186 機能説明・陸遊記その二
※本編更新の前にお報せ
本作『異世界で土地を買って農場を作ろう』がオーバーラップノベルス様より書籍化されることが決定しました。
また同時に幻冬舎コミックス様にてコミカライズ企画も進行中。
詳細は活動報告などでご確認ください。
オークのハッカイです。
地上を旅する人魚族の王子、アロワナ様のお供をしています。
今日は、一時旅を中断しています。
何故ならまたヤツがやって来たからです。
天神に属する、知恵の神とかいうヘルメスが。
『今日は、ソンゴクフォンに搭載された装備や能力の説明に来た』
何だかこの神、楽しそう。
ソンゴクフォンを押し付けに来た時は『何だこの明確な形を伴ったトラブルは!?』と思ったものですが。
パッと見、問題児然としたソンゴクフォンはパッファ様の前では素直だし、戦闘になればダントツで有能ですし、私たちの旅の心強い助けになっています。
今も、農場での仕事を終えられ合流したパッファ様のおっぱいに埋もれてゴロニャン言っております。
「姐さ~ん。ヤベーっすわ。このおっぱいマジヤベーっすわ~」
「あんまり顔擦りつけるとしばくよ」
あっちで百合の花が咲き誇っているうちに、私とアロワナ王子で神を応対。
というか、この神。気軽に地上に降りすぎじゃないですかね?
『……というわけで! 造形神ヘパイストス兄さんの手で大改造されたソンゴクフォンには、従来の天使にはない新発明が搭載! 日常生活に対応するためのコンパクト機能をテーマに、合理性を追求した機体だ!!』
「ほうほう」
『こないだは当人を押し付けるばかりでロクに説明もできなかったが! 本日は、それらをしっかり教授するので、よく覚えてキミらの旅の助けにしてくれ!!』
「ほうほう」
『キミらにソンゴクフォンの指導を任せたからには、私にもキミらをサポートする義務が発生するからね! 神として! アドバイスもジャンジャンさせていただくよ!!』
「ほうほう」
アロワナ王子に真面目に聞く気はないようです。
これは、テキトーに聞き流して一刻も早く帰ってもらおうという方針のようです。
『そもそも天使とは何か? それは我がアホ父ゼウスが地上侵略の野心からヘパイストス兄さんに作らせた生体兵器。たった一体でも地上を滅ぼせるという超絶殲滅力の塊……!』
「そもそも論から語り出した!?」
長くなりそうですな……。
* * *
と言うわけで割愛。
『ではここからいよいよ、ソンゴクフォンの個別兵装を説明していきたいと思う』
「やっと本題か……!」
長かったですね。
でもヘルメス神の説明によって、ソンゴクフォン復活の経緯とか、そこに我らが聖者様まで関わっていたとか意外な情報を得られました。
そこのところもっと詳しく聖者様にも窺いたいところです。
『では、実際に見てもらった方がいいだろう。ソンゴクフォン、ちょっとこっち来なさい!』
と神に呼ばれるソンゴクフォン。
しかし。
「え~ッ? あーし、もっと姐さんとハグハグしたいんでぇ~?」
ソンゴクフォンの中では、パッファ様>神、という図式が出来上がっていました。
仕方ないのでソンゴクフォンの中で神を超える存在、パッファ様がみずから促します。
「いいから行ってやりな。好きなだけ語らせないと、あの神さん帰ってくれないだろ?」
「うぃ~っす」
不承不承、という感じでソンゴクフォンこっち来た。
『ソンゴクフォン! アレを皆さんに見せてやりなさい!!』
「わかっしゃーす」
ゴソゴソ……。
『何故ズボンを脱ごうとする!? お前は何を彼らに見せる気なんだよ!? 棒だよ棒! 棒を出すんだよ!』
「あー、あっちかー」
ソンゴクちゃんは、何やら耳の穴をゴソゴソすると、中から何やら取り出します。
それは木の棘のように小さくて細い何かしらでしたが……。
「伸びろソンゴクロッド、アタックモード」
ソンゴクフォンが呪文めいたものを唱えると、急にその木棘が巨大化し、一本の棒となったではないですか。
しかも総身が朱に塗られており、所々に装飾的な彫りものも施されて匠的な逸品であることがわかります。
農場のエルフさんたちが見たら沸き返りそう。
『これがソンゴクフォンのメイン兵装、DXソンゴクロッドだ!』
「見たところ、逸品であるのはまちがいないが、ただの棒では?」
剣とか槍の方が威力ありそう……。
と思う私たちですが……。
『それはどうかな? ソンゴクフォン見せてやりなさい』
「曲がれソンゴクロッド、ブラスターモード」
ソンゴクフォンの呪文に応じるように、棒は独りでに変形し、妙な形に変わりました。
何だろうあの、L字型……? というのか? 棒がある部分から折れ曲がって、取っ手になったような……?
「ブラスターモード、収束マナカノン発射!」
ソンゴクちゃんは、折れ曲がった部分をもって、棒先を天空へ突きつけます。
そこから光が、天空向けて放たれます。
「あれは……!?」
「旧魔都でノーライフキングや城壁をふッ飛ばした……!?」
あの時はバタバタして詳しく見ていませんでしたが、ソンゴクフォンはあの閃光攻撃をこうやって放っていたんですか!?
『ブラスターモードは、収束マナカノンを放つソンゴクロッドの銃形態だ! ソンゴクフォンは、この二形態を使い分けることで通常の天使より身軽に効率的に、戦闘能力を維持することが可能!!』
「おお……!!」
『ちなみに、ロッドはソンゴクフォンのマナ動力炉からエネルギーを得ているのでソンゴクフォン以外には扱えないよ』
なんだかよくわからないが、とにかく凄いということはわかりました。
何故でしょう?
アロワナ王子も私も、あの棒の変形過程を垣間見た瞬間、瞳の輝きを消すことはできません!!
「何だかわからないがカッコいい! カッコいいぞ! 男のロマンを感じずにはいられない!!」
『だろう!? やっぱりわかるよね男なら! 私もそう思ってヘパイストス兄さんに駄々こねまくって変形機能搭載してもらったんだけど! 兄さんも最後ノリノリだったよ!!』
話が盛り上がっております。
その様を、パッファ様とソンゴクフォンたち女性陣が冷めた目で眺めておりました。
「で、ではソンゴクちゃんの装備には、まだまだあっと驚く変形機能が!?」
『それはない』
肩透かしを食らってアロワナ王子ズッコケる。
なんだこれだけなんですか?
変形すると言っても棒から銃に変わるだけではボリューム感がありませんね?
『ふむ、だがよく考えてみてくれたまえ? ソンゴクフォンはつい最近復活したばかり』
ヘルメス神の指摘を受けて、私たちは改めてソンゴクフォンに注目しました。
「あー? 何ガンつけてんですかー? やるっすかー?」
…………。
『そんなソンゴクフォンに、世界を滅ぼす天使の力をいきなり全部委ねるのは危険すぎるだろう? そこでヘパイストス兄さんにお願いして、彼女のいくつかの機能にロックを掛けてもらった』
「ほう!」
『彼女が精神的に成長し、力を正しく扱えると認められた時アンロックされ、新フォームが発動可能となる仕組みとなっているのさ!』
「新フォーム!?」
何だか心躍る響きですな!!
『そういう心の成長を促すためキミたちにソンゴクフォンを押し付け……、もとい託したのだから、指導よろしく頼むよ。キミたちが真心をもって接すれば、ソンゴクフォンはそれだけ成長できるのだから!!』
でも、本来はアロワナ王子が人魚王となられるための修行が目的の旅。
そこにソンゴクフォンという異物混入で、方向性がズレそうな気が……。
「ズレなどない」
アロワナ王子は、ハッキリ言います。
「私もソンゴクちゃんも、要は今より成長すればいいわけだろう? 目指す方向は一緒ではないか。いいや私たちだけじゃない。ハッカイも!」
私?
「パッファも!」
「アタイもかい?」
「皆で成長していけばいいのだ! 我々は仲間だ! 皆で進んでいけばいいだろう!!」
さすが王子! 言うことの器のデカさが違いますね!
そうです、我々は旅を通して心を一つにする仲間! 皆で一歩ずつ進んでいきましょう!!
『そう! それでこそキミにソンゴクフォンを押し付けた甲斐があった! キミはそういう人格者だと私は見抜いていたよ!!』
「そしてソンゴクちゃんの新フォームを開眼するのだ!! 目撃するのだ!!」
結局そこが核心なんですかい!?
でもわかります! 聞くからに心躍るフレーズですもんね新フォーム!!
「で、どういう基準で変容するのだ新フォーム!? パワー重視とかスピード重視とか!? 少しぐらい先に教えてくれてもいいだろう?」
『それはネタバレと言うものだよアロワナくん……! 環境準拠の新フォームもアリかもね? 空中戦フォームとか水中戦フォームとか……!』
「水中戦は燃えますな人魚的に!!」
『あと新フォームに変わるためのアイテムもね、ヘパイストス兄さんと相談してるところなんだ! カードとかメダルとか指輪とか! どれにしようか悩むよね!!』
そんな盛り上がるアロワナ王子やヘルメス神に、パッファ様の冷めた視線が注がれていました。
「……男って、アホだなあ」