のメンバーだったはずだ。
四天王というからには他にあと二人いるんだろうけど、会ったことないから知らん。
「元は四天王であった私やグラシャラも、魔王妃となってそろそろ一年。いい加減正式に四天王の座から退き、後任を決めようという話になったのです」
「ほほう」
それもまたもっとも。
王妃が将軍を兼任というのも何やら妙な話だからなあ。
「慣例として、四天王の後任はその副官から選出されます」
「じゃあ、すると……」
再び俺の視線が、バティベレナへと移った。
凄い勢いで否定された。
「私たちじゃないです! 私たちじゃないですよ!!」
「副官でも四天王後任に抜擢されるのは血筋の正しい貴族階級だけですよ! 平民出の私にはまったく関係ないです!!」
バティからさらに重ねて念押しされた。
「私には、バティとベレナの他にも副官がおりまして……」
「え? そうなの?」
初めて聞いた。
「エーシュマ様は、アスタレス様の留守中、アスタレス様の直属軍を指揮するのが役目の御方ですので……!」
「そんな役目だからこそ、私やベレナなんかより何倍も信頼されてないと務まりません。アスタレス様が都落ちした際も、残された軍をまとめるために涙を呑んで軍に留まった御方です!」
へぇ……。
今まで気にしてなかったけどたしかにいるよねそういう役割。
つまりその人がアスタレスさんに代わって新しい四天王になると?
「私もかねてからそのつもりでした。エーシュマは私に近い家系の生まれで、血統的にも充分資格があります」
魔王さんからもすんなり承認が出て、そのエーシュマさんとやらは新たなる四天王に就任した。
さて、ここまでは何の問題もないように見える。
実際になかった。
問題はここからということだろう。
「四天王になったエーシュマが、『聖者の農場を攻め滅ぼそう』とか言い出して……!」
「ええええ……!?」
「本当に申し訳ありません!!」
アスタレスさん、ダイビング土下座。
その間赤ん坊のゴティアくんはバティが預かっていた。
「最近、所々で聖者様の農場が噂に上るようになっており、『そこには世界のすべてに匹敵する富がある』などと噂に尾ひれまでついて……!」
「あながち間違いでないところが恐ろしいところですが……!」
そんなことないでしょう?
『世界のすべて』はさすがに誇張でしょう?
「異世界製の死ぬほどおいしい野菜。マナメタル製の金物一式。金剛絹の衣服。先生とヴィール様のダンジョンから獲れた最高級のモンスター素材。人魚族の魔法薬、サテュロスのミルク、エルフの工芸品、半神バッカスが直々に醸造したお酒……!」
「すみませんわかりました。もういいから……!」
「そうした宝物の具体的なところまでは知られてないでしょうが、農場に攻め込んで征服すれば、宝物は全部魔族のもの……ってスンポーです」
「…………」
エーシュマさんは、それを求めていると?
「まだ噂に踊らされている段階でしかないですけどね」
この世界のどこかに、凄まじいほどの宝が眠る理想郷っぽい場所がある。
そこを探し出し。
征服し。
宝をすべて魔族のものとするのだ!
的な。
「エーシュマのヤツは、農場の所在地さえ見つければすぐさま制圧できるつもりでいる。意気揚々と献策しに来た時は全力で叱りつけてやったのだが……!」
新人四天王。
魔王妃のお怒りすらものともせずか。
「始末が悪いことに、その計画を推進している四天王がヤツ一人ではなくて……!」
アスタレスさんのジットリした視線が、あっちを向いた。
そこには、農場で獲れた野菜を生のままガツガツ食っているグラシャラさんが。
見た目通りの豪快な食べっぷり。
「……いやアタシお腹の中の赤ちゃんの分まで食べないと」
「食いまくっていることを責めてるんじゃない! お前推薦の新四天王までアホな計画に同調していることを謝れと言っているんだ!!」
「ごめんなさいー」
グラシャラさんも魔王妃になったからには四天王を引退して、後継者を選出しなきゃいけないのは自明の理。
そのグラシャラさん後任の四天王まで農場攻めに賛同していると?
「新四天王二人の強力な推進で、聖者様の農場を探索し、侵攻する作戦は今にも承認が出そうなのです! 魔王様が政務に専念するようになり、魔王軍の直接指揮から下りられたことも痛く……!」
「ゼダン様から魔王軍の統帥権を委任されたベルフェガミリアの怠け癖で状況が遅滞している感じだな。アイツの怠け癖で新人どもを抑えられないって見方もあるけど」
状況はわかりました。
で。
俺にどうしろと?
「私やゼダン様で直接叱責し黙らせてもよいのですが、ヤツらはこれからの魔王軍を担っていく柱石。度々このような世迷言を語られては困りますし、また聖者様に迷惑がかかるかもしれません」
「だからここは徹底的に打ちのめして、聖者さんにチョッカイ出す恐ろしさを教えてやりたいと」
とまあ、そんな感じで新四天王の皆さんを農場にご招待することになった。
* * *
結果として想像以上に可哀相なことになった。
向こうは、こっちを征服する気満々で来ているんだけど、こっちが用意したのはオークボ……、ではいきなりすぎて非情なので、その部下のウォリアーオークに任せた。
三秒持たなかった。
新任でやる気に燃える四天王たちはなすすべなく吹き飛ばされて、一つもいいところなく負けた。
それでもまだ負けたわけではないと仰られるので、今度はゴブ吉の部下のスパルタンゴブリンに勝負してもらった。
今度は二秒で決した。
ゴブリンの猛スピード攻撃にまったく反応できずに終わり。
今度こそ心を折られて完全敗退となった。
「聖者様、今回ご迷惑をおかけしたお詫びに、この者たちを置いていきますので、しばらくの間好きなようにお使いください」
とアスタレスさんが言ってきた。
「農場も人手不足と聞きますので、助けとなれば幸いです。こやつらも労働を通じて四天王の自覚を養うことでしょう」
まあたしかに猫の手も借りたい状態ではありますが。
俺は有り難く受け入れることにした。






