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182 姉妹対決

 結果。

 鎧袖一触。

 正統五魔女聖なる人魚の女の子たちは、パッファ一人に無双されて蹂躙された。


「「「「「うぎゃあああああああああッッ!?」」」」」


 パッファ強い。

 今まで人魚組の戦闘方面はランプアイやプラティがするばかりで、彼女が戦っているところを見たことがなかったが、やっぱ強い。


『凍寒の魔女』の名は伊達じゃない。


 魔法薬を使う素振りすら見せずに周囲を一気に氷点下にまで低温化させ、寒さで身動きが取れなくなった正統五魔女聖とやらを衝撃魔法薬で一掃。


 圧倒的な差を見せつけた。


「パッファさん、勝手に先走らないでください。相手はまだ挑戦を口にしたばかりではないですか?」


 ランプアイが形ばかりの抗議。


「それで充分だろ? 戦いの意志を示したからにはいつでも殴っていいってことだ。のんびりしている方が悪いのさ」


 怖い魔女怖い。

 血の気の多い不良みたいな思考法だ。


「旅するアロワナ王子に同行していると荒事も多くなるから、ここでできるだけ戦闘の勘を取り戻そうと思ったのに、全然手応えがねえ。練習相手にもならないぜ」

「それで珍しく好戦的だったんですね」

「見たとこアイツら全員、魔法薬学校の学生って感じだし。魔女とかいうのも自称かなあ?」

「でしょうね。いかなる名門であろうと学校の優等生レベルで魔女呼ばわりはされないでしょうし。逆立ちしてもパッファさんには勝てません」


 格の差を見せつけておられる。

 そこへプラティが現れた。


「エンゼルが中心になって立ち上げた、学生の六魔女ファンクラブってところじゃないの? そんな相手に大人げないわねパッファ」

「お、プラティ」


 プラティは、スルリとパッファの横を素通りし、妹さんの前に立つ。

 ちなみに妹さんたちは五人まとめて氷で固められていた。


「エンゼル様ー! 氷! 凍って抜け出せませんー!」

「ベールテール何とかしなさいよ『火の魔女』なんでしょう!?」

「中和剤が全然効かないーッ!? このままじゃ使い切っちゃうーッ!?」

「ああ、なんか眠たくなってきた……!」


 一塊に凍らされてグチャグチャしている五人に、プラティはサッと魔法薬を振りかける。

 それだけでパッファの氷は解け消え、正統五魔女聖は解放された。


「エンゼル久しぶりね。……と言いたいところだけど、こんなところで油売ってるぐらいなら学校で勉強するべきなんじゃないの? このザマじゃ」

「プラティ姉様! 今こそ勝負!」


 とエンゼルがかまえをとった瞬間、プラティの魔法薬の直撃を受けて、その場で十回転ぐらいしていた。


「アンタがアタシに挑もうなんて十年早いわよ。そんなことのためにヘンドラーを尾行してここまで来たってわけ?」

「ぐへえ……!?」


 おかしい。

 久々の姉妹再会なんだから、もっと感動的でもいいはずなのに。

 なんでこんな殺伐としている?


「ゴメンね旦那様。コイツはエンゼルと言って、アタシの妹なの」

「うん、それは聞いた」

「我が妹ながら調子に乗って度々トラブルを引き起こすのよね。逐一叱ってはいるんだけど、なかなか治らず今回も……!」

「そこは実に似た者姉妹だと思う」


 そして。


「エンゼル。これはいったいどういう風の吹き回し? アンタがアタシを襲撃しに来るなんて?」

「うぐぅ……!」

「アタシたちそこまで仲のいい姉妹じゃないけれど、わざわざ陸まで血眼で追いかけてくるほど険悪な仲でもなかったと思うけど。アタシがお嫁に行ってから何があったの?」

「お……!」


 お?


「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが悪いんじゃない!! アタシに黙って勝手にいなくなって!! アタシがどれだけ心配したと思っているのよ!?」


 おお。

 これは拗ねるツンデレ妹のパターンか?


「おかげで政治的な厄介事が全部アタシに回ってくるし! その心配で夜も眠れないわよ! ストレスの日々よ!! ハゲそう!!」


 と思ったら違いそう。


「お姉ちゃんが魔族と結婚しなかったせいで国が荒れてるのよ! パパは毎日のように批判されてるし! デリカシーのないバカが、魔族をなだめるために魔王の側室になれとまで言うのよ!! アタシに!!」


 それを聞いて、俺はヘンドラーを覗くと、力強く頷き返された。

 彼が最初に来た時に言っていた魔族侵攻論争の件か。


「アタシ絶対嫌よ! まず側室なんて嫌だし! しかも魔王よ! 魔族なんて臭いしバカだし、オニオコゼみたいな不細工な顔してるに違いないわ! だから嫌!! アタシよりもお姉ちゃんが魔王の側室になればいいのよ! 最初からそういう話だったんだから!!」


 つまりこういうことか。

 昨今の情勢変化によって人魚国に不安が広がり、魔族を極端に恐れる声が大きくなった。

 それに際し、無責任な一派が騒ぎ出す。

 魔族をなだめる手段として、第二王女エンゼルを魔王の側室に差し出せ、などと言い出す。

 それを聞いたエンゼル本人は大慌て。魔王の側室など絶対嫌。

 だから姉のプラティを身代わりにしようと。

 そのために決闘して倒そうと。


「清々しいまでに最悪だな、あの子」

「学生って案外そういうものでしょう」


 俺とヘンドラーは、並んで呆然としていた。


「そんなことだろうと思ったわよ。まったくしょうのない妹……!」

「お姉ちゃあん……!!」

「その執念で、ここを突き止めた成果だけは褒めてあげましょう。そのご褒美に……!」

「ご褒美に? 何!? お姉ちゃんが魔王の側室になってくれる!?」

「ならないわよ! アタシはもうこの農場の旦那様に嫁いじゃってるの! ……ご褒美に、魔王さん当人のコメントを頂きましょう」


 あっ、魔王さん。

 今日も遊びに来ていたんだ。


「さて魔王さん? このアホ妹の見苦しさを魔王さんもご覧になっていたことと思いますが、どうする? コイツ側室にする?」

「……いや、何度も言っているように我ら魔族は人魚族に対して害意はない。それに側室の件に関しては、我は冥神ハデス様より祝福を頂いているからな」


 冥神ハデスは、神々の中でも珍しく浮気をしない性格で、自分が祝福を与えた者にもそれを強いているのだ。


「グラシャラの時に何とか例外を認めてもらったが、これ以上例外を増やせないだろうし増やす気もない。正式に輿入れを打診されても、以上の理由で丁重にお断りするしかない……!」

「だそうです! よかったわねーエンゼル!!」


 エンゼル自身は、眼前に現れた偉丈夫が魔王その人だと理解できず、呆然とするばかり。

 仕方ないので俺が代わって魔王さんをねぎらわなければならなかった。


「いつも御面倒おかけします魔王さん」

「いいや、聖者殿とアロワナ王子のためと思えばこの程度」


 一方、エンゼルはだんだん事態を飲み込めてきたのか、表情がキラキラと輝きだす。


「……や」

「や?」

「やったー! さすがお姉ちゃん! こんなにも簡単に解決してくれるなんて大好き! さすが私の姉! 愛してる!!」

「この現金さは、アタシが嫁に行く前と少しも変わっていないわね……! まあアタシも久々に会った妹を助けてあげられるのは嬉しいけれど……」


 プラティが、薄っすらと笑った。


「自分で蒔いた災いの種は、自分で収穫するのよ?」

「へ?」


 エンゼルの後方に、二人の屈強な女魔族が立っていた。


 アスタレスさんとグラシャラさん。

 魔王妃二人。


「そこの人魚の娘、さっき言ったことをもう一度私たちの前で言ってみろ?」

「魔王様が臭くて、バカで、不細工だとぬかしやがったか? アタシたちの魔王様に?」


 今日はご一家で訪問なさっていたかー。

 そして魔王さんLOVEの二人に聞こえるところで、魔王さんを罵ってしまったエンゼル。


 ……。

 ……終わったな。


「プラティ、一応聞くけれど助けなくていいの?」

「あの子のやたらと舌禍を呼び込む癖は学校卒業する前に治しておいた方がいいから、ちょうどいい薬になるでしょう」


 プラティのドライな妹観だった。


「場合によっては我らと共に魔王様にお仕えすることになっていたかもしれんのだ。せっかくだから今日は魔王妃一日体験と行こうではないか」

「お前も人魚国の王族ならいい経験になるだろうよ! もっとも、お前みたいな軟弱がアタシたちと同じ一線に一日でも居続けられるとは思えんがな!!」


 アスタレスさんに右肩を、グラシャラさんに左肩を掴まれズルズル引きずられていくエンゼル。

 これから元魔王軍四天王二人による地獄のしごきが始まるのだろう。


 アスタレスさんはかなりお腹も大きくなってきているのに体動かして大丈夫かな?


「待って! 助けてお姉ちゃん!! お姉ちゃん! お姉ちゃあああああああんッッ!!」


 エンゼルの助けを求める悲鳴は、少しずつ遠く小さくなっていった。

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