205 理想郷の噂
オレの名はシャベ。
人間国に住む、しがない冒険者さ。
我が国が魔族に滅ぼされてからこっち。
お国がなくなってオレたちもどうなるかと一時期ビビりまくってたこともあるが、今では安心して稼業に精を出せている。
オレたちを征服した魔族さんたちは、一番上の王族教団をぶっ潰しただけで、あとは今まで通りでいい、というお達しを与えてくれた。
本当に安心した。
そんなわけでオレたち今日も、ダンジョンに潜って荒稼ぎだーい。
* * *
オレみたいな冒険者が、まず訪れるのが冒険者ギルド。
ここで貰った依頼を元に、ダンジョン内部での標的を決める。
「なーなー、おっちゃん。なんかいいクエストない?」
「こういうのはどうだ? 『ベルゼブフォ討伐』。ノルマ三体で、達成期間は今日中だ」
「またソイツらかよ!? ベルゼブフォばっかり狩るのもう飽きたぜ!?」
「そうは言ってもアイツら、弱いし入り口近くにうろついてるし狩りやすいだろ? 手軽さに優る優良物件はないぜ」
不満たらたらながらもクエストを申し込んだ。
ベルゼブフォの油は、切り傷によく効く軟膏に加工できると常に需要があるらしい。
「なあおっちゃん。もっと派手なクエストないのかよ? 達成するだけでオレの評価が轟き渡るようなさ! ……ダンジョン主の討伐とか?」
「おめえみてえな駆け出しがダンジョン主に出くわしたら瞬殺されるわ。逃げることすらできねえぞ」
「えー?」
「横着してねえで、実績を一つ一つ積んでいきな。あと二、三クエストをこなしたらランクアップして、一つ星ダンジョンに入れるようになるだろうからよ」
「ホントに!? よっしゃー!!」
こんな風にダンジョンに潜ってモンスターを倒し、人々に役立つ素材をゲットしてくるのが冒険者の仕事だ。
ダンジョンは各地の冒険者ギルドによって厳重に管理されている。
モンスターが漏れて外に飛び出すことがないよう、またギルドから認められた冒険者以外が勝手に入り込むことがないよう徹底して見張られている。
最近になって知ったことなんだが魔国――、魔族たちのいる国なんだが、あちらには冒険者ギルドがないらしい。
でもダンジョンはしっかりあるんだろう?
じゃあ向こうではどうやってダンジョン管理しているんだ?
と疑問が浮かぶんだが、その辺りはあっちの王様――、つまり魔王が直接やっているらしい。
まあ、人間国は魔国に滅ぼされちゃったし、今や魔王はオレたちの王様でもあるんだけど……。
* * *
「魔王軍は、オークやゴブリンといった擬人モンスターを戦力として使うからな。国が直接管理した方が何かと都合がいいんだよ」
ダンジョン潜って依頼のあったモンスターを狩り、クエスト達成して、一日の終わりに酒場で飲む。
それが冒険者のスタンダードなスタイルだ。
受付のおっちゃんも業務を終えて、オレの向かいで飲み食いしている。
冒険者業界の事情を知るに、このおっちゃんほど頼りになる知恵袋はいない。
「その魔王軍も、宿敵人族軍を滅ぼしたことで軍縮が進みつつある。ダンジョンの管理も民営に委託して、より自由に開放しようって話も出てきてんだよ」
「そしたら……!?」
「魔国にも冒険者ギルドができるかもな。そしたらお前さんもいつの日か、魔国に行って魔国のダンジョンに潜れるかもな? あっちのダンジョンはまだまだ未開拓だ、想像以上のお宝が眠っている可能性もある」
おおー!
なんか興奮する話だぜ!
人間国が滅ぼされて一時はお先真っ暗に感じていたんだが、むしろ夢が広がってるじゃねえか!!
魔王様万々歳だぜ!
「それに伴ってもう一つ、夢のある話があるんだが聞くか?」
「聞く聞く! 姉ちゃんお酒追加ー!」
一杯奢りにつき情報一つがオレとおっちゃんの間でのルールだ。
おっちゃん、この手で他の冒険者にもタカって毎日ただ酒にありついているらしい。
「ここ最近、まことしやかに噂になっている話さ。この世のどこかにあるという、しかしどこにあるかは誰も知らない……!」
「?」
「聖者の農場」
なんだそれ?
オレはどっちかっていうと農場よりダンジョンの話が聞きたいんだがな?
「最後まで聞けよ。そういう秘密の場所が、どこかにあるって話だよ」
「単なる空想話じゃねえの?」
「そうとも限らない実証がいくつかあるんだ。お前あれ知ってる? バッカスの巫女」
「酒売り歩いてる美人の姉ちゃんたちだろ?」
「そう。アイツらは半神バッカスを信仰する民間宗教だ。つい先日、アイツらの連絡網に、こんな急報が駆け巡ったらしい」
聖者の農場に行く人、募集。
と。
「バッカス教団の長バッカスは、遥か昔に生まれた人と神とのハーフ。今のご時世で直にご尊顔を拝することのできる唯一の神だ。その神のお達しとなれば……」
「信憑性はある?」
「実際に、その募集に応えたバッカスの巫女たちは姿を消し、以後まったく行方知れず……。聞くところでは教祖バッカスと共にドラゴンで連れ去られたって目撃情報もあるらしい……!」
「えー?」
それはさすがに話が大枠すぎて……。
眉唾かなって印象特盛なんだけど……!
「ドラゴンが出てくるのはさすがにウソ臭い!!」
「そのドラゴンで思い出した話があるんだがよ。こっちは目撃者がたくさんいて確実に本当の話だ」
おっちゃんはもったいぶりつつ話す。
「まだ人間国が滅びる前の話、人族軍と魔王軍が最前線でぶつかっていたところに、ドラゴンが乱入してきたって事件があったんだけど、知ってる?」
「知らない」
「オレら冒険者とは別の世界の話だけど、大事件だから知っとけよ。世事に耳聡いのも一流冒険者の条件だぞ」
「で、ドラゴンが乱入して来てどうしたの?」
おっちゃんの話によると、そのドラゴンは戦い合う人族魔族両方に向けて言い放ったらしい。
――自分は聖者の下僕だ。
――聖者に仇なす者は容赦なく焼き尽くす。
と。
「そのドラゴンと、バッカス教団を連れ去ったっていうドラゴンが同じヤツなら、聖者の農場の実在に信憑性が湧かないか?」
「こじつけ臭い気もするが……。でもドラゴンがそう言ったっていうなら少なくとも聖者ってヤツはいるのかもな?」
「実際、前線でのドラゴン騒動を報告された王様は、聖者を探索するよう人員を放ったんだそうだ。聖者を家来にしてドラゴンをけしかければ、それだけで魔族は全滅だって」
しかし、聖者が発見されるよりも早く魔族側が大侵攻を行い、人間国は滅亡してしまった。
「噂によると探索隊の中には今なお王からの命令を遂行し、聖者を探し続けている者もいるんだそうだ」
「え? なんで?」
人間国は滅んだんだから、任務達成しても誰からもご褒美貰えないじゃん?
「それでもやるのが忠義ってヤツなんだろうよ。他にも聖者の農場に行きたがっているヤツはたくさんいる」
「なんで?」
「だって聖者の農場だぜ? ドラゴンを従える人が支配する土地だぜ? そこに行けば何でもある、どんな願いでも叶うという!」
「誰が言ってんのそれ?」
「とりあえず、バッカス教団に広まった募集の詳しい謳い文句だがよ……」
――何でもあります聖者の農場!
――美味しい食べ物、綺麗な衣服!
――そして何より飲んだこともない珍しいお酒!
――今までにないハイグレードな暮らしがしたい巫女よ、バッカスと共にRAKUENへ!
「……ときたもんだ」
「ハイグレードな暮らし……!」
なんて耳に心地よい響き。
こんなの聞いたらオレでも興味を引かれてしまう。若干詐欺臭いけど。
「それにな、噂話に何度も出てくるドラゴン。オレはこれを聞いて思うんだよ」
「何を?」
「聖者の農場にはあるんじゃないかな? ドラゴンが主をやってるダンジョンが」
「ええッ!?」
主ありダンジョンは、それだけで最上等級の五つ星に格付けされるんだろ!?
危険度も、推測されるお宝の量も段違い!
「主ありダンジョンの危険度は、完全にダンジョン主の性格次第だ。中にはあの、グラウグリンツドラゴンのアレキサンダー様みたいに率先して冒険者を受け入れてくれるドラゴンもいる」
知ってる知ってる。
アレキサンダー様が主やってる山ダンジョン『聖なる白乙女の山』は人間国最大最強最高難易度。得られる利潤も最優良という、冒険者ギルドの格付け基準を打ち破って六つ星をつけられた究極ダンジョン!
「それと同じレベルのダンジョンが、聖者の農場にあるかもって……!?」
「可能性は高い。ドラゴンはダンジョンにしか住まないからな。そのドラゴンが聖者の下僕なら、つまりは聖者が支配するダンジョンってことだ」
人が支配するダンジョン……。
管理されて整ってるんだろうなあ……。
「だからギルドも、限られた腕利き冒険者どもに密かに緊急クエストを出したらしい」
「聖者の農場を見つけろ、って?」
そこに眠っているかもしれない多大な利益に預かるために。
「……おっちゃん、オレ決めたよ」
「えっ? 何を?」
「聖者の農場はオレが見つける!! オレが理想郷を発見した第一人者として歴史に名を刻むのだー!!」
そうしたら、こんなところでグズグズしていられない!
さっそく旅に出るぞ、聖者の農場を見つけるまでは帰ってこねえ!!
「えええッ!? ちょっとその前に支払いは!? ここの飲み代、奢ってもらうつもりで来たのに! ちょっと! ちょっと待ってぇぇーーッ!?」
何かおっちゃんの大声が背中に届くが、きっとオレへの激励の言葉だろう!
待っててくれおっちゃん!
オレ必ず聖者の農場を見つけて帰るから!!






