191 ブレーメンの音楽隊
今回は、ヴィールが始めた遊びの話をしよう。
* * *
「ポチ!」
「ワンワン」
「サカモト!」
「ヒヒーン」
「ヨッシャモ!」
「クックドゥードゥルドゥー」
ヴィールがなんか動物たちと遊んでいる。
「よし! お前らいい音程だぞ! 次はピッチを上げる!!」
元はドラゴンの彼女であるが、今は可愛い美少女の人間形態。
目前に並べた動物たちに号令を発し、動物たちはそれに応えていなないている。
ヴィールの前にいるのは三体。
狼型モンスター、ヒュペリカオンのポチ。
遺伝子操作で作られたホムンクルス馬、ドラゴン馬のサカモト。
毎日健康タマゴを生み出すニワトリ型モンスター、ヨッシャモ。
この三匹……、三頭? 三羽?
とにかくコイツら、ヴィールの指示一つですかさず鳴き声を返すのはよく躾けられていると言えなくもないが。
コイツら元が賢いのでヴィールが躾けた手柄というのも、なんか疑問だ。
むしろヴィールの方がコイツらに遊んでもらっているのではないか?
「サカモト! お前だけテンポが速いぞ! ちゃんと他と合わせろ! ポチ、今の『ワワワンッ!』ってソロパートは花形なんだからもっとハッキリ明瞭に!!」
「何やってるのヴィールのヤツ?」
我が妻プラティも、ヴィールの始めた奇行に気づいてやってきた。
ドラゴンに指揮され合唱(?)している犬、馬、ニワトリ。
さぞや奇異な光景に映るだろう。
そろそろ解説が必要な頃かな? と俺も思っていたところだ。
「……ヴィールがね、俺が前いた世界にある昔話を聞いてね……!」
動物たちが音楽隊になることを目指して大都会へ旅するというアレ。
あの話を聞いてガッツリ影響を受けたというか……!
俺がうっかり話してしまったということもあるけれど……!
「ああなってしまったと?」
「そう」
動物を躾けて音楽隊を結成しようとしているヴィールである。
アニメにハマってギター買ったりする人の心理に通じるかもしれない。
「いいかお前たち! お前たちはおれが集めた最高のメンバーだ! 最高のメンバーで最高の音楽を作り上げるのだ!!」
このヴィールノリノリである。
「まず犬!」
「ワンワン(狼ですが)」
「次にロバ!」
「ヒヒーン(馬です)」
「そしてニワトリ!!」
「クックドゥー(シャモだが)」
「お前たちが歌えば、世界はお前たちに応えてくれる! 歌で世界を救うのだ!!」
ヴィールはどこに向かおうとしているのか?
「やっぱりダメだッ!!」
挫折するの早い。
「足りない! まだ足りない! このメンバーが世界を獲るには、一つ大きな欠落がある!!」
だからお前は何を目指そうとしているんだ?
「思い出してくれご主人様! ご主人様がしてくれた話では、音楽隊のメンバーは四匹だったはずじゃないか!!」
犬。
ロバ。
ニワトリ。
そして……。
「……猫か」
「そう猫! 猫が加わった時、我が音楽隊は完成する! 猫を! 猫をスカウトするのだ!」
でもウチ、猫に相当するような住人はまだいないけれど?
もしやここから新キャラ登場か?
* * *
「ワンワン!」
「ヒヒーン」
「クックドゥー」
「め、メェ~?」
サテュロス族のパヌが合唱隊に加わっていた。
「なんで?」
サテュロスと言えば山羊の獣人。
猫を新たに加えようとして、何故山羊を入れた?
「ぬぅん、やっぱりダメだ!」
ヴィールがいっぱしのマエストロ気取りで頭を抱える。
「猫のパートを山羊で代行できないかと試行してみたが、ダメだ。猫と山羊は、やっぱり違う生き物だ……!」
「そもそも私、山羊の獣人であって山羊そのものではないので……!!」
パヌもニッコリ苦笑するしかない。
「すまないパヌ。今回のオーディションで、お前のことは不採用という結果が出た。しかし、その理由は音楽性の不一致ということで、けっしてお前の才能が否定されたわけではない。これからも精進してメェメェし続けてくれ……!」
「はあ……! じゃあ私、乳製品作りの仕事に戻りますね……!」
そしてパヌは、無理やり連れ出された仕事場へと戻っていった。
……ゴメンね、忙しい中に。
「猫枠が埋まらない限り、おれの楽隊は完成することがない……! こうなったら、こうなったら……!」
お。
今度こそ新キャラ登場くる?
「おれ自身が猫パートに入る!!」
「なんでだよ!?」
お前ドラゴンだろ!?
ドラゴンと猫はあまりにも違う生き物すぎるだろ!?
「おれのイメージする猫パートを実現するには、おれ自身が表現するしかない。おれの楽隊最後のメンバーは、おれ自身が猫になることだ!!」
そしてヴィールは雄々しく変身するのだった。
* * *
「ワン!」
「ヒヒーン」
「クックドュー」
『に゛ゃー!』
「ワン!」
「ヒヒーン」
「クックドュー」
『に゛ゃー!』
楽隊が完成した。
した?
犬と馬とニワトリとドラゴン。
犬と馬とニワトリと猫、じゃなくてドラゴン。
この四匹(?)の鳴き声は、それ相応にリズミカルでアンサンブルであるが、一パートだけ、どうしても存在感が発揮され過ぎているというか。
天を衝き地を揺るがすほどの『に゛ゃー』が……!
『これだ! これこそおれの追い求めていたメロディーだ!』
とドラゴン形態のヴィールがノリノリで『に゛ゃー』。
まあコイツ、いつもヒトが働いてる時に昼夜の区別なく寝てるし。
興味のないことには徹底的に無関心だが、自分がかまって欲しい時にはウザいぐらいに引っ付いてくるし。
好奇心旺盛な割りには意外とビビりだし。
けっこう猫っぽいところは性格的に多いのでは?
「ワン」
「ヒヒーン」
「クックドゥードゥルドゥー」
そして依然としてヴィールにつき合わされるポチ、サカモト、ヨッシャモたちが「まだ解放されませんかね?」という表情で俺のことを超見ていた。
すみませんね。
ヴィールが性格的に猫っぽいというのであれば、すぐ飽きてくると思うんだけど。
猫は飽きっぽい。
* * *
そしてヴィールが例の童話を元ネタに、さらに違う遊びを始めた。
『ぐおー! かいぶつだぞー!!』
ヴィールがドラゴン形態で凄んでいる。
『見たこともない怪物だぞー! 恐ろしい怪物だぞー!』
ドラゴン化して巨大になったヴィールの頭の上にサカモトが乗って、その上にポチが乗って、一番上にヨッシャモ乗っている。
これをシルエットだけで見せられたら得体の知れない怪物に……。
……見えるなんて、あるわけない。
あくまで頭に変なものを乗せたドラゴンにしか見えない。
『がはははは! どうだご主人様! おれ強そうだろ!? 謎の恐ろしい怪物っぽいだろ!?』
「うん、そうだね」
ただヴィール。
もし今のお前たちが恐ろしい怪物に見えたとしても。
その原因の九割以上はお前一人から発生してるんだけどな。
「上に何が乗っかっていようとドラゴンである時点で恐ろしい怪物でしょ?」
「プラティ! 黙って!!」
ヴィールの頭の上でポチ、サカモト、ヨッシャモの三匹が揃って悟り切った表情をしていた。